目次
- ■ はじめに
- ■ 公正証書とは
- ■ 公正証書のメリット
- ■ 公正証書のデメリット
- ■ 公正証書の種類
- ■ 不動産に関する公正証書
- ■ 賃貸管理で活用される場合
- ■ その他・・・確定日付
- ■ まとめ
■ はじめに
公正証書と言えば、「遺言書」など連想される方多いはずです。しかし、公正証書は「遺言書」などの他にも重要な役割を果たしています。
例えば不動産売買や不動産賃貸借などの契約に関する公正証書、公証人が現地に赴いて土地の境界を確認し、その結果を記録する事実実験公正証書、他人の借金に対して誰かが保証人になる際、その人が借金の内容やリスクを十分に理解して保証人になる意思を示す公文書となる保証意思宣明公正証書があります。
これらの公正証書のうち、今回は、不動産売買や不動産賃貸借などの契約に関する公正証書についてまとめてみます。
■ 公正証書とは
公正証書とは、私人(個人または会社その他の法人)からの依頼により「公証人」が作成する文書を公正証書といいます。
公証人は、国家公務員法上の公務員ではありません。
しかし、国の公務である公証作用を担う実質的な公務員であり、原則として、裁判官や検察官あるいは弁護士として法律実務に携わった者で、公募に応じたものの中から、法務大臣が任命されています。
また、永きにわたり法務事務に携わり法曹有資格者に準ずる学識経験を有する者で公募に応じ、かつ、検察官・公証人特別任用等審査会の選考を経たものについても、法務大臣が公証人に任命しています。
■ 公正証書のメリット
公正証書にはどのような働きがあるのでしょうか。主に次の3点が考えられます。
①証明力や信頼度が高い
公正証書は公務員がその権限に基づいて作成した書類であるため、証明力や信頼度が高い。
②金銭の支払いに関する強制執行力がある
金銭の支払いを目的とした公正証書の場合、文書内に「金銭支払いを強制執行する旨」が記載してあれば、債務者の支払いが滞ったとき直ちに財産の差し押さえを行うことができる。
※金銭の債務の未納などの場合、債務の確定から強制執行まで2段階の手続きが必要となりますが公正証書には執行力があるため迅速に債権者の権利を守ることができます。
③偽造や紛失のリスクが少ない
公正証書は法務省が管轄する「公正役場」にて厳重に保管されますので、通常の契約書と比較して偽造や紛失の心配がない。
つまり、公正証書は通常の契約書よりも証明力や信頼度が高く、金銭の支払いに関しては強力な執行力を有する公文書です。
④心理的圧迫の効果がある
公正証書には、心理的に圧力をかける効果もあります。
「強制執行認諾約款」が記載されている場合、支払いが滞った際に銀行口座から直接回収でき、債務者に対して心理的な圧力をかけることができ、支払の遅延を防ぐ効果が期待できます。
万一、支払いの遅延が発生した場合など公正証書があることで対処しやすくなるなり、トラブルの抑止効果としても期待できるのです。
■ 公正証書のデメリット
いくつかデメリットがありますが、主なものを紹介したいと思います。
①手続きが煩雑である
公正証書は面前で確認する必要があることから、原則として公証人役場に足を運ぶ必要があります。もちろん、委任状で対応することも可能ですが、代理人を手配する必要があります。また、本人確認書類等の必要な書類が多く、それだけ煩雑です。
②作成手数料がかかる
公正証書の作成手数料は、目的とする財産の価額に応じて、次のとおり定められています。
・100万円以下 5000円
・100万円を超え200万円以下 7000円
・200万円を超え500万円以下 11000円
・500万円を超え1000万円以下 17000円
・1000万円を超え3000万円以下 23000円
・3000万円を超え5000万円以下 29000円
・5000万円を超え1億円以下 43000円
詳しくは、日本公証人連合会のHPに記載されていますので、ご確認ください。
■ 公正証書の種類
公正証書には、契約に関する公正証書、単独行為に関する公正証書、保証意思宣明公正証書、事実実験公正証書があります。
①契約に関する公正証書
公正証書を作成する契約としては、土地建物賃貸借契約、任意後見契約、民事信託契約、金銭消費貸借などがあります。
②単独行為に関する公正証書
契約は、相対立する当事者間の意思表示の合致によるものですが、それとは異なり、 一人の当事者の意思表示によって成立する法律行為を「単独行為」といいます。
公正証書によって行われる単独行為の圧倒的多数が、「遺言」です。
遺言は、民法上、その方式に従わなければすることができないとされており(民法960条)、 基本的には、自筆証書、公正証書又は秘密証書による(民法967条)必要があります。
③保証意思宣明公正証書
2020年4月1日施行の民法改正で、事業用融資の保証契約に関し、新たな規制が導入されました。
従来、保証人になろうとする者が、保証人になることの意味やそのリスク、具体的な主債務の内容等について十分に理解しないまま保証契約を締結してしまい、結果として、保証債務により生活が破綻してしまう事例が散見されました。
このような事態を防止するため、 事業用融資の保証については、公証人があらかじめ保証人になろうとする者から直接 その保証意思を確認して公正証書を作成することが必要と定めたのです。
④事実実験公正証書
事実実験公正証書とは公証人が直接体験した事実に基づいて作成した公正証書をいいます。
公証人が見る、聞くなど直接体験(事実実験)した事実に基づいて作成した公正証書を「事実実験公正証書」と言います。
「事実実験公正証書」は、証拠を保全する機能を有し、権利に関係のある多様な事実を対象としています。
(例えば)
・相続財産を把握するために、貸金庫の中身を確認する
・自社の特許を、他社が無断使用している状況を確認する
・土地の境界争いの、現場の状況を確認する
などです。
■ 不動産に関する公正証書
契約に関する公正証書は、任意後見契約、民事信託契約、不動産の売買・不動産の賃貸借、金銭消費貸借などの契約内容を公に証明してくれます。
また、不動産に関する公正証書としては、不動産賃貸借契約と不動産売買契約が挙げられます。
①不動産賃貸借契約
不動産賃貸借契約を締結する際には、借地借家法に基づいて書面での契約が必要です。
不動産賃貸借契約を公正証書として作成することは必ず必要ではありませんが、契約内容を明確にするために作成されている場合もあります。
なお、土地・建物賃貸借契約のうち事業用借地権契約、定期借地権契約、定期建物賃貸借契約は、借地借家法の規定上、契約の方式に制限があります。
事業用借地権契約、定期借地権契約、定期建物賃貸借契約以外の土地・建物賃貸借契約を公正証書を作成する場合、賃貸借の期間や賃料、使用目的、更新料、敷金、保証金、原状回復の範囲などの詳細を記載します。
また、「強制執行認諾約款」を含めて記載すれば賃料の支払い延滞した場合、強制的に差し押さえを行うことも可能です。
②不動産売買契約
不動産売買契約は、売主と買主の合意があれば成立します。
売買契約書はその証拠としての役割を果たします。
しかし、不動産売買契約は、賃貸契約と比べて金額が大きく動くため、トラブルを防ぐためにも公正証書を作成する場合があります。
公正証書に記載する内容として対象となる土地・建物に関する詳細は勿論ですが、支払い時期・方法、引渡しの時期、所有権移転の時期、手付金に関する事項、災害などによる破損や滅失について、強制執行に関する事項を記載するため、契約に関する誤解やトラブルを未然に防ぐことができます。
■ 賃貸管理で活用される場合
賃貸管理で公正証書が活用されるのはどのようなときなのかを把握しておくことも重要です。具体的には以下のような場面で活用されます。
①契約に関するトラブルを回避したいとき
賃貸借契約書を公的な文書として作成することで、契約に関するトラブルを回避できます。例えば、物件の使用目的や賃料の増減、賃貸期間などがトラブルの原因になりやすいです。
こうしたトラブルを避けるために、これらの要素を公正証書で明確にしておくとよいでしょう。公証人が作成した書類は効力が強く、契約内容に疑いの余地がなくなるため、トラブルの予防に役立ちます。
②家賃滞納者に支払いを強制したいとき
家賃を滞納している人に支払いを督促する際、公正証書が非常に効果的です。契約時に公正証書を作成し、家賃滞納時に強制的に徴収できることを明記しておけば、滞納者の銀行口座や財産を差し押さえることが可能です。通常、家賃の滞納から督促、裁判、そして強制執行までのプロセスを経る必要がありますが、公正証書があれば賃料回収までの時間を大幅に短縮できます。
ただし、公正証書の効力は家賃の支払いに関することに限られます。物件からの強制退去には適用されませんのでご注意ください。
■ その他・・・確定日付
契約書等の私文書では、その作成年月日が重要な意味を持つことが少なくありません。
後々、その作成した私文書が作成日付を変更されて紛争となることを防ぐため、確定日付の存在が極めて重要になります。
私署文書が確定日付印の日付において確実に存在していたことを証明するのが、確定日付です。
あくまでも書類が存在していることの証明ですから、内容について証明されている訳ではありませんが不動産関係でもっとも利用していると言ってもいいかもしれません。
なお、確定日付の付与は、文書の成立や内容の真実性についてはなんら公証するものではありません。
確定日付は、公証役場に対して請求し、公証人がその文書に日付ある印章を押捺して付与します。
確定日付の年月日は、請求当日の年月日となります。請求日の翌日の確定日付印を求めることはできません。
付与の請求は、作成者自身でする必要はなく代理人によってすることもできます。費用は、1件700円となります。
■ まとめ
公正証書とは不動産関連においては
●賃貸借契約の内容に関する意見の相違やトラブルを未然に防ぐことができる
●家賃滞納者に対して迅速に家賃の支払いを強制することができる
●売買契約において契約に関する誤解やトラブルを未然に防ぐことができる。
確定日付についても
●作成日付を変更されて紛争となることを防ぐことができる。
などの効果があることがわかりました。
また、現行では公証人との対面を原則としていますが、公正証書についても、2025年を目処として電子化に対応するとの方針が法務省から公表されました。
契約当事者双方が公正証書を作成することに同意するかは別問題ですが、公正証書についても理解を深めることが重要です。
多くの方は、不動産に関わる法務や税務について十分な知識を持っていません。
そのため、これらを正しく理解していることで、契約後に発生する可能性のあるトラブルを未然に防ぐことができるのはありがたいことです。
■記事の投稿者 飯島興産有限会社 飯島 誠
私は、予想を裏切るご提案(いい意味で)と、他者(他社)を圧倒するクオリティ(良質)を約束し、あなたにも私にもハッピー(幸せ)を約束し、サプライズ(驚き)のパイオニア(先駆者)を目指しています。
1965年神奈川県藤沢市生まれ。亜細亜大学経営学部卒業。(野球部)
東急リバブル株式会社に入社し、不動産売買仲介業務を経て、その後父の経営する飯島興産有限会社にて賃貸管理から相続対策まで不動産に関する資産管理、売買仲介、賃貸管理を行う。
コラムでは不動産関連の法改正、売買、賃貸、資産管理について、実務経験をもとにわかりやすく発信しています。
●資産管理(相続・信託・後見制度)につきましては、こちらをご参照ください。
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