
目次
- ■ 賃貸現場で今、何が起きているのか?
- ■ なぜ、規約で禁止しても「置き配」が止まらないのか?
- ■ オーナーが知っておくべき、国交省ガイドラインの「不都合な真実」
- ■ 規約違反の置き配を放置する「3つの致命的リスク」
- ■ 【今後の検討事項】貸主・借主で進める「新・受取インフラ」の選択肢
- ■ まとめ
■ はじめに
賃貸現場で今、何が起きているのか?
賃貸経営を取り巻く環境は、この数年で劇的に変化しました。
なかでも、ネット通販の爆発的な普及に伴う「荷物の受け取り方法」を巡る問題は、もはや一入居者の利便性の話に留まらず、物件の安全管理や資産価値を左右する経営課題へと変化しています。
約2年前、国土交通省などが再配達削減(物流の2024年問題対策)の切り札として「置き配」を推進する方針を大々的に打ち出しました。
これにより、世間の認知度は一気に高まりましたが、現在の賃貸現場では、当時予測しきれなかった深刻な副作用が噴出しています。
それが、
「国が推奨しているのだから、アパートの廊下に荷物を置いてもいいはずだ」
という借主の『誤解』と、それによる置き配の無法地帯化です。
管理規約や契約書で「共用部への私物放置禁止」を明記しているにもかかわらず、なし崩し的にルールが破られ、苦慮されている貸主・管理会社様が後を絶ちません。
「入居者のモラル向上のための注意喚起」だけでは限界を迎えている今、貸主と借主がそれぞれ歩み寄り、新しい時代のインフラやルールを検討していく時期に来ています。
本コラムでは、最新のトラブル実態を踏まえ、なぜ勝手な置き配が危険なのか、そして今後の解決策としてどのような選択肢があるのかを考えていきます。
■ なぜ、規約で禁止しても「置き配」が止まらないのか?
「規約で禁止しているのだから、従ってもらわなければ困る」というのは正論です。
しかし、現場で違反が常態化している背景には、借主のわがままだけではない「2つの強力な外因」が存在します。ここを理解することが、対策の第一歩となります。
① 国交省の指針に対する「都合の良い切り取り」
国交省は確かに置き配を推進していますが、そのメディア報道の一部だけを都合よく解釈し、「国がお墨付きを与えた現代の標準的な受け取り方だ」と勘違いしている借主が非常に増えています。
借主は、「悪いことをしている」という自覚がなく、従来の「私物放置禁止」という注意書きだけでは置き配が禁止事項であることに気が付いていないのです。
② 大手通販サイトによる「置き配の初期設定方法」
これが実務上、最も厄介な問題です。
Amazonをはじめとする主要サイトでは、現在、注文時の配送方法が同じチェック項目で「宅配ボックスと置き配(玄関前)」に自動設定されています。
借主自身が「対面で受け取るつもり」で注文していても、設定変更を忘れたために、留守中に勝手に玄関前に荷物が置かれてしまうケースが多々あります。
つまり、「規約を破る気はないのに、システム上、自動的に規約違反の状況が作られてしまっている」のが現在のリアルな状況です。
これに対し、ただ「置くな」と突っぱねるだけでは借主の不満が溜まり、結果として退去率の上昇を招くという、オーナー様にとって最悪の結果に繋がりかねません。
■ オーナーが知っておくべき、国交省ガイドラインの「不都合な真実」
「国土交通省の指針」には、貸主を守るための文言がはっきりと明記されており、国は決して「どんな場所でも自由に廊下に置いていい」とは明記しておりません。
国土交通省が公開している「置き配ガイドライン」を精査すると、以下の2大原則が貫かれています。
①管理規約・賃貸借契約の遵守が最優先であること
国の指針であっても、各物件の管理規約や利用規則を覆す権限はありません。規約で禁止されている場合は「一律NG」が原則であり、国の推奨よりも個別の物件ルールが優先されることが明記されています。
②消防法に基づく避難経路の確保が大原則であること
置き配を検討・導入する場合であっても、火災や地震などの災害時に住民の避難を妨げないスペースが確保されていることが絶対条件です。
つまり、国のスタンスは「ルールと安全が守られる範囲内で、適切に置き配を活用しましょう」というものであり、「マンションの共用部を無法地帯にしていい」という意味ではないのです。
■ 規約違反の置き配を放置する「3つの致命的リスク」
「たかが荷物ひとつくらい」と放置することは、賃貸経営において巨額の損失を生む引き金になり得ます。現場で発生している重大なリスクは以下の3点です。
①消防法違反と、万が一の際の「オーナーの工作物責任」
アパートやマンションの共用廊下は、火災や地震が発生した際の「法定避難経路」です。
停電した真っ暗な廊下を住民が避難するとき、足元に荷物があれば確実に転倒事故が起きます。
規約違反の置き配を管理側が黙認していたとみなされた場合、万が一の事故の際にオーナー様が損害賠償責任(工作物責任)を問われるリスクが極めて高くなります。
②防犯性の低下による「治安悪化のドミノ倒し」
玄関前に荷物が放置されている光景は、空き巣に対して「留守です」と教えているようなものです。
近年「置き配泥棒」の被害は全国で急増しており、「管理が行き届いていない物件」という印象を外部に与えることで、ゴミの不法投棄など物件全体の治安悪化を招きます。
③優良な入居者の退去と「資産価値の低下」
ルールを真面目に守っている住人からすれば、規約を無視して廊下に荷物を広げている隣人の姿は強いストレスです。
「管理がずさんだ」と見限られ、マナーの良い優良な入居者から順番に退去していき、物件の資産価値低下(賃料下落)を引き起こします。
■ 【今後の検討事項】貸主・借主で進める「新・受取インフラ」の選択肢
物件の規模や構造、オートロックの有無、予算などは物件ごとに「まちまち」です。
そのため、一律の対策ではなく、物件の状況に合わせて「貸主が用意すべき設備」と「借主に用意してもらうルール」を切り分けて検討することが、これからの賃貸経営における最も現実的な解決策となります。
今後、導入・検討すべき具体的な選択肢は以下の通りです。
① 【貸主の検討事項】定番の「宅配ボックス」の導入
根本的な解決策として最も有効なのが宅配ボックスです。
現在は壁に穴を開けるような大規模な電気工事が不要な「メカ式(ダイヤル錠・プッシュボタン錠)」が主流で、設置費用を大幅に抑えられます。
初期費用をゼロにし、月々数千円からの「リース・レンタルプラン」を提供しているメーカーも増えています。
人気の設備ランキングでも常にトップであり、空室対策・賃料維持における最強の武器となります。
② 【貸主の検討事項】空きスペースを活用した「トランクルーム(屋外物置)」の設置
万一、敷地内にちょっとした空きスペース(駐輪場の横、デッドスペースなど)があれば、「居住者専用のトランクルーム(または大型物置)」を貸主側で設置するのも非常に有効な手段です。
これは、普段使わないアウトドア用品や季節外れの私物を収納してもらうことで、「借主の自室内のスペースを空けさせ、結果として、置き配された段ボール箱を一時的にでも室内に取り込みやすくする(部屋を広く使ってもらう)」という間接的なサポートに繋がります。
また、一部を「有料トランクルーム」として貸し出すことで、貸主の新たな副収入(収益化)に変えることも可能です。
③ 【借主の検討事項】「置き配用かご(折りたたみバッグ)」の公認と用意
「貸主負担での設備投資がどうしても難しい物件」や「設置スペースが全くないアパート」の場合、借主側に自費で「置き配用かごやバッグ」を用意してもらうというルール(細則)の検討が有効です。
一律禁止にするのではなく、管理会社が指定・承認した「ワイヤーでドアノブに固定できる折りたたみ式の置き配バッグ」に限り、以下の条件付きで許可します。
・荷物が入っていない時は必ず畳んで室内にしまうこと
・通路の有効幅(避難経路)を絶対に塞がないこと
・盗難リスクは自己責任とすること
これにより、貸主側の費用負担はゼロのまま、無法な置き配を「ルール化された安全な受け取り方」へとシフトさせることができます。
■ まとめ
置き配問題の本質は、借主のマナー問題だけではなく、
「時代の変化によって生まれた新しい生活スタイルに、建物のインフラやルールが追いついていない」
いう構造上のギャップにあります。
ただ「禁止」を押し付けるだけでは、入居者の利便性が下がり、物件の競争力が落ちてしまいます。
貸主様が宅配ボックスやトランクルームといった設備投資を前向きに検討する一方で、借主様にも置き配用かごを用意してもらうなどの協力を仰ぐことが必要です。
「ダメなものはダメ」と伝えるだけでなく、
「安全に、ルールを守って便利に受け取れる代替案」
をすり合わせていくことこそが、令和の賃貸管理において最も求められる姿勢です。
無法な置き配による事故や資産価値の低下というリスクを未然に防ぎ、物件の付加価値を大きく高めるために、ぜひ各物件の状況に合わせた新しいインフラづくりをご検討ください。
■ 賃貸管理、相続など資産管理に関してご興味のある方はコラム一覧を覗いてみてください。
■記事の投稿者 飯島興産有限会社 飯島 誠

私は、予想を裏切るご提案(いい意味で)と、他者(他社)を圧倒するクオリティ(良質)を約束し、あなたにも私にもハッピー(幸せ)を約束し、サプライズ(驚き)のパイオニア(先駆者)を目指しています。
1965年神奈川県藤沢市生まれ。亜細亜大学経営学部卒業。(野球部)
東急リバブル株式会社に入社し、不動産売買仲介業務を経て、その後父の経営する飯島興産有限会社にて賃貸管理から相続対策まで不動産に関する資産管理、売買仲介、賃貸管理を行う。
コラムでは不動産関連の法改正、売買、賃貸、資産管理について、実務経験をもとにわかりやすく発信しています。

●資産管理(相続・信託・後見制度)につきましては、こちらをご参照ください。
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