目次
- ■ はじめに
- ■ 配偶者の相続分
- ー指定相続分(遺言)
- ー指定相続分(遺言)がない場合
- ■ 子の相続分
- ー指定相続分(遺言)
- ー配偶者がいるとき
- ー配偶者がいないとき
- ー代襲相続がある場合
- ■ 直系尊属の相続分
- ■ 兄弟姉妹の相続分
- ー代襲相続がある場合
- ー例外的取扱い半血兄弟
- ■ 特別受益者の相続分
- ー特別に受益を受けた者
- ■ 寄与分
- ■ 相続分の譲渡
- ー相続分の譲渡とは
- ー相続分を譲渡を検討すべき事情
- ■ 相続権をもたない人
- ■ まとめ
■ はじめに
相続人が複数いるときは、各相続人(共同相続人)が遺産に対してどれだけの持分があるかが問題となります。これを「相続分」と言います。
相続分とは、各相続人の相続すべき割合(遺産の総額に対する分数的割合=相続分率)を意味します。相続分は積極財産の取得割合となるだけでなく、消極財産(相続債務)の分担割合になります。
今回は、「どれだけ相続するのか」、などの基本的な概要をわかりやすくお伝えします。
■ 配偶者の相続分
●指定相続分(遺言)
被相続人が遺言において相続人の持分を指定した場合です。
例えば、「配偶者の相続分は3分の1、長男の相続分は3分の1、二男の相続分は3分の1」と法定相続分を指定および第三者に相続分の指定を委託したときはこれに従うものとなります。
●指定相続分(遺言)がない場合
遺言による指定がないときは、民法に定められた法定相続分によります。
※配偶者の法定相続分は血族相続人に誰がなるのかにより異なります。
①血族相続人がこの場合
●配偶者 1/2 ●子 1/2
②血族相続人が直系尊属の場合
●配偶者 2/3 ●直系尊属 1/3
③血族相続人が兄弟姉妹の場合
●配偶者 3/4 ●兄弟姉妹 1/4
■ 子の相続分
●指定相続分(遺言)
被相続人が遺言において相続人の持分を指定した場合です。※配偶者との場合と同じです。
●配偶者がいるとき
被相続人に配偶者がいるときは、遺産の2分の1を配偶者、残りの2分の1を子全体相続し、子が複数いるときは2分の1の遺産に対して現則として平等の持分となります。
※嫡出子と非嫡出子
2013年12月11日に改正民法が施行され、非嫡出子の相続分は嫡出子と同等と改められました。結果、父親に認知された非嫡出子の法定相続分は、嫡出子と同じとされています。
かつては、非嫡出子の法定相続分は嫡出子の半分とされていましたが最高裁平成25年(2013年)9月4日決定は、非嫡出子の法定相続分を嫡出子の半分とする規定が、遅くとも平成13年(2001年)7月当時において法の下の平等(日本国憲法14条1項)に違反していたと判示しました。
その理由として最高裁は、法律婚を優遇するという立法趣旨の合理的根拠が、日本における家族形態の変化や国際的環境の変化などによって失われたことを指摘しています。
●配偶者がいないとき
被相続人に配偶者いない(配偶者が被相続人より先に死亡、離婚している)ときは、子は遺産の全部を相続し、子が複数いるときは原則として平等の割合で各相続人が持分を有します。
●代襲相続がある場合
代襲相続とは、本来相続人となる人が被相続人が亡くなるよりも前に死亡していた場合や、欠格事由に該当あるいは廃除されたときに、その人の子が代わりに被相続人の財産を相続することをいいます。
代襲相続とは、本来相続人となる人が被相続人が亡くなるよりも前に死亡していた場合や、何らかの理由により相続権を失っている場合に、その人の子が代わりに被相続人の財産を相続することをいいます。
近年、高齢化が進むにつれ、親より先に子どもが亡くなることは珍しくありません。このような場合、代襲相続が発生し、既に他界している人の子が代襲相続人となるのです。
例えば、父が亡くなった場合、通常相続人は妻と子となりますが、子が既に他界しており、その子に子(父から見たら孫)がいれば、その子(孫)が代襲相続人です。
■ 直系尊属の相続分
直系尊属と配偶者とが相続人となる場合には配偶者が3分の2、相続人となる直系尊属で3分の1となります。
相続人となる直系尊属が複数いるときは各人の相続分は平等です。
直系尊属の間では親等より近い者が先順位の相続人となります。
例えば、被相続人の父・母のいずれか一人でもいれば祖父や祖母は相続人となりません。
父・母ともに死亡しているときに、祖父・祖母が相続人となります。
※被相続人が養子の場合
被相続人の父・母および養父・養母は同順位となります。
よって、遺産が12,000万円の場合
配偶者の相続分 12,000万円×2/3=8,000万円
直系尊属全体の相続分 12,000万円×1/3=4,000万円
直系尊属一人の相続分 4,000万円×1/4=1,000万円
となります。
■ 兄弟姉妹の相続分
兄弟姉妹と配偶者とが相続人となる場合には配偶者が4分の3、相続人となる直系尊属で4分の1となります。
相続人となる兄弟姉妹が複数いるときは各人の相続分は平等です。
相続人となる兄弟姉妹が複数いるときは各人の相続分は平等です。
兄弟姉妹である以上、すでに婚姻して姓が異なっている場合、または実子および養子であるとを問わず平等です。
よって、遺産が12,000万円の場合 兄弟姉妹が3人
配偶者の相続分 12,000万円×3/4=9,000万円
兄弟姉妹全体の相続分 12,000万円×1/4=3,000万円
兄弟姉妹一人の相続分 3,000万円×1/3=1,000万円
となります。
●代襲相続がある場合
兄弟の代襲相続は、本来相続人となる人が被相続人が亡くなるよりも前に死亡していた場合に、その子(甥・姪)が代わりに相続することをいいます。
なお、兄弟の代襲相続は「甥・姪まで」つまり、1代限りとなります。
兄弟の相続は、子(法定相続での第1順位)も親(第2順位)もいない場合のみに起こります。しかしながら、子どもを作らない人が増えている現代では意外と起こりえるものです。
※例外的取扱い半血兄弟
半血兄弟とは、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹のことをいいます。
例えば、被相続人に先妻と後妻がいた場合で、先妻と後妻との間にそれぞれ子が2名(父の子は合計4名)いたとします。この場合、先妻の子と後妻の子は、父は同じですが、母は異なります。そのため、半血兄弟といわれています。
半血兄弟の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の、2分の1と定められています。
ただし、この適用は全血兄弟と半血兄弟の両方が相続人となった場合であり、相続人が全血兄弟のみ、または相続人が半血兄弟のみの場合には適用はありません。
■ 特別受益者の相続分
特別受益とは一部の相続人だけが被相続人から生前贈与や遺贈、死因贈与で受け取った利益のことです。
この場合、相続人の一人だけが被相続人から生前に財産をもらっている場合、法定相続分をそのまま適用すると不公平が生じます。
そこで生前贈与された分を特別受益として計算し、その上で遺産分割を行い公平に財産を分ける配慮をするものです。
●特別に受益を受けた者
①遺贈を受けた者 ②婚姻のために贈与を受けた者 ③養子縁組のために贈与を受けた者 ④生計の資本として贈与を受けた者(自宅建築に援助してもらった、商売を始める資金をもらったなど)
■ 寄与分
寄与分とは、被相続人の財産の維持や増加に貢献した場合に、他の相続人よりも相続財産を多く分けてもらうことができる制度です。
民法は、「亡くなった家族(被相続人)の家業を無給で手伝っていた」「会社を辞めて長期にわたる療養介護を担った」などの理由で、被相続人の財産の維持・増加に特別な貢献をした相続人に、遺産分割で法定相続分を超える財産を相続できる制度を定めています。これが「寄与分」の制度です。
寄与分が認められるためには、相続人の被相続人に対する貢献が「特別の寄与」である必要があります。
特別の寄与があったというためには、
①相続人であること
②被相続人の財産の維持または増加に貢献した行為を行ったこと
③期待される以上に貢献した行為である「特別の寄与」を行ったこと
④無償ないし無償に近い行為を行ったこと
⑤継続性がある行為を行ったこと
などが考慮要素とされており、寄与の態様によって若干異なってきます。
寄与分として認められる代表的な行為は、簡単に説明すると以下の5つの行為に関わる行為です。
- 被相続人が経営する家業の手伝い
- 被相続人への金銭出資
- 被相続人に対しての介護の手伝い
- 被相続人に対しての生活費の給付
- 被相続人が所有する財産の管理
2019年7月1日から特別寄与請求権として「被相続人の相続人ではない親族」も寄与分が認められるようになりました
従来の法律では「被相続人の子の配偶者」には寄与分が認められていなかったため、遺言で財産を遺贈するなどの対策でを行っていました。
この問題を解消するため、民法が改正され、2019年7月1日から「被相続人の相続人ではない親族」も寄与分が認められるようになりました。
「被相続人の相続人ではない親族」となりますが、この問題により創設された背景には長男の配偶者の親の介護の問題があるため、「被相続人の子の配偶者」が被相続人に行った介護や家業の手伝いの貢献分を特別寄与として請求することが考えられます。
■ 相続分の譲渡
●相続分の譲渡とは
相続分の譲渡とは、自分の法定相続分を他人に譲り渡すことです。
譲る相手は共同相続人でもそれ以外の第三者でも可能です。
相続人が相続分を他の相続人やそれ以外の第三者に譲渡すると遺産の相続権を失います。
譲渡の条件は有償でも無償でもできます。ただし、相続分の譲渡を行う場合、遺産分割協議を行う前にされることが大切です。これは、遺産分割協議を締結してしまうと相続分の譲渡はできなくなるからです。
● 相続分を譲渡を検討すべき事情
相続分の譲渡は、以下のような状況の場合に検討されるものです。
●遺産を相続したくない、関心がない
●相続トラブルに巻き込まれたくない
●配偶者や孫など、自分以外に遺産相続させてあげたい人がいる
●相続人が多く、相続人の一部に財産を引き継がせたい
●一日でも早く相続権を現金化したい
※ 相続分の譲渡を行う際の注意点
相続分の譲渡をしますとその相続人は相続権を失います。ただし、負債の支払い義務はなくならず債権者から支払い請求をされた場合、返済せざるを得ません。
また、相続人以外の他人へ相続分を譲渡した場合、他の相続人は1カ月以内であれば取り戻し請求ができるため、自分の配偶者などに遺産の相続権を与えたいとしても相続人から取り戻し請求が行われた場合には自分の配偶者などに遺産の相続権は移りません。
遺言がある場合には相続分の譲渡ができる場合とできない場合があります。
例えば、「長男に〇分の〇、二男に〇分の〇」など相続分の指定が行われている場合には指定された相続分を譲渡が可能です。
一方「長男に不動産を遺贈する、二男にA銀行の預金を相続させる」など遺産を指定して遺贈された場合には相続分という概念が発生しなため相続分の譲渡は不可能となります。
最後に、相続分を譲渡した場合、贈与税と譲渡所得税の問題が発生します。
相続人以外の第三者へ相続分を無償で譲渡すると、譲受人に「贈与税」が課税されます。一方、有償で譲渡した場合には、相続人に「譲渡所得税」が発生する可能性があります。
■ 相続権をもたない人
●内縁の妻・夫
事実婚などで被相続人と内縁関係にある人には、相続権がありません。
ただし、相続では、遺言によって相続財産を贈与する「包括遺贈」という方法があり、内縁の妻・夫でも包括遺贈の対象になります。
被相続人から内縁の妻・夫に包括遺贈がおこなわれた場合、内縁の妻・夫は法定相続人と一緒に遺産分割協議に参加できます。
●離婚した元配偶者
被相続人の子どもであれば離婚後も相続権が残りますが、被相続人の元配偶者は離婚時点で相続権を失います。
「離婚後も事実婚状態で一緒に生活している」という場合でも、相続権は復活しません。
一方、法律上の配偶者であれば、たとえ離婚協議をしていて別居状態でも相続権があります。
●再婚相手の連れ子
再婚相手の連れ子は、被相続人と養子縁組をしないかぎり相続権はありません。
なお、再婚相手には相続権があります。
●犯罪行為や不正行為をした人(相続欠格)
本来であれば法定相続人になるはずだった人でも、以下のような行為をすると相続欠格となり、相続権が剥奪されます。
被相続人や同順位以上の人を故意に死亡させた、または死亡させようとした
被相続人に詐欺や脅迫などをして遺言書の偽造や変造をした
遺言の取り消しや内容変更を考えている被相続人に対して、詐欺や脅迫などをして妨害した
被相続人が殺害されたことを知りながら告発・告訴をしなかった など
●被相続人によって相続権を奪われた人(相続廃除)
被相続人は、一定の要件を満たしている場合に推定相続人の相続権を剥奪でき、これを相続廃除と呼びます。
推定相続人とは、被相続人が亡くなった場合に相続人になるはずの人のことです。
相続廃除では裁判所による許可が必要で、以下のいずれかの要件を満たしていなければいけません。
被相続人に対する虐待行為があった
被相続人に対する重大な侮辱行為があった
推定相続人による、その他の著しい非行があった
●孫・甥姪
一般的な相続では、孫や甥姪は法定相続人になりません。 しかし、被相続人によって包括遺贈がおこなわれた場合や、被相続人よりも前に亡くなっている相続人がいて代襲相続が発生した場合などは、孫や甥姪も包括受遺者や代襲相続人として相続に参
■ まとめ
相続人は、それぞれの家庭環境や事情によって異なり、場合によっては非常に複雑になるケースもあり、相続人調査に手間がかかったり、遺産分割協議がうまく進まなくなることもあります。
相続は、専門の知識がないと判断が難しい場合や手続きに時間が取られてしまいます。
相続に関して疑問が生じましたら専門家に相談することをオススメします。
参考文献:相続法に強くなる63の知識 財団法人大蔵財務協会
■記事の投稿者 飯島興産有限会社 飯島 誠
私は、予想を裏切るご提案(いい意味で)と、他者(他社)を圧倒するクオリティ(良質)を約束し、あなたにも私にもハッピー(幸せ)を約束し、サプライズ(驚き)のパイオニア(先駆者)を目指しています。
1965年神奈川県藤沢市生まれ。亜細亜大学経営学部卒業。(野球部)
東急リバブル株式会社に入社し、不動産売買仲介業務を経て、その後父の経営する飯島興産有限会社にて賃貸管理から相続対策まで不動産に関する資産管理、売買仲介、賃貸管理を行う。
コラムでは不動産関連の法改正、売買、賃貸、資産管理について、実務経験をもとにわかりやすく発信しています。
●資産管理(相続・信託・後見制度)につきましては、こちらをご参照ください。
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