目次
- ■ はじめに
- ■ 遺留分とは
- ■ 遺留分が保証される相続人とその割合
- ■ 遺留分放棄とは
- ■ 相続放棄と遺留分放棄の違い
- ■ 遺留分放棄のメリット
- ■ まとめ
■ はじめに
相続対策においてどうしても円滑な相続対策ができない場合があります。この場合、相続人には不利益になりますが、遺言書と併せて「遺留分放棄」を検討する場合があります。
例えば、父名義の相続財産は、不動産と預貯金。相続人は配偶者と子ども二人の場合、父は配偶者にすべての財産を相続させたいと遺言書を作成した場合、子ども二人には遺留分があります。相続発生後、こども二人のうち一人でも遺留分を請求される場合があります。
また、父が事業を経営しており、父の相続人は長男、二男の二人、長男は父の事業に従事、二男は企業へ勤務している場合、父は長男に事業を継承させ、財産のすべてを長男に相続させたいと遺言書を作成した場合、二男には遺留分があり、遺留分を請求されると長男の事業経営に支障が生じてしまう場合があります。
これらの場合、財産を継承させたい相続人以外に遺留分を放棄してもらうことで、父は、配偶者や長男にすべての財産を残すことが可能となります。
また、財産を継承させたい相続人以外に遺留分を放棄してもらったうえで、遺言書に多少なりとも一定の財産を相続させることもできるのです。
このように遺留分放棄は、遺言書と組み合わせることで、相続を円滑に進めることができるのです。
今回は、この「遺留分放棄」は、どのようなものか、注意点などを考えてみます。
■ 遺留分とは
遺留分とは、法定相続人(兄弟姉妹以外)に最低限保証される相続財産の取得割合であり、遺された相続人の生活を保障するための制度です。
配偶者、子どもなどの相続人は、被相続人が亡くなったときに被相続人の財産を相続する権利があり、この権利はたとえ遺言でも奪うことはできません。
相続において民法で定められた相続人の範囲や順位、相続割合に基づいて財産を引き継ぐ法定相続よりも遺言による相続が優先される原則があるため、配偶者と子どもがいる被相続人が、「愛人にすべての財産を遺贈する」と遺言書を遺した場合、遺産はすべて愛人に相続されることになります。
しかし、すべての財産が愛人に遺贈された場合、配偶者や子供たちの生活が困窮することになります。
そこで民法では、「遺留分」という配偶者や子供といった一定の相続人に、最低限の遺産相続を求めることができる権利を認めています。
※遺言書の内容が法定相続人の遺留分を侵害している場合、その遺言書は無効とはならず、有効となります。そのため、遺留分を侵害された法定相続人は、遺留分侵害額請求を行う必要が生じます。
遺留分侵害額請求権には以下のような時効が定められていますので注意が必要です。
●相続開始と遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知ったときから1年
●遺留分侵害を知らない場合、相続開始から10年
■ 遺留分が保証される相続人とその割合
1. 遺留分が認められる相続人
配偶者
直系卑属・・・子ども、孫
直系尊属・・・親、祖父母
2.遺留分が認められない相続人
兄弟姉妹や甥姪
※遺留分は、被相続人の扶養家族の生活保障を目的としており、社会通念上、兄弟姉妹が被相続人と生計を一にすることは少なく、生活保障の必要性は他の相続人に比べて低いからです。
3.遺留分の割合
配偶者のみ 配偶者:2分の1
子どものみ 子ども:2分の1
配偶者と子ども1人 配偶者:4分の1 子ども:4分の1
配偶者と子ども2人 配偶者:4分の1 子ども:8分の1
配偶者と父母 配偶者:3分の1 子ども:6分の1
配偶者と兄弟姉妹 配偶者:2分の1 兄弟姉妹:なし
父母のみ 父母:3分の1
兄弟姉妹のみ 兄弟姉妹:なし
■ 遺留分放棄とは
遺留分の放棄とは、遺留分が保証されている相続人(遺留分権利者)が遺留分の保証を自ら手放すことであり、遺留分の放棄により、遺留分侵害額請求はできなくなります。
※遺留分放棄をした相続人が手放すのは「遺留分」のみであり、遺留分を放棄した人は、被相続人が亡くなった場合、その相続人の地位までも手放すというわけではありません。また、他の相続人の遺留分が増えるわけでもありませんのでご注意ください。
※遺留分を放棄した相続人の死亡等により代襲相続が開始した場合、 その代襲相続人は、遺留分のない相続権を取得すると考えられています。
遺留分放棄をする方法は、相続が開始(被相続人の死亡)した時を境にその前後では手続き等が異なりますのでご注意ください。
1.相続発生前の遺留分放棄
相続発生前に遺留分放棄をするためには、家庭裁判所に遺留分放棄を申し立てのうえ、許可を得なければなりません。
遺留分放棄行うにあたり、家庭裁判所の許可を得なければならない理由は、被相続人の生前に念書などで遺留分の放棄を可能にした場合、被相続人が無理に遺留分を放棄させるなど、遺留分権利者の真意にもとづかない遺留分放棄が行われる可能性が高いため、民法では、家庭裁判所の許可を受けた場合のみ、遺留分放棄を可能としているのです。
また、相続発生前の遺留分放棄を申し立てることができる人は、自己の遺留分を放棄しようとする相続人本人のみです。被相続人や他の相続人などが遺留分放棄を申し立てることはできません。
【遺留分放棄が認められる判断基準】
生前の遺留分放棄は、どのような場合でも認められるわけではありません。家庭裁判所が遺留分放棄を認める判断基準は3つあり、生前に遺留分を放棄する場合はこれらの基準をすべて満たす必要があります。
①遺留分の放棄をする人の意思によること
②遺留分を放棄する理由が合理的であること
③放棄する遺留分と同等の代償があること
【遺留分放棄の許可申立の方法】
被相続人の住所地を管轄する家庭裁判所へ「遺留分権利者本人」が申し立てます。
必要書類は以下のとおりです。
①申立書
②被相続人の戸籍謄本(全部事項証明書)
③申立人の戸籍謄本(全部事項証明書)
④財産資料(土地財産目録、建物財産目録、現金・預貯金・株式等財産目録)
⑤申立書に貼付する収入印紙(800円分)
家庭裁判所との連絡用郵便切手(家庭裁判所によって異なる)
【遺留分放棄の手続きの流れ】
申立ては、被相続人となる人の住所地を管轄する家庭裁判所で行います。
遺留分放棄の手続きを「遺留分放棄許可の審判申立」といい、この審判の申立てをして家庭裁判所に受理されると、「照会書(回答書)」が送られてきます。
照会書では生前贈与の詳細、被相続人の資産、放棄の意思表示が本人のものであるかどうか、などについて尋ねられます。
遺留分放棄の理由が適切でないと判断された場合、審問の日程が通知されます。
審問の後、遺留分放棄許可の審判の結果が通知されます。
※審問とは、家庭裁判所で遺留分放棄の意思や理由について面談にて遺留分を放棄することの影響を理解しているか、放棄することを誰かに強要されていないかなどを質問されます。
※遺留分放棄を申し立てた事情が変わったなど合理的な理由がある場合には撤回や取り消しが認められる場合もありますが、生前の遺留分放棄は、基本的に撤回や取り消しはできません。
2.相続発生後の遺留分放棄
相続発生後に遺留分放棄をする場合、家庭裁判所の許可を得る必要がなく、相続人の自由意思で、遺留分放棄ができます。
単に、遺留分を放棄しようとする相続人が遺留分を侵害して多くの遺産を受け継ぐ相続人に対して「遺留分侵害額請求をしない」という意思を伝えるだけで構いません。
また、遺留分侵害額請求権の時効は、遺留分権利者が相続の開始および遺留分を侵害する贈与・遺贈があったことを知った時から1年間です。この間に請求権を行使しなければ、時効によりもはや遺留分侵害額請求権を行使することはできません。
※遺留分放棄の念書をほかの相続人に対し、提出した場合、遺留分放棄の意思表示を念書で提出したと捉えれば、その念書は有効と考えらています。
また、念書などの書面を提出する必要もなく、「遺留分侵害額の請求」を行わない、または「遺留分を放棄する」と口頭で伝えた場合も遺留分を放棄したことになります。
※念書の内容をひるがえして遺留分請求をした場合、双方の納得がいかなければ、最終的には法廷で争うことになる可能性もあります。
■ 相続放棄と遺留分放棄の違い
同じような言葉により混同する人がいますが、遺留分の放棄は「相続放棄」とは異なります。
相続放棄は、法定相続人が「相続人としての地位」を放棄することです。
よって、はじめから相続人ではなかったことになり、資産も負債も相続することはありません。
また、生前の相続放棄は認められず、「相続開始と自分が相続人であることを知ってから3カ月以内」に家庭裁判所で「相続放棄の申述」をすることになります。
一方、遺留分の放棄は「遺留分」のみを手放すことであり、失うのは遺留分だけであり、相続権は失いません。
遺言により、相続財産が1人の相続人に集中される形式でも遺留分放棄をした相続人は残りの遺産を相続することもでき、負債も相続することになります。
■ 遺留分放棄のメリット
被相続人は、遺言や贈与によって特定の相続人や第三者に多くの財産を残したいと考えている場合、相続人により遺留分の放棄は大きなメリットとなります。
ただし、お伝えしてきたとおり、遺留分放棄は、その相続人にとって遺留分がなくなり、不利益になります。
その反面、人は誰でも自分の死後の遺産相続トラブルを望まないものです。
親であれば、死後に子ども達が相続争いをすることは何としても避けたいと思われるはずです。
しかし、遺留分侵害額請求が提起された場合、子ども達がいがみ合って親族付き合いもなくなるケースが多々あります。
せっかく遺言書を遺しても遺留分侵害額請求が行われると希望とおりに相続財産を相続させることが難しくなります。
遺留分を放棄により、遺言や贈与によって希望通りの創造人に財産を受け継がせることが容易となります。
■ まとめ
遺留分放棄により、遺留分を請求する権利を失います。
一方、遺留分放棄は相続放棄と異なり、財産を相続しなくなる権利ではないため、遺産分割協議などへの参加は必要となります。
そのため、相続手続きに関わりたくない場合やトラブルにの巻き添えにはなたくない、という方は相続放棄の手続きも行う必要があります。
遺留分放棄は相続発生前に行うこともできますが、家庭裁判所の許可が必要です。
許可を得る際には放棄する人が遺留分相当の代償を受け取っているかなども基準になるため、一方的に放棄させるのではなく生前贈与するかわりに遺留分放棄させるなどの対策は必要です。
遺留分放棄や遺留分対策については、専門的知識が必要となるため、相続に詳しい専門家へ相談されることをオススメします。
■記事の投稿者 飯島興産有限会社 飯島 誠
私は、予想を裏切るご提案(いい意味で)と、他者(他社)を圧倒するクオリティ(良質)を約束し、あなたにも私にもハッピー(幸せ)を約束し、サプライズ(驚き)のパイオニア(先駆者)を目指しています。
1965年神奈川県藤沢市生まれ。亜細亜大学経営学部卒業。(野球部)
東急リバブル株式会社に入社し、不動産売買仲介業務を経て、その後父の経営する飯島興産有限会社にて賃貸管理から相続対策まで不動産に関する資産管理、売買仲介、賃貸管理を行う。
コラムでは不動産関連の法改正、売買、賃貸、資産管理について、実務経験をもとにわかりやすく発信しています。
●資産管理(相続・信託・後見制度)につきましては、こちらをご参照ください。
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