目次
- ■ はじめに
- ■ 現況有姿とは
- ■ 現況有姿=契約不適合責任ではない
- ■ 売主の説明義務
- ■ トラブルを防ぐ
- ■ まとめ
■ はじめに
不動産売買契約において「現状有姿」という言葉を耳にされたことがあるかと思います。
この「現状有姿」とは不動産の売買方法のひとつで、「現況有姿」と呼ぶこともあります。
ちなみに不動産業界では「現状有姿」と「現況有姿」本来は違う意味の言葉なので、それぞれの目的に応じて使い分けるのが正しいです。しかし、同じ意味で使われることが一般的になっています。
では、不動産売買契約で「現状有姿」という条項が設けられていた場合、引渡し後に建物に何らかの不具合が見つかった場合はどのように処理されるでしょうか。
そこで、今回は「現状有姿」の注意点を紹介いたします。
※このコラムでは「現状有姿」として統一させていただきます。
■ 現況有姿とは
現状有姿とは、
不動産売買契約締結後、引渡しされるまでの間に対象不動産の現状に何らかの変化があったとしても、売主はそのままの現状で引き渡せばよい。
というものです。
ただし、不動産売買における現況有姿については、法律で定められているわけではなく、現状有姿として契約した場合であっても、不動産の売主が買主に対して物件の状況を説明する義務を有していることには変わりませんので売主は十分な注意が必要となります。
■ 現況有姿=契約不適合責任ではない
現況有姿での売買契約は「本件建物を現状有姿で引き渡す」という条項が記載されています。このような条項を「現状有姿特約」といいます。
現状有姿特約は、法令上その内容がしっかりと定義されているわけではありません。
では、「現状有姿特約」において、引き渡し後に建物に何らかの不具合が見つかった場合に、買主は、売主に対して、民法の定める契約不適合責任を追及できるのでしょうか。
東京地裁平成28年1月20日判決
【事案の概要】
土地・建物を買い受けた原告が、建物に瑕疵があった等と主張し、売主たる被告に対し、損害賠償請求等を行った事案です。
なお、売買契約書においては、「売主は、後記売買土地上または地中に存するブロック塀、ネットフェンス、コンクリート敷、ゴミ置場施設・・・に付帯する電気、ガス、給排水設備、銃器・備品等一切を、引渡し時の現状有姿のまま買主に引き渡す。」旨の現状有姿特約が規定されている。
被告の売主は、この現状有姿特約は、本件建物を引渡し時の状態でそのまま引き渡すという意味であり、少なくとも現状から知り又は知り得る現状については、売主は瑕疵担保責任を負わないという意味であると反論しました。
【判決の概要】
「一般に現状有姿売買とは、契約後引渡しまでに目的物の状況に変動があったとしても、売主は引渡し時の状況のまま引き渡す債務を負担しているにすぎないという売買であると解される」
と判示されているように、「現状有姿」と契約書に記載されていても
● 目的物の品質に関する合意ではない。
● 買主は、目的物のあらゆる不具合を受け入れなければならないということではない。
として、瑕疵があれば、買主は、売主に瑕疵担保責任を追及することができるされています。
なお、改正民法における契約不適合責任でも同様です。
このような判例から実務では、「現状有姿のまま引き渡す」という条項は、現況有姿=契約不適合責任ではないということです。
そのため、不動産売買取引の実務では、「現状有姿売買の特約」と「契約不適合責任を負わない特約」を併せた特約が記載されていることが多くなっています。
そのため売主、買主双方から見た場合、「現状有姿売買の特約」と「契約不適合責任を負わない特約」を併せた特約が記載されている場合には、売買契約を締結する前に専門業者による点検を行い、設備などの状況を明確にすることが重要だといえます。
■ 売主の説明義務
現状有姿売買とした場合、売主は買主に対し、建物の状態について説明しなくてもよいということにはなりません。
売主は、通常の売買契約と同様に対象不動産の建物の状態・状況等について書面を用いて契約時に説明をする義務があります。
不動産売買契約書には、次のとおり抵当権の抹消についての条項があります。
(設備の引渡し・修復)
第●条 売主は、買主に対し、別紙「設備表」中「設備の有無」欄に「有」とした各設備を引渡します。
2 売主は、買主に対し、前項により引渡す設備のうち、「故障・不具合」欄に「無」とした「主要設備」にかぎり、使用可能な状態で引渡します。
3 売主は、買主に対し、設備について契約不適合責任を負いません。ただし、前項で「設備表」に「故障・不具合」欄に「無」とした「主要設備」については、売主は、買主に対し、引渡完了日から7日以内に通知を受けた故障・不具合にかぎり、修補する責任を負います。なお、修補の範囲等は、別表(修補範囲等)中「設備の修補範囲等」の記載によります。
4 売主は、買主に対し、「主要設備」のうち「故障・不具合」欄に「有」とした「主要設備」、「主要設備」以外の「その他の設備」および「設備表」に記載のない設備については、故障・不具合があったとしても責任を負いません。
この対象不動産の建物の状態・状況等の説明を怠った場合には、説明義務違反として責任追及をされます。
また、不具合については、契約不適合責任を理由として責任追及されますので注意が必要です。
■ トラブルを防ぐ
不動産売買契約において一度や二度見ただけでは、その建物に何らかの不具合が存在しているかなどわかるはずもありません。
そのような場合には、インスペクションを利用することも考えてみる必要があります。
インスペクションは、売主だけでなく買主も利用することができます。
売主・買主間のトラブルを防ぐ意味でもインスペクションを考えてみることをおススメします。
■ まとめ
建物付きの売買契約では、現状有姿特約が設けられることが多く、現状のまま引き渡すという言葉から、後日不具合が判明しても売主に対して責任追及できないと考えている買主も少なくないようです。
しかし、現状有姿特約があったとしても、契約内容に適合しない状態の物件が引き渡された場合には、契約不適合責任を追及することができます。
ご自身のケースが売主の責任追及が可能なケースであるかを判断するためにも、まずは不動産売買契約を締結する前に専門家に相談することをおススメします。
■記事の投稿者 飯島興産有限会社 飯島 誠
私は、予想を裏切るご提案(いい意味で)と、他者(他社)を圧倒するクオリティ(良質)を約束し、あなたにも私にもハッピー(幸せ)を約束し、サプライズ(驚き)のパイオニア(先駆者)を目指しています。
1965年神奈川県藤沢市生まれ。亜細亜大学経営学部卒業。(野球部)
東急リバブル株式会社に入社し、不動産売買仲介業務を経て、その後父の経営する飯島興産有限会社にて賃貸管理から相続対策まで不動産に関する資産管理、売買仲介、賃貸管理を行う。
コラムでは不動産関連の法改正、売買、賃貸、資産管理について、実務経験をもとにわかりやすく発信しています。
●資産管理(相続・信託・後見制度)につきましては、こちらをご参照ください。
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