お問い合わせ・お見積りはこちらから

0466-82-5511

NEWS

12.82025

賃貸借における「原状回復」の貸主・借主の負担、を考える

目次

  • ■ はじめに
  • ■ 原状回復とは 
  • ■ 借主の賃借人の故意・過失、善管注意義務として扱われる事例
  • ■ 原状回復における費用負担
  • ■ まとめ

■ はじめに


賃貸物件において未だ貸主と借主との間で認識のズレが生じていることがあります。この認識のズレとは「原状回復に関すること」です。

この認識のズレが誤解を招きトラブルの要素となります。そこで今回は 「原状回復」についてその誤解の素と注意点を考えてみます。

■ 原状回復とは


借主から見れば、退去時に故意・過失や通常の使用を超える使用によって生じた損傷(汚れやキズなど)を賃貸借契約を締結した時点の状態に戻すことになります。

ただし、原状回復は「賃貸借契約を締結した時点の状態に戻すこと」が原則ですが、どのような理由で傷や汚れが生じたのか、という点が問題になります。

民法の改正により原状回復の定義は以下のとおりです。

「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失・善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」

であり、① 賃借人の通常使用により生ずる損耗、② ①以外の損耗となります。

①にある「通常使用による損耗」とはどのようなことか、例を挙げると次のようなことをいい、これらは貸主の負担となるため、借主には原状回復による負担は発生しません。

●採光日光によるもの(畳日焼け・フローリングの変退色・壁紙の日焼けや劣化)

●家具配置による床のへこみや痕跡

●テレビや冷蔵庫等、家電設置による背面クロスの電気焼け

●下地ボードに影響を及ぼさない程度の画鋲などの跡

●設置機器の機械寿命を原因とする不具合や故障

●建物の構造的な欠陥であると予測されるもの(クロスのカビ・雨漏り跡やシミ・よじれ)

次に原状回復において借主の負担となるのは「故意・過失・善管注意義務違反」として判断される以下のようなものです。

●引っ越し・家電搬入時などの損傷

●飲食物などをこぼしたことによるシミ

●タバコによる焼け焦げや穴、壁紙の変色や匂い

●下地に影響を与えるほどの壁穴

●結露の放置が原因と特定されるカビやシミ

●手入れを怠ったことによる浴室やトイレのカビや水垢

●鍵の紛失、もしくは使用方法の問題により発生した破損による交換

●逸脱した使用方法による設備機器の故障


■ 借主の賃借人の故意・過失、善管注意義務として扱われる事例

●借主は一般的に室内を清潔に保つように努力することは当然です。しかし、いくら室内を清潔に保っていても汚れなどが残ってしまうことがあります。

この清潔に保っていながら残ってしまう汚れなどは「経年に伴う劣化」に該当します。

しかし、室内の汚れを放置してしまい、結果、カビが繁殖し、掃除とは別に取り換えが必要となる場合にはります。

その場合には「通常使用による損耗」とは言えず故意や過失として取り扱われます。

●室内の設備や備品は使用頻度により壊れ場合があります。使用頻度により壊れた場合、借主の過失などはありませんが、壊れたままの状態で放っておくと修繕さえできなくなる場合があります。

この場合、借主の故意や過失でない場合においても善管注意義務違反として取り扱われる場合があります。

■ 原状回復における費用負担


国土交通省より「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」が公表されています。このガイドラインにおいて原状回復費用の金額の算定について、次のように記載があります。

ガイドラインの詳細については、以下のリンクをご覧ください。

◆資料「原状回復をめぐるトラブルとガイドラインに関する参考資料」はこちら
 https://www.jpm.jp/wp-content/uploads/2023/05/251741.pdf

◆国土交通省ホームページ「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」についてはこちら
 https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk3_000020.html



「賃借人の負担については、建物や設備等の経年変化を考慮し、年数が多いほど負担割合を減少させることとするのが適当である。」

これはどのようなことかといいますと、原状回復において壁紙が問題となるとして、その室内に1㎡あたり1500円の壁紙を貼ったとします。

その壁紙は、年数の経過により価値が下がっていき、同じ壁紙でも取り替えたばかりの壁紙と5年が経過した壁紙とでは価値が違うということです。
 ※壁紙は、6年で残存価値が0になるとしています。

では、6年経過した壁紙の残存価値が0となるのであれば、洗剤で取れないほどの落書きや破いても借主は原状回復の責任はないのでしょうか。

答えは、原状回復の責任が生じることになります。ガイドラインには、次のとおり記載されています。

「経過年数を超えた設備であっても、継続して賃貸住宅の設備等として使用可能な場合があり、このような場合に賃借人が故意・過失により設備等を破損し、使用不能としてしまった場合には、賃貸住宅の設備等として本来機能していた状態にまで戻す。

例えば、賃借人がクロスに故意に行った落書きを消すための費用(工事費や人件費等)などについては、賃借人の負担となる。」

このように、残存価値が0の場合においても、使用可能な設備等を破損させた場合、元の状態に戻す費用を負担しなくてはなりません。

では、どのように負担を取り決めるのか、これについては借主は壁紙などの材料費を負担する必要はない、とされています。

借主が負担するのは壁紙の張り替え、落書きを消す作業を行う業者の工事費や人件費等の負担をしなければならない、ということになります。

ここで注意する必要があるのは、ここ数年人権が割高になっており、ほんの少しの工事ででは材料費より人件費の方が高くなる傾向があります。

また、裁判例では、「耐用年数を経過していても賃借人が善管注意義務を尽くしていれば、張替えは必須ではなかった」としているケースもあります。

たとえ、経過年数を超えた設備等であっても、修繕等の工事に伴う負担が必要となることがあり得ることを借主は注意する必要があり、

「経過年数を超えた設備等を含む賃貸物件であっても、賃借人は善良な管理者として注意を払って使用する義務を負っていることは言うまでもなく、そのため、経過年数を超えた設備等であっても、修繕等の工事に伴う負担が必要となることがあり得る」

とし、耐用年数が経過した設備については経済価値がないという借主の主張を否定し、借主に賃貸物の善管注意義務(民法第400条)違反があるとして、賃貸人が請求した賃借人の原状回復費用の負担を容認したものです。

以上のことなどから、負担割合は事情にもより判断することが望まれるが少なくとも貸主7・借3の比率が妥当と考えられる。

■ まとめ


原状回復における「通常使用による損耗」は貸主の負担、故意・過失の場合は借主の負担となります。

また、貸主と借主の間で合意があれば、特約を賃貸借契約と合わせて結ぶこともできます。

この場合、一定のルールが定められており、ルールは以下のとおりとなります。

・その特約に必要性があり、暴利的ではないということ。

・借主が、通常の現状回復のルールを超えた部分も負担をしているということを理解していること。

・貸主と借主の間で、特約の内容を合意していること。

なお、国土交通省のガイドラインでは、ケースを想定した記載もされています。原状回復に疑問が生じた場合、この国土交通省のガイドラインを参考にされ、専門家と相談されることをおススメします。


■記事の投稿者 飯島興産有限会社 飯島 誠

私は、予想を裏切るご提案(いい意味で)と、他者(他社)を圧倒するクオリティ(良質)を約束し、あなたにも私にもハッピー(幸せ)を約束し、サプライズ(驚き)パイオニア(先駆者)を目指しています。

1965年神奈川県藤沢市生まれ。亜細亜大学経営学部卒業。(野球部)
東急リバブル株式会社に入社し、不動産売買仲介業務を経て、その後父の経営する飯島興産有限会社にて賃貸管理から相続対策まで不動産に関する資産管理、売買仲介、賃貸管理を行う。
コラムでは不動産関連の法改正、売買、賃貸、資産管理について、実務経験をもとにわかりやすく発信しています。

●資産管理(相続・信託・後見制度)につきましては、こちらをご参照ください。

●ご売却をご検討の方は、こちらをご参照ください。

●賃貸をご検討の方は、こちらをご参照ください。

#不動産 #売買 #賃貸 #解約 #解約通知書 #解約予告期間 #更新 #更新料 #解約の注意点 #解約予告期間の注意点