
目次
- ■ はじめに
- ■ 委任状とは
- ■ 捨印とは
- ■ 軽微な修正とはどの範囲を言うのか
- ■ 権限を逸脱した場合
- ■ 実務上の注意点
- ■ まとめ
■ はじめに
仕事においてお客様に頼まれ市役所へ住民票を取得しに行く、ということが考えられます。
誰かに頼まれ、誰かの書類を取得する場合、委任状が必要となります。しかし、この委任状が間違えていた場合どうすればよいのでしょうか。
捨て印を押してもらっているのだから受任者が修正・訂正しても問題ないのでしょうか。それとも委任者が再度修正しなければならないのでしょうか。
そこで、今回は、この委任状について誰がどこまで修正可能なのか、を考えてみます。
■ 委任状とは
委任状は、不動産売却、住民票・戸籍の取得、各種手続きを代理人(受任者)に依頼する際、その行為が本人の意思に基づくことを証明する文書です。
偽造を防ぐため、主に委任者本人が作成し、目的・受任者・日付などを明記することになります。
●委任状の概要と重要ポイント
定義: 代理人へ「代理権」を与えたことを証明する書面。
用途: 本人が病気、多忙、遠方にいるなどの理由で直接手続きできない場合に必須となる。
①必須記載事項
タイトル: 「委任状」
委任者情報: 代理を依頼する人(氏名・住所)
②受任者情報
手続きを行う代理人(氏名・住所)
代理権を与える内容: 具体的に記載(例:〇〇の証明書発行)
作成日:委任者が署記名押印した日
押印(自治体によっては認め印が必要な場合がある)
■ 捨印とは
捨印とは、委任状等の余白に予め押す印鑑で、誤字脱字等の軽微な修正を後から行うことを認める意思表示です。
また、委任状等に誤りがあった場合、委任者が提出先に出向いて「訂正印」を押す手間を省くために、あらかじめ欄外に押しておく印鑑のことです。
捨て印の正しい使い方
押す場所: 書類の上部または横の余白(欄外)に押します。専用の「捨印」欄がある場合はそこへ押してください。
使用する印鑑: 署名捺印に使ったものと同じ印鑑(実印なら実印、認印なら認印)を使用します。
①修正のやり方
間違えた箇所に二重線を引き、その近くに正しい文字を書きます。
捨て印の横に「○文字削除 ○文字追加」のように、修正した文字数を書き込みます。
②捨印の法的効力
捨印は、主に誤字脱字や軽微な内容訂正(日付、数字、受任の住所など)を、後日その場で修正するために使用されます。
法的効力として、訂正印と同等に訂正箇所への同意と見なされます。ただし、委任内容の根幹(委任項目等)を一方的に変更できる権限はありません。
1.捨印の法的効力と範囲
①訂正権限の付与
相手方に対して、軽微な修正を行う権限を事前に与えるものです。
②法的根拠
最高裁の判例(昭和53年10月6日)により、債権者が無制限にどのような条項でも書き込めるわけではないとされています。
③有効な範囲
一般的に、誤字、脱字、日付、単位などの「軽微な修正」に限られます。
2.捨印のリスクと注意点
①悪用リスク
契約の根幹に関わる内容が勝手に書き換えられるリスクは限定的とはいえ、信用できない相手には押すべきではありません。
②義務はない
捨て印を押す法的な義務はなく、契約は調印欄の押印で有効に成立します。
③トラブル回避策
「何を修正するための捨て印か」を相手と確認し、余白に「本捨印は軽微な修正に使用する」等の文言を記載する、あるいは、内容を修正してから再押印・訂正印対応する方が安全です。
3.訂正印との違い
①タイミング
訂正印は誤りが発覚した後、捨て印は訂正を想定して事前に押します。
■ 軽微な修正とはどの範囲を言うのか
「軽微な修正」とは、契約の根本的な内容を変えず、客観的に見て誤りであることが明らかな箇所の直しを指します。
具体的にどのような内容が含まれるのでしょうか。
1.「軽微な修正」に該当する具体例
以下の項目は、一般的に捨て印での訂正が認められやすいと考えられています。
①誤字・脱字の修正
漢字の変換ミス、送り仮名の修正。
②明らかな脱字の補足。
固有名詞の一部修正
③氏名、住所、会社名の表記ミス
④数字の単位や形式の修正
※「円」を「万円」と書き間違えた場合などの単位修正
⑤日付の形式修正(例:和暦と西暦の混在の統一など)。
⑥表記ゆれの統一
同じ書類内で「甲」と「A」が混在している場合にどちらかに合わせるなど。
2.「重要事項」とみなされ、捨印では認められない例
これらは契約の効力に問題が生じるため、捨印を用いて受任者が変更することは法的リスクが生じたため、原則として認められません。
①金額の変更
売買代金、給与、借入金額などの増減。
②期間・日時の変更
契約期間の延長、支払い期日の変更、引渡し日の変更。
③当事者の交代
契約を結ぶ相手そのものを別人に書き換える。
④条件の追加・削除
利息(遅延損害金)の利率の書き込みや、免責条項の無断追加など。
3.判断の基準
裁判所等は、委任状等において修正を行った場合、委任者がどのようにしたかったか、を考え判断します。
①認められる基準
誰が見ても「単なる書き間違い」であり、直しても契約の損得が変わらないもの。
②認められない基準
修正することでどちらかが有利・不利となる場合、または、合意した内容自体が変わってしまうもの。
※安心対策
委任者が万一、不安であれば、捨印を押す場合、余白部分へ「誤字脱字の訂正に限り使用可能」と記載しておくことにより、重要事項を書き換える心理的・法的な抑止力になります。
※修正方法
委任状に捨印がある場合、受任者は軽微な誤字・脱字であれば訂正可能です。
修正箇所に二重線を引き、正しい内容を記載のうえ、欄外の捨印付近に「〇字削除、〇字加入」と記載します。
※注意点
法務局や市区町村の窓口によっては、捨印での訂正を認めない場合があるため、事前に確認することをお勧めします。
■ 権限を逸脱した場合
受任者が捨印を悪用し、委任者の意図しない内容に書き換えた場合、以下のような法的トラブルに発展する場合があります。
①私文書偽造・変造罪
権限を超えた書き換えは刑法上の犯罪に該当する恐れがあります。
②契約の無効・取り消し
書き換えられた内容に基づいた契約の効力を争うことができます。
※不動産登記や銀行手続きなどの公的な実務では、法的な有効性とは別に「窓口の審査基準」が優先されます。
※公的機関では、捨印による訂正を「形式的な誤りの修正」に限定しており、重要な項目に二重線がある場合は、たとえ捨印があっても「本人の訂正印(実印など)」を求められるか、書類の再作成を指示される可能性が高くなります。
■ 実務上の注意点
法的には問題なし、とされた場合でも提出先(役所、銀行、法務局、警察署など)の判断により、以下の対応を求められる場合があります。
①本人確認書類との一致
修正後の住所が、受任者の身分証明書と完全に一致している必要があります。
②修正の仕方
修正箇所に二重線を引くだけでなく、余白の捨印の近くに「受任者住所 3字削除 5字加入」のように、具体的に何文字直したかを明記するよう求められることが多いです。
③行政手続(車庫証明など)
警察署や陸運局などは、住所の修正に非常に厳しい場合があります。捨印があっても「二重線の上に受任者の認印(訂正印)」を重ねて押すよう指示されることもあります。
■ まとめ
捨印の法的限界を明確にした判決として最高裁昭和53年10月6日の判決があり、この判例が捨印の法的限界を明確にしたものとされ、「捨印があれば何でも書き換えて良いわけではない」という規定を確立しています。
1.事案の概要
①状況
金銭消費貸借契約(借金)の証書で、「遅延損害金」の欄が空白になっていた。
②受任者(債権者)の行為
債権者が、預かっていた「捨印」を利用して、空白欄に「年3割」という高い利率を勝手に書き加えた。
③争点
捨印があることをもって、債権者にこうした重要事項の記入権限まで与えたと言えるか。
2. 判旨(裁判所の判断)
最高裁は、以下のように述べて債権者の主張を退けました。
捨印があっても、特段の事情がない限り、債権者がどのような条項でも自由に記入できるわけではないと判示しました。
このことから重要事項の追加は無効とされる可能性が高いという見解です。
3. この判例から言えること
①基本原則
捨印の権限は「契約の趣旨に反しない範囲」に限られます。
②重要事項の制限
利率や金額など、契約の根本的な変更は認められないと判断されました。
③実務上の解釈
一般的に、誤字・脱字などの軽微な訂正の範囲内でのみ有効とされています。
「捨印を押す」という行為自体が、受任者に対して「文書の不備を訂正する権限(補充権)を与えた」とみなされます。
判例(最高裁昭53.10.6)においても、捨印がある以上、受任者が内容を書き換えることについて「一応の事実上の推定」が働くとされています。つまり、「ある程度の修正があれば修正することを認める」と容認したものとして扱われるのが基本です。
ただし、その「ある程度の修正」の解釈には以下の境界線があります。
1.認められる「ある程度」の範囲
基本的には「文書の同一性を損なわない範囲」です。
誤字・脱字の修正
住所の表記ゆれの訂正(受任者の住所修正など)
明らかな計算ミスの修正
これらは、委任の目的(何を頼んだか)が変わらないため、捨印の権限内として広く認められます。
※委任内容の本質を変えるものでない限り認められる。
2.争いになる(認められない)ケース
「ある程度」を超えていると判断されるのは、「委任者の不利益になる変更」や「意思に反する変更」です。
金額の書き換え(10万円を100万円にする等)
白紙部分への重要条項の勝手な追加(高い利息を設定する等)
これらは、たとえ捨印があっても「そこまでは許していない(権限外)」として、裁判で無効とされる可能性が高いです。
■記事の投稿者 飯島興産有限会社 飯島 誠

私は、予想を裏切るご提案(いい意味で)と、他者(他社)を圧倒するクオリティ(良質)を約束し、あなたにも私にもハッピー(幸せ)を約束し、サプライズ(驚き)のパイオニア(先駆者)を目指しています。
1965年神奈川県藤沢市生まれ。亜細亜大学経営学部卒業。(野球部)
東急リバブル株式会社に入社し、不動産売買仲介業務を経て、その後父の経営する飯島興産有限会社にて賃貸管理から相続対策まで不動産に関する資産管理、売買仲介、賃貸管理を行う。
コラムでは不動産関連の法改正、売買、賃貸、資産管理について、実務経験をもとにわかりやすく発信しています。

●資産管理(相続・信託・後見制度)につきましては、こちらをご参照ください。
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