目次
- ■ はじめに
- ■ 登記済証(権利証)と登記識別情報の違い
- ■ 登記識別情報について
- ■ 登記識別情報を利用する場面
- ■ 不動産売買において登記識別情報が必要な理由
- ■ 権利証・登記識別情報を紛失しても不動産売却できる方法
- ー事前通知制度を利用する
- ー資格者代理人による本人確認
- ー公証人による本人確認
- ■ 実務での不動産売買
- ■ 登記識別情報の流出を心配される方へ
- ■ 不正登記防止申出
- ■ 登記識別情報の失効申出
- ■ まとめ
■ はじめに
不動産売買の契約時において売主が登記済証(権利証)や登記識別情報を紛失して所在が不明ということもあります。
登記済証(権利証)や登記識別情報は不動産の所有者であることを示す重要な書類です。
そこで今回は、権利証・登記識別情報の重要性や利用する場面、紛失時の売却法などついて説明します。
■ 登記済証(権利証)と登記識別情報の違い
平成17年の不動産登記法の改正により手続きをオンライン化するために新たに交付されるようになったのが登記識別情報です。
平成17年の改正以前では不動産の権利等を取得したとき法務局より登記済証(権利証)が発行されていました。
この権利証は登記申請書等に法務局より登記済の印が押印されています。
平成17年の改正時に権利証を廃止し、12桁のパスワードが記載されており、従来の登記済証(権利証)に代わり登記識別情報を発行することになりました。
登記識別情報の発行は平成17年から平成20年ごろまでの間に全国の法務局で順次開始していき、現在では全国一律にすべての法務局で登記識別情報を発行しております。
ただし、平成17年法改正以前に発行されていた権利証は無効になるわけではなく、今後も引続き効力を有していますので大切に保管が必要です。
なお、法改正により登記識別情報に変更してもらうことも出来ませんのでご注意ください。
登記識別情報には目隠しのシールが貼ってあり、シールを剥がすと「123やABC」等のパスワードがでてくる仕組みとなっています。ただ、一度剥がすと再度封印できない仕組みのシールとなっているため、登記をするときまでは人に見せず、また剥がさずに保管することが大切です。
■ 登記識別情報について
登記識別情報(登記識別情報通知)は原則「不動産ごと」「名義人ごと」に交付されます。
例えば、2筆の土地を1人で所有している場合は2枚、2人で所有している場合は4枚交付され、マンションのように土地と建物の権利が一体となっている場合、交付されるのは建物分のみです。
※土地と建物が別々になっている非敷地権のマンションの場合は、土地と建物それぞれに交付されます。
登記識別情報は、交付される場合とされない場合があるため、その違いを理解しておきましょう。
登記識別情報が交付されるのは、申請人自らが新たに登記名義人となる登記申請をした場合です。
そのため、抵当権の抹消や債権者代位による登記、所有者の住所変更、氏名変更では発行されません。
■ 登記識別情報を利用する場面
登記識別情報を利用するのは以下のような場面です。
不動産取引(売買、贈与)
不動産の名義変更
不動産を担保にした借り入れなど
登記識別情報は登記名義人の本人確認の役割があるため、不動産に関連した取引や手続きの際に利用することが多いです。
■ 不動産売買において登記識別情報が必要な理由
売主が所有者本人であることの確認です。
登記識別情報が必要になるのは、不動産売却時です。
所有権移転の日に司法書士立会いのもと、売主と買主が共同で不動産の所有者を変更する登記を申請=所有権移転登記をします。
この申請を行う際に、売主が所有者本人であることを確認するために、登記識別情報が必要となります。
登記識別情報を紛失してしまっている場合には、再発行ができませんので原則として不動産の所有権移転登記を行うことができなくなりますが、例外的に代替手段が用意されており、それらを利用すれば可能になります。
■ 権利証・登記識別情報を紛失しても不動産売却できる方法
権利証・登記識別情報を紛失した場合でも方法が若干違いますが不動産を売却することは可能です。
今回は登記識別情報を紛失した場合の売却手段についてお伝えします。方法は次の3つの方法があります。
- 事前通知制度を利用する
- 資格者代理人による本人確認
- 公証人による本人確認
●事前通知制度を利用する
事前通知制度とは法務局で指定された手続きにおいて登記識別情報がなくても物件の所有者であることを証明できる制度です。登記申請を行ってから数日後、法務局の登記官から申請人を不動産の所有者本人であることを確認するため、本人宛に「事前通知書」を封書で発送されます。
事前通知書が発送されてから2週間以内に法務局に提出することで、登記申請が承認されます。
事前通知制度を利用するメリットは、費用がかからない点です。
デメリットは、往復の郵送の間は登記の手続が止まってしまうことと登記申請の際には本人確認ができないという点であり、売主としては問題ありません。
しかし、買主や融資を利用する場合の金融機関にとっては、登記の完了が未確定であり、結論が出るまで時間がかかる事前通知制度は親子間の売買契約では利用されますが、通常の売買契約では利用しない制度となります。
●資格者代理人による本人確認
司法書士か弁護士の資格者代理人に本人確認をしてもらうことで、登記名義人であることを証明できます。資格者代理人による本人確認は、面談を行った後、「本人確認証明情報」を作成してもらいます。本人確認情報を作成できる資格者は司法書士と弁護士に限定されています。
本人確認証明情報の作成(面談時)には、以下の書類と持ち物が必要です。
●本人確認ができる書類
●印鑑証明書
●実印
●購入時の売買契約書
●固定資産税納付書、ガス・水道・電気等の公共料金の領収書
※司法書士や弁護士に資格者代理人を依頼する場合、手数料が必要なります。
●公証人による本人確認
公証人による本人確認制度となります。必要書類を用意し、公証人に認証してもら方法です
具体的には公証人役場にて公証人の面前で司法書士などに対する登記申請の委任状に署名捺印を行い。公証人がその委任状を認証する。という流れです。
公証役場へ持参する書類や持ち物は以下の通りです。
●実印
●印鑑証明書
●写真付きの身分証明書
公証人によって認証された書類は、権利証の代わりとして添付することができます。また、公証人による書類作成には、有資格者による本人確認情報よりも、簡単な手続で、費用も3500円と安く済ませることができます。
■ 実務での不動産売買
法改正以前では、所有権移転登記申請の際に売主が紛失等により権利証を提出できない場合には保証書を作成することにより手続きを行っていましたが、法改正により保証書の制度が廃止されました。
よって前記①事前通知制度を利用する、②資格者代理人による本人確認、③公証人による本人確認のいずれかの制度を利用することになりますが、売買契約では②資格者代理人による本人確認を選択することをお勧めします。
理由として、資格者代理人による本人確認を利用する場合、その他の制度とは違い同時決済として抵当権の抹消登記、所有権移転登記、抵当権設定登記の各申請を同時に行うことが出来るからです。
また、売買契約時においても売主が登記識別情報を紛失している場合には、そのような制度を利用して所有権移転登記を行うかなどを特約で明記しておくこともトラブルを避けるために必要です。
【特約参考例】
「登記識別情報不存在に関する確認」
第●条 本売買契約は、本物件登記識別情報不存在のため、●●●●●制度により登記申請手続きなすものとします。
2 買主は、売主に対し、本物件の所有権移転登記申請手続きに障碍がないことを確認のうえ、売買代金全額を支払うものとします。
■ 登記識別情報の流出を心配される方へ
登記識別情報が流出してしまった場合、これを知った第三者が、自分が不動産の所有者だと偽り、売主として所有権移転登記を申請してしまうのでは?と心配されると思います。
しかし、売主として所有権移転登記を申請するには、登記識別情報だけでなく市町村の登録してある印鑑証明書も必要になります。
印鑑証明書は、印鑑証明書を取得するための印鑑登録カードを本人が管理しているため、登記識別情報が流出して直ちに、不動産の所有権移転登記が申請されるわけではありません。
登記識別情報の紛失と併せて実印と印鑑登録カードも紛失している場合には、警察に届け出るだけでなく、直ちに対処する必要があります。
■ 不正登記防止申出
登記識別情報の、流出による不正な登記を防ぐためには「不正登記防止申出」という制度を利用することができます。
登記識別情報を不正な登記を防ぐためにするため、不正登記防止申出を行うことができます。
不正登記防止申出の制度は、第三者から悪質な目的で登記される恐れがある場合に、法務局に申出をする制度です。
不正登記防止申出後、3か月以内に申出に関係する登記があった場合、申請者に対して通知が届きます。
この場合、登記された内容について、不正が疑われる場合は、登記申請者に対して調査が行われます。
また、3か月以内という期限があるため、引き続き不正登記の恐れがある場合は、3か月ごとに申出の手続きを行う必要があります。
不正登記防止申出は、申出をする本人が登記所で手続きを行わなければなりません。ただし、やむを得ない事情で登記所に行けない場合は、委任された代理人であれば手続きを行うことが可能です。
■ 登記識別情報の失効申出
登記識別情報を紛失後、登記識別情報を誰かに見られてしまうのが怖い場合は、登記識別情報の失効の申出を利用することもできます。
登記識別情報を誰かに見られてしまうのが怖い場合などは登記識別情報の効力を失効させる手続きが、登記識別情報の失効申し出です。
失効手続きは法務局で行うのですが、失効申出の手続きができるのは、名義人や相続人などといった制限がありますので確認しておきましょう。
■ まとめ
不動産売却において、登記識別情報は不動産を所有していることを示す書類なです。
登記識別情報は、再発行はできないため、大切に保管しなければなりませんが、万一紛失したままの状態で売却する場合は、まずは売却を依頼する不動産会社へ相談する必要があります。
登記識別情報を紛失した場合の方法は、事前通知制度を利用する、資格者代理人による本人確認、公証人による本人確認の3つがありますが、先述したとおり資格者代理人による本人確認をお勧めしますがすべての説明を受け、理解したうえでの利用をお願いします。
■記事の投稿者 飯島興産有限会社 飯島 誠
私は、予想を裏切るご提案(いい意味で)と、他者(他社)を圧倒するクオリティ(良質)を約束し、あなたにも私にもハッピー(幸せ)を約束し、サプライズ(驚き)のパイオニア(先駆者)を目指しています。
1965年神奈川県藤沢市生まれ。亜細亜大学経営学部卒業。(野球部)
東急リバブル株式会社に入社し、不動産売買仲介業務を経て、その後父の経営する飯島興産有限会社にて賃貸管理から相続対策まで不動産に関する資産管理、売買仲介、賃貸管理を行う。
コラムでは不動産関連の法改正、売買、賃貸、資産管理について、実務経験をもとにわかりやすく発信しています。
●資産管理(相続・信託・後見制度)につきましては、こちらをご参照ください。
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