■ 目次
- ■ はじめに
- ■ 義務化への背景
- ■ 相続登記を申請しないために起こる弊害
- ■ 相続登記の義務化と罰則
- ー義務化開始時期
- ー罰則
- ー過去の相続分も義務化の対象
- ■ 相続登記ができないときの救済策|相続人申告登記の新設
- ■ 相続登記と相続人申告登記との違い
- ー申請時の書類等の違い
- ー相続人申告登記の方法
- ー相続人申告登記のメリット・デメリット
- ■ まとめ
■ はじめに
相続により、亡くなられた方の財産で土地や建物を遺産として相続した場合、不動産の名義を変更が必要となります。この相続により名義を変更する登記を「相続登記」と呼んでいます。
この「相続登記」はこれまで明確に義務化されているわけではありませんでした。
しかし、この「相続登記」が2021年4月28日「民法等の一部を改正する法律」(令和3年法律第24号)が成立し、「相続登記の義務化」について、2024年4月1日から施行されることになっております。
そこで、今回は、この相続登記が義務となった背景や内容についてお伝えいたします。
■ 義務化への背景
相続登記義務化の背景には、相続登記がされないまま放置されている不動産の問題が大きくかかわってきており、相続登記がされない理由として、次の4点が挙げられます。
- ●相続登記の関する申請が義務化されていない。
- ●相続登記を申請する何等かの事情がない限り、登記をしなくても特段困らないことがあります。
- ●相続登記をしないまま放置した結果、相続人がさらに増え、いざ相続登記をしようとすると多大な時間と費用がかかるため、相続登記を申請しようとは思わない。
- ●相続税もかからない相続において遺産分割協議を行わず、その後新たな相続が発生し、権利関係が複雑になることで放置されている。
■ 相続登記を申請しないために起こる弊害
相続登記が申請されない場合、廃墟となった建物、倒壊等の危険のある建物、雑草などであれた土地などその土地を含む周辺地域全体の環境の悪化につながります。
そのため、所有者を探索することになりますが、所有者を探索するには、その相続人の調査のために戸籍謄本などの収集にて相続人への連絡を行うなど多大な費用と時間が必要となります。
そのため、所有者不明土地がある場合、地方公共団体の公共事業のための用地取得や民間の土地取引が、円滑におこなえない可能性があります。
相続登記がされないまま放置された結果、「所有者不明土地」や「空き家」の問題が生じるようになり、隣家等近隣に悪影響を及ぼすなど社会問題として広く知られるようになりました。
そのため、問題解消の一つとして、相続登記を義務とし、現在の不動産の所有者を把握できるように検討された結果、「相続登記の義務化」となりました。
■ 相続登記の義務化と罰則
●義務化開始時期
相続登記を申請するかどうかは相続人の任意とされていますが、2024年4月1日から義務化する法律が施行されます。
●罰則
不動産を相続したことを知ったときから3年以内に相続登記を申請しなければなりません。また、正当な理由なく期限内に登記をしなかった場合には10万円以下の過料が科せられることになります。
なお、「不動産を相続したことを知ったとき」とは、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、その所有権を取得したことを知った日のことを指します。
●過去の相続分も義務化の対象
義務化の施行日(2024年4月1日)以前に発生していた相続にも遡及して適用されます。
遡及とは、過去にさかのぼり法律の効力が発生することです。つまり、過去に相続した相続登記未了の不動産も登記義務化の対象となります。
この場合には、施行日または不動産を相続したことを知ったときのいずれか遅い日から3年以内に申請する義務を負います。また正当な理由なく期限内に申請しなければ、10万円以下の過料が科せられます。
■ 相続登記ができないときの救済策|相続人申告登記の新設
すぐに相続登記ができない場合のために、相続人申告登記が新設されました。
相続人申告登記とは、相続登記の義務化とともに新たに導入された制度で、通常の相続登記よりも簡便な登記方法です。
例えば、所在不明の相続人がいる場合や相続人間で遺産分割の協議がまとまらない場合など相続登記の申請を行いたくても行えず、相続登記の義務を履行できない場合もあります。
「相続登記の義務化」により、3年以内に相続登記しないと罰則の対象になってしまう可能性があり、正当な理由により過料を免れたとしても義務を履行したことにはなりません。
そこで、相続登記義務を履行することができるように、「相続人申告登記の申出」の制度が創設されました。
この制度を利用して、不動産の所有者(登記名義人)について相続が発生し、自分が相続人であることを法務局に申し出ることにより、相続登記義務を履行したことになる制度です。
法務省相続登記の申請の義務化と相続人申告登記について R6.4.1
■ 相続登記と相続人申告登記との違い
相続登記とは、相続財産のうち不動産がある場合、その不動産を相続した相続人が亡くなった方の名義から相続人に名義を変更することをいいます。
これに対して、相続人申告登記とは、相続財産である不動産について自らが相続人であることを公示することをいいます。
相続人申告登記は、相続人であることを登記し、遺産分割協議などを得て相続財産である不動産の所有者になる可能性がある人を公示する制度です。
相続人の申出によりその申出のを行った相続人の住所・氏名が登記され、持分などの権利については登記されないとされています。
相続人申告登記は、遺産分割協議が未了など、期限内に相続登記ができない場合に利用される手段ですので、遺産分割協議がまとまり次第、あらためて相続登記を行う必要があります。
●申請時の書類等の違い
【相続登記】
- 被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本
- 相続人全員の死亡日以降に発行された戸籍謄本
- 被相続人の住民票(除票)
- 相続人全員の住民票
- 固定資産評価証明書
遺言書とおりに遺産分割したときに必要な書類
- 遺言書
遺産分割協議を行った場合に必要な書類
- 遺産分割協議書
- 相続人全員の印鑑証明書
- 被相続人と法定相続人の相関関係説明図
法定相続分通りに遺産分割したときに必要な書類
- 被相続人と法定相続人の相関関係説明図
【相続人申告登記】
- 所有権の登記名義人の相続人であることがわかる戸籍謄本のみ
必要になると予測されるもの
- 亡くなった方(登記名義人)の除籍謄本
- 申告する相続人本人の戸籍謄本
- 申告する相続人本人の住民票
●相続人申告登記の方法
相続人申告登記は、相続登記の申請期間内に、以下の2点を管轄の法務局の登記官に申し出る方法により行います。
- ●登記名義人の相続が開始したこと
- ●自分が登記名義人の相続人であること
申し出を受けた登記官は、不動産登記簿に申出人の住所や氏名などを登記します。これにより誰が相続人であるかを把握することができ、所有者不明土地の問題はクリアされます。
※申告書のフォーマットはまだ公開されていません。
※相続人申告登記に登録免許税は課税されません。
●相続人申告登記のメリット・デメリット
相続人申告登記には、以下のようなメリット・デメリットがあります。
●相続人申告登記のメリット
- ●過料の支払いを免れることができる
- ●相続人が複数いても特定の相続人が単独で申し出ができる
- ●法定相続人の範囲や法定相続分割合の確定が不要
- ●添付書類は相続人であることを証明する戸籍謄本のみ
●相続人申告登記のデメリット
- ●遺産分割協議成立から3年以内に改めて相続登記が必要となります
- ●相続人申告登記のみでは不動産の売却などの処分ができない
- ●相続人申告登記は、個々の相続人自ら行う必要があるため、相続人申告登記を行っていない相続人には過料が科される可能性がある
- ※申告する人は、不動産の登記名義人の相続人本人です。相続人全員で申告する必要はありません。また、他の相続人の分と一緒にまとめて申告する代理申し出も可能です。
- ●登記簿上に住所・氏名などが記載されるため、相続人代表者としてみなされ、固定資産税等の支払い通知が届く場合がある
■ まとめ
2024年4月1日から施行される相続登記の申請義務化にともない、不動産の相続を知った日、または施行日のいずれか遅い日から3年以内に申請をすることになります。
また、相続登記の申請義務化が施行されてから相続した土地や建物はもちろんですが、過去に相続した不動産や未登記の建物についても義務化の対象となります。
相続登記が未了という方は早めに手続きを進めていくようにしましょう。
相続登記には、亡くなられた方の出生からの戸籍などが必要となります。また遺産分割協議書の作成など、専門知識が必要になります。
そのような場合には、ぜひ専門家へご相談ください。
■記事の投稿者 飯島興産有限会社 飯島 誠
私は、予想を裏切るご提案(いい意味で)と、他者(他社)を圧倒するクオリティ(良質)を約束し、あなたにも私にもハッピー(幸せ)を約束し、サプライズ(驚き)のパイオニア(先駆者)を目指しています。
1965年神奈川県藤沢市生まれ。亜細亜大学経営学部卒業。(野球部)
東急リバブル株式会社に入社し、不動産売買仲介業務を経て、その後父の経営する飯島興産有限会社にて賃貸管理から相続対策まで不動産に関する資産管理、売買仲介、賃貸管理を行う。
コラムでは不動産関連の法改正、売買、賃貸、資産管理について、実務経験をもとにわかりやすく発信しています。
●資産管理(相続・信託・後見制度)につきましては、こちらをご参照ください。
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