目次
- ■ はじめに
- ■ 「相続させる」と「遺贈する」とは違うもの
- ■ 遺産の取得を拒絶する方法
- ■ 遺贈の種類
- ■ 負担付遺贈
- ■ 遺言の執行
- ■ 遺言執行者
- ■ 遺言執行者を必要とする場合
- ■ まとめ
■ はじめに
前回は、遺言の「遺言とはどのようなものか」について、基本的な概要をお伝えしました。
今回は、前回に引き続き遺言について「遺贈、包括遺贈、特定遺贈、負担付遺贈等」について基本的な
概要をわかりやすくお伝えします。
■ 「相続させる」と「遺贈する」とは違うもの
遺言を作成する場合、「所在○○の土地は長男に相続させる」という内容と「所在○○の土地は友人Aに
遺贈する」という内容は、特定の遺産を特定の人に取得させるものですが、遺言を残された相続人への
影響は全く違うじょうきょうとなります。
1.何が違うのか
「所在○○の土地は長男に相続させる」と「所在○○の土地は友人Aに遺贈する」は制度が違います。
どちらも特定の人に遺産を取得させるために使用する制度ですが、「相続させる」旨の遺言は、相続人に対してのみ使用することができます。
一方の「遺贈する」旨の遺言は、法定相続人や法定相続人以外の人に無償で受け継がせる場合に使用するものとなります。
※遺贈=贈与と思われますが厳密には違いがあります。本コラムでは分かりやすく贈与として取り扱います。
2.所有権移転登記の手続きの違い
相続による所有権移転において「相続させる」旨の遺言は、遺産分割方法の指定とされ、遺言者の死亡
時点からその効力が発生するため、ただちに遺産の承継が発生します。
よって、相続人は遺産分割協議を経ずに、単独で当該遺産の所有権移転登記を申請することが可能となります。
一方の「遺贈する」は、所有権移転登記を申請するには相続ではなく贈与の一種となり、受遺者が単独
申請することはできず相続人全員又は遺言執行者との共同申請で行うことになります。
※相続人に対して「遺贈する」を使用した場合、手続きが複雑になりますので「相続させる」旨の遺言を使用してください。
■ 遺産の取得を拒絶する方法
「相続させる」旨の遺言を拒絶するためには、相続の放棄をする必要があります。
相続の放棄は一度行うと撤回することができず、他の遺産の相続についても影響があります。
一方、遺贈は遺贈の放棄をすれば終わるため、受贈者の意思を尊重することができます。
ただし、包括遺贈の場合には、受贈者は相続人と同一の権利義務を承継する結果、やはりこれを拒絶す
るには相続の放棄の制度を利用する必要があります。
■ 遺贈の種類
遺贈には、「包括遺贈」と「特定遺贈」の2種類があります。
1.包括遺贈
包括遺贈とは、遺言書によって「遺贈する割合」を指定して受遺者に遺贈する方法のことです。
包括遺贈である場合、遺言書の文例は以下のようになります。
・遺産の3分の1を受遺者○○に遺贈する
・遺産の全てを受遺者○○に遺贈する
※包括遺贈の場合は、遺贈する財産の割合を指定しているため、マイナス(借金・債務・未払金)の財産も遺贈に含まれます。
2.特定遺贈
特定遺贈とは、遺言書によって「特定の財産」を指定して受遺者に遺贈する方法のことです。
特定遺贈である場合、遺言書の文例は以下のようになります。
・所在○○土地を受遺者○○に遺贈する
・○○銀行口座の預金を受遺者○○に遺贈する
※特定遺贈は、遺贈される財産が指定されているため、マイナス(借金・債務・未払金)の財産を引き継ぐことはありません。
3.遺産分割協議の参加権限の違い
包括遺贈は「財産の割合」を指定するため、受遺者の権利は「法定相続人と同じ権利」となり、その受
遺者には遺産分割協議の参加権限が認められています。
※包括遺贈された受遺者が第三者であった場合は、その第三者も遺産分割協議への参加権限があるということです。
この第三者が遺贈者の参加により遺産分割協議がまとまりにくくなり、相続トラブルになることもあります。
4.不動産取得税の課税の違い
相続や包括遺贈では不動産取得税は「非課税」となりますが、特定遺贈は不動産取得税が課税されます。
5.放棄の方法の違い
原則、遺言者が亡くなった日から3ヶ月以内に家庭裁判所に包括遺贈の放棄の申述をします。
これは相続放棄の場合と同じです。
そして、3ヶ月の期間内に遺贈の放棄の申述をしないと遺贈を受けると承認したものとみなされます。
包括遺贈は遺言者が亡くなった日から3ヶ月以内に家庭裁判所に包括遺贈の放棄の申述をします。
これは相続放棄の場合と同じです。特定遺贈は法定相続人へ放棄の意思表示のみで家庭裁判所にお伺い
を立てることはありません。
包括遺贈は「財産の割合」を指定するため、マイナスの財産(債務・借金・未払金)も遺贈に含まれる
ため受遺者にも、法定相続人と同じように遺贈放棄や限定承認をすることもできます。
何もしなければ単純承認をしたこととなり、遺言書で指定された割合に応じて、マイナスの財産を含む
負債も引き継ぎます。
一方、特定遺贈は「特定の財産」を指定するため、マイナスの財産は遺贈されることはありません。
ただし、承認するか放棄するかの判断をいつまでも行わない場合、法定相続人は遺産分割協議ができな
いため、法定相続人は特定遺贈を受ける受遺者に対して、この遺贈を承認するか放棄するかの確認の催
告を求めます。
受遺者が決められた期間内に回答しない場合は、承認したものとみなされます。
もし、受遺者が遺贈の放棄をする場合は、トラブルを避けるために内容証明郵便を相手に送るのが一般
的です。
何もしなければ遺贈を認めたことになります。
■ 負担付遺贈
負担付遺贈とは、遺贈者が受遺者に財産を遺贈する代わりに、受遺者に一定の義務を負担させる遺贈の
ことをいいます。遺贈とは、遺言によって財産を譲り渡すことです。
負担付遺贈の具体例
負担付遺贈を利用される場合は以下のようなケースが考えられます。
・介護が必要な配偶者の世話を依頼するケースお願いしたい
・ペットの面倒をみてもらいたい
・住宅ローンの支払いを引き継いでほしい
負担付遺贈を検討している方は、以下の点に注意が必要です。
・負担付遺贈は放棄されてしまう可能性がある
受遺者には、負担付遺贈を承認するか、放棄するかの選択権が与えられています。
・負担付遺贈の負担には上限がある
遺贈をする目的の価額を超えない限度においてのみ、負担した義務を履行すればよいとされます。
・受遺者が義務を履行しない場合がある
受遺者によっては、負担付遺贈を承認したにもかかわらず、財産だけ受け取り、負担の履行をしないということもあります。
・相続人や遺言執行者は、期間を定めて負担を履行するように催告ができる
期間内に負担の履行がなされないときは、家庭裁判所に遺贈の取り消しを求めることが可能です(民法1027条)。
■ 遺言の執行
遺言の執行とは遺言の効力が発生した後に、その内容を実現する行為を遺言の執行といいます。
・遺言書の検認・開封
遺言書の保管者又はこれを発見した相続人は,遺言者の死亡を知った後,遅滞なく遺言書を家庭裁判所
に提出して,その「検認」を請求しなければなりません。
なお,公正証書による遺言のほか,法務局において保管されている自筆証書遺言に関して交付される
「遺言書情報証明書」は,検認の必要はありません。
「検認」とは、相続人に対し遺言の存在及びその内容を知らせるとともに遺言書の形状、加除訂正の状
態、日付、署名など検認の日現在における遺言書の内容を明確にして遺言書の偽造・変造を防止するた
めの手続です。
遺言の有効・無効を判断する手続ではありません。
※遺言書の提出を怠った者、検印をしないで遺言を執行した者、家庭裁判所外で開封した者は5万円以
下の過料となります。
■ 遺言執行者
遺言執行者とは、相続の開始と同時に効力が生じ、遺言の内容を実現するために権利と義務を負い手続きする人です。
相続開始時点での未成年者と破産者は遺言執行者になれません。
ただし、未成年者であっても既婚者は成人とみなされるので就任可能です。
同様に、破産者であっても裁判所から免責許可の決定があれば就任できます。
・選任・辞任
遺言者が自ら指定するか、または第三者に指定の委託をした場合にはその指定された者が受託すれば、その者が遺言執行者となります。
※遺言執行者の指定がない場合、利害関係人の請求により家庭裁判所が選任することもできます。
・解任
遺言執行者が任務を怠った場合、その他の解任するのに正当な事由があるときは、利害関係人は家庭裁判所に解任の請求ができます。
※相続人が勝手に遺言執行者を解任することはできません。
※遺言執行者に就任する前なら自由に辞退することはできます。この場合、家庭裁判所への請求は必要ありません。
・辞任
正当な事由があるときは、遺言執行者は家庭裁判所の許可を得て辞任することができます。
・権限
民法により、遺言執行者には「遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言執行に必要な一切の行為をする権限」が認められており、以下のことができます。
- 財産管理
- 遺言書の検認
- 各種名義変更
- 預貯金の払い戻しと相続人や受遺者への交付
- 遺産分割
- 遺贈
- 寄付
- 認知
- 相続人の廃除やその取消
特に子どもの認知や相続人の廃除と取消しについては、遺言執行者にしかできません。
相続人にはこれらの権限が認められないため、認知や廃除、取り消しをする場合、必ず遺言執行者を選任する必要があります。
※2019年7月1日に施行された改正民法により、遺言執行者の権限が強化され改正されています。
・言執行者は相続人の代理人ではなく独立した立場であると明らかにされました。
・「相続人は遺言執行者の行為を妨害してはならない」と規定され、妨害した場合にはその行為が「無効」になると規定されています
・特定の相続人に対する特定不動産の相続登記についても遺言執行者が単独で申請できることになりました。
■ 遺言執行者を必要とする場合
相続において遺言執行者が必ず必要となるわけではありません。
相続人全員が遺言書の内容に同意し、相続手続きを完了することが出来るのであれば、遺言執行者は必要ありません。
万一、遺言書の内容に同意できない相続人がいる場合において相続手続きが進まない場合に遺言執行者が必要になります。
この場合、遺言執行者が自らの権限で遺言の内容を実現させることになります。
また、相続人廃除や認知に関する記載がある場合にも遺言執行者が必要となります。
※相続人廃除とは、被相続人が相続人の権利をはく奪する手続きです。
※認知された子どもは、相続人として遺産を相続できるようになります。
■ まとめ
包括遺贈を選択した方が良いケースは、分割の割合は相続人や受遺者で話し合って決めてほしい場合や財産内容が大きく変化する可能性が高く、予め財産を指定するのが難しい場合などです。
また、特定遺贈を選択した方が良いケースは、誰にどの財産を相続や遺贈させるのかを決めておきたい場合や相続人や受遺者による遺産分割を避けたい場合などが考えられます。
包括遺贈・特定遺贈を含めた遺言というのは単純なものではありません。専門家と協力して作成することをオススメします。
参考文献:相続法に強くなる63の知識 財団法人大蔵財務協会
■記事の投稿者 飯島興産有限会社 飯島 誠
私は、予想を裏切るご提案(いい意味で)と、他者(他社)を圧倒するクオリティ(良質)を約束し、あなたにも私にもハッピー(幸せ)を約束し、サプライズ(驚き)のパイオニア(先駆者)を目指しています。
1965年神奈川県藤沢市生まれ。亜細亜大学経営学部卒業。(野球部)
東急リバブル株式会社に入社し、不動産売買仲介業務を経て、その後父の経営する飯島興産有限会社にて賃貸管理から相続対策まで不動産に関する資産管理、売買仲介、賃貸管理を行う。
コラムでは不動産関連の法改正、売買、賃貸、資産管理について、実務経験をもとにわかりやすく発信しています。
●資産管理(相続・信託・後見制度)につきましては、こちらをご参照ください。
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