
目次
- ■ はじめに
- ■ 孤独死の現状
- ■ 孤独死が発生した場合の流れ
- ■ 孤独死による費用負担
- ■ まとめ
■ はじめに
賃貸住宅において単身世帯の増加に伴い、孤独死の発生件数は増加傾向にあります。
賃貸物件における孤独死は、賃貸経営を行う貸主と管理会社にとって避けられない問題です。また、借主の連帯保証人や相続人にとっても大きな問題です。
そこで今回は、孤独死が発生した場合、貸主・借主の適切な対応や孤独死によって発生する費用はどの程度のものか、また、賃貸借契約はどのように扱われるのか、を考えてみます。
■ 孤独死の現状
令和6年8月警察庁が警察取扱死体のうち、自宅において死亡した一人暮らしの者:令和6年上半期(1~6月)を見ると自宅において死亡した一人暮らしの者は37,227人であり、そのうち65歳以上の高齢者の孤独死の数は、28,330人というデータが出ています。
このデータは令和6年(2024年)の上半期部分ですので1年では、おそらく50,000人前後人が孤独死しているのではないかと考えられます。
警察取り扱い死体のうち、自宅において死亡した一人暮らし者:令和6年上半期(1月~6月)

また、日本少額短期保険協会が毎年発表している「孤独死現状レポート」によれば、孤独死した方々の平均年齢は「62.8歳」であり、男性「63.0歳」、女性「61.8歳」であり、平均寿命男性「81.09歳」、女性「87.14歳」よりかなり若く亡くなられていることがわかります。
その後、60~69歳、70歳~79歳と高齢者も続きますが、孤独死全体の47.5%は、20代~50代までの「現役世代」なのです。
これは、孤独死が高齢者だけの問題ではないことを示しています。
次に亡くなった方々の死因ですが、最も多いのは「病死」で、全体の62.0%を占めます。
また病死に続き多い死因は「自殺」で、特に20代~30代に多く見られます。これも社会から「孤立」した若者が、自ら死を選んでしまうケースが多いためと考えられます。世代を問わず、社会から「孤立」することは、悲しい結末につながってしまう傾向にあります。
この孤独死された方すべての方が賃貸住宅に居住していたわけではありませんが、賃貸住宅内における孤独死者数も多くの死者数があるということは考えられます。
日本少額短期保険協会による 第9回 孤独死現状レポート
■ 孤独死が発生した場合の流れ
孤独死が発生した場合、その後の流れは以下のとおりです。
●遺族の確認が取れた場合・・・3.~6.は状況により順番は変更します。
1.警察による現場検証、検死
2.遺族に「入居者の死亡」について連絡する
3.遺体の引き取り
①死亡届の提出
②葬式
③火葬
4.原状回復(特殊清掃が必要な場合を含む)や遺品整理について話し合う
5.遺品、残置物の片づけ
6.特殊清掃
7.賃貸借契約の解約
8.原状回復費用の精算を行う
1.警察による現場検証、検死
孤独死の発生により、警察による現場検証が行われます。
孤独死は事故死や病死以外にも、他殺の可能性もあるため、事件性の有無を調べる必要性から行われます。
警察により、事件性がないことが立証されるまでは、現場となる賃貸住宅へは警察以外の出入りができなくなります。
※遺族、貸主、管理会社も立ち入りができません。場合によっては携帯電話や貴重品が没収されます。
※事件性がない場合、司法解剖により、死因や死亡時刻の特定が行われます。目安として1週間〜10日間ほどです。
2.遺族に「入居者の死亡」について連絡する
現場検証の前後に管理会社から遺族の連絡先を伝え、親、子、兄弟姉妹など遺族に対し連絡が行われます。
3.遺体の引き取り
警察から死亡された旨の連絡を受けたら、指定された場所に伺い、遺体を引き取ることになります。
遺体を引き取る際は以下のような書類が必要になります。
・故人の身分証明書
・遺体を引き取る方の身分証明書
・印鑑
※死亡時の状況、死亡推定時刻、死因などの説明後、遺体を引き取る。
※遺体の引き取りと併せて死体検案書が渡されます。この死体検案書は火葬の許可に必要となる書類です。
※死体検案書の費用について事前に確認してください。
①死亡届の提出
死亡届は指定の区役所、市町村役場に提出する書類で、死亡の知らせを受けてから7日以内に提出する必要があります。
・死亡届を提出する先
死亡者の死亡地・本籍地又は届出人の所在地の市役所,区役所又は町村役場
・死亡届を提出できる人
親族、同居者、家主、地主、家屋管理人、土地管理人等、後見人、保佐人、補助人、任意後見人、任意後見受任者
②火葬
孤独死の遺体は、死亡から時間が経過していることが多く、腐敗により早急な火葬が必要な場合が多く、遺体を遺族のところまで届ける前に火葬してしまう場合があります。
③葬式
遺体や遺骨が届いたら葬式となります。孤独死と言っても一般的な葬式とまったく変わりません。
●遺族の確認が取れない場合
親、子、兄弟姉妹など遺族と連絡取れない場合があります。また、親、子、兄弟姉妹など遺族遺族との関係性が良好というわけではなく、遺体の引き取りを拒否されてしまう場合もあります。
遺体の引き取りを拒否されてしまった場合、「行旅病人及行旅死亡人取扱法」にもとづき、自治体が火葬をすることになります。
火葬した後の遺骨を引き取る方が出てこなければ、一定期間保管したのち、無縁塚(無縁墓)に埋葬されることになります。
4.原状回復(特殊清掃が必要な場合にはその旨)や遺品整理について話し合う
遺体の引き取りをされる場合、または遺品の整理をされる場合の状況を判断し、遺族と賃貸借契約の解約、未払い賃料、原状回復費用、残置物の撤去、逸失利益について説明を行う必要があります。
遺族側からしてもこの解約手続きや費用負担については気にされている方が多いはずです。
※逸失利益とは、事故がなければ得られたはずだった利益を指します。事故物件においては、主に以下のような損失分を相続人や連帯保証人に請求できます。
①減額した分の家賃
②空室期間の損失分
③他の入居者の退去による損失分
5.遺品、残置物の片づけ
葬儀が済んだら遺品の整理となります。
賃貸物件の場合、すみやかに遺品を整理して、貸主へ引き渡す必要が生じます。
※時間がかかる場合、賃料が引渡しまで必要となりますので注意が必要です。
※携帯電話、クレジットカード、電気、ガス、水道、インターネット回線など、解約が必要となるものがあります。
※残置物を処分する場合、連帯保証人や遺族が遠方の場合には、管理会社などに残置物の処理を依頼することも可能です。
この場合、残置物の撤去を完全に一任するのか、または一部は遺族が撤去するのか、取り決めることになります。
6.特殊清掃
孤独死により遺体に腐食など生じた場合、汚れや悪臭が残る場合があります。
この場合、専門業者による特殊清掃が必要となります。
7.賃貸借契約の解約
解約手続きを行わない場合、賃料の支払いが継続してしまいます。
解約手続きにて解約日を設定し、それまでの間にて上記に示した手続きを行うようスケジュールを組み建てることが大切です。
■ 孤独死による費用負担
孤独死が発生した場合、遺族は損害賠償しなければならないのか、遺族からすれば不安になるものです。
一方、貸主側から見た場合、所有する賃貸物件が事故物件になった場合、状況によっては遺族に損害賠償を請求できます。
孤独死が発生した場合の判断基準は、「死因」であり、「入居者の死に故意・過失が認められるか」という点が重要となります。
現在、裁判所の判例を見ると、原状回復義務について、
「賃借人の故意または過失や通常の使用方法に反する使用など、賃借人の責めに帰すべき事由による住宅の損耗があれば、賃借人がその復旧費用を負担する。」
という考え方を示しています。
事故物件になった原因が借主の孤独死である場合、基本的に賠償責任を問うことはできません。
これは、病気や老衰、家庭内の事故などによって亡くなった場合、通常は本人の過失とはみなされないためです。
また、家賃収入の減少や原状回復費用などで大きな損失が出たとしても、遺族や連帯保証人に損害賠償請求することは法的に難しくなります。
では、どのような場合に貸主は、損害賠償が請求でき、借主遺族は損害賠償を負わなければならないのか、貸主から見た場合を考えてみます。
■ 孤独死:病死・・・遺族への損害賠償請求は基本的にできない
孤独死、病死は本人に過失はないので、遺族に損害賠償を請求することはできません。
国土交通省の「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」にも、老衰や病死といった自然死は心理的瑕疵に該当しない旨記載されています。
ただし、遺体の発見が遅れて特殊清掃や大規模なリフォームが必要になった場合は例外であり、借主の賃貸借契約に基づく原状回復義務の内容として、遺体周辺の作業に関する費用を遺族、連帯保証人に請求できる場合があります。
■ 自殺:遺族に損害賠償を請求できる
自殺は本人の意思(故意)により行われるため、その自殺による貸主が生じた損害の賠償義務は、相続人に相続されることになります。
具体的には、「逸失利益」および「原状回復費用」を遺族へ請求することは可能です。
①家賃の値下げによる損害賠償
国土交通省の「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」では、自殺や他殺が発生した場合、3年間は借主への告知義務が生じることが定められています。
このガイドラインから、告知を必要とした物件は、3年間は賃料を値下げのうえ、募集することになります。ただし、賃料を値下げしたとしても借主が見つかるとは限りません。
この場合、事故物件化によって減った家賃収入を、遺族に損害賠償として請求できることになります。
※物件内で孤独死が発生しますと、孤独死=事故物件→賃料の減額、と考えがちですが、老衰や病死・不慮の事故による人の死は、生活していれば当然に起こり得ることです。
よって、自然死・事故死による孤独死は、原則として借主に不安や嫌悪感を与える「心理的瑕疵」に該当せず、家賃を減額する必要もないと考えられています。
②原状回復費用
通常、経年劣化による原状回復費用は貸主が負担します。
しかし、入居者の自殺によって室内が汚損された場合は、特殊清掃などにかかった費用を原状回復費用として遺族、連帯保証人に請求できることになります。
■ 他殺:遺族への損害賠償請求はできない
他殺は本人の意思ではなく入居者の故意・過失はないため、物件が損害を受けたとしても遺族、連帯保証人への損害賠償はできないと考えられています。
特殊清掃を含め原状回復の費用については貸主が負担することになります。
また、メディアなどにより事件が報じられることにより、物件の資産価値が大きく下がることにもなります。
ただし、他殺の場合、犯人には逸失利益と原状回復費用の損害賠償を請求することが可能ですが受け取ることはかなり難しいと言わざるを得ません。
■ まとめ
孤独死発生後の賃料や原状回復費用の支払い義務は、相続人と連帯保証人です。
相続人全員が相続放棄をしてしまうと、連帯保証人のみ対象となりますので注意が必要です。
賃料については、「明渡しが完了する時まで」の賃料の請求となり、原状回復については国土交通省によるカイドラインに沿った請求となります。
借主の孤独死や自殺、殺人などの事件は一歩間違えると貸主へ多大な被害を及ぼすことになります。
孤独死はいつ発生するとも限らず、貸主の対応の誤りから、費用負担が高額になってしまったり、原状回復や損害賠償の請求ができなかった、と言うこともあります。
孤独死が発生した場合、貸主側から見て起きたことは仕方のない事実として遺族や隣接する部屋の入居者の対応を適切に行い、風評被害を抑えながら、遺族や連帯保証人の対応を適切にすることを意識しながら、被害を最小限に抑えることが必要であるため、借主側もできる限り協力していただけるようお願いしたいものです。
■記事の投稿者 飯島興産有限会社 飯島 誠

私は、予想を裏切るご提案(いい意味で)と、他者(他社)を圧倒するクオリティ(良質)を約束し、あなたにも私にもハッピー(幸せ)を約束し、サプライズ(驚き)のパイオニア(先駆者)を目指しています。
1965年神奈川県藤沢市生まれ。亜細亜大学経営学部卒業。(野球部)
東急リバブル株式会社に入社し、不動産売買仲介業務を経て、その後父の経営する飯島興産有限会社にて賃貸管理から相続対策まで不動産に関する資産管理、売買仲介、賃貸管理を行う。
コラムでは不動産関連の法改正、売買、賃貸、資産管理について、実務経験をもとにわかりやすく発信しています。


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