目次
- ■ はじめに
- ■ 不動産売買代金の支払い方法
- ■ 振込による問題点
- ■ 振込による解決策
- ■ まとめ
■ はじめに
不動産売買契約において通常、売買代金の支払いは、不動産売買契約の締結と同時にする支払う手付金と、そして決済時に支払う残代金があり、ケースとしては多くはありませんが手付金と残代金の間に支払う内金があります。
また、手付金の支払いを行わないで、不動産売買契約の締結と不動産売買代金の全額の支払いを同時に行う「同時決済」というものもあります。
では、この不動産売買代金の支払いは、どのような支払い方法をとるべきなのでしょうか。
そこで、今回は「不動産売買代金の支払い方法」特に残代金の実際の注意点を売買契約書の条項を含めて紹介いたします。
■ 不動産売買代金の支払い方法
不動産売買代金の支払いの方法には、現金、金融機関振出しの小切手(預手(よて)と呼ばれています。)、売主の金融機関口座への振込み、という3つの方法で行われています。
1. 現金
売買代金の支払方法としては、現金で支払うことも考えられますが、不動産売買の売買代金は高額なことが多いため、紛失・盗難の危険があるほか、金額の確認にも時間がかかります。
2. 銀行振込
売買代金の支払方法として銀行振込にて行うことがあります。現金をやり取りする場合と異なり、安全かつ確実に支払いを行うことができます。
ただし、銀行振込とする場合、買主が振込みを行ってから売主が引き出せるようになるまでに一定の時間差があります。したがって、売主から買主に対する引渡しと、買主から売主に対する売買代金の支払い(振込み)が確実に同時に行われるように調整する必要があります。
3. 預金小切手(預手)
売買代金の支払方法として、「預金小切手」を用いることもあります。
預金小切手とは、小切手の一種であり、「預手(よて)」とも呼ばれます。銀行が振出人となり、これを受け取った売主は確実に支払いを受けることができるため、現金と同視できるものと扱われています。
買主は、預金小切手に記載される金額の預金残高を有するか、銀行に現金の払込みをすることによって、銀行で預金小切手の発行を受けることができます。預金小切手を受け取った売主は、銀行に預金小切手を持ち込めば、その記載された金額を受け取ることができます(ただし、現金化には一定の日数を要します)。
不動産売買では「現金」・「預手」・「振込」という3つの方法で行われるとご説明をいたしました。
しかし、不動産売買契約書では、次の条文が用いられている場合が多数だと思います。
(売買代金の支払いの時期、方法等)
第●条 買主は、売主に対し、売買代金として、表記内金(以下「内金」という。)、残代金を表記各支払日までに現金または預金小切手をもって支払います。
以上のとおり、多数の売買契約書には売買代金の支払い方法について「現金」と「予手」の2種類のみと定められています。
実際のところ、不動産売買における代金の決済について、実務では現金または預手の利用頻度は少なく、銀行振込によって行うことが多数となってきています。
■ 振込による問題点
前回もお伝えしたとおり、売買の対象の不動産に抵当権などの権利が登記されていて、これを所有権移転登記と同時に抹消登記する場合には、現金または売主の金融機関口座への振込み、という方法による場合が多数です。
これは、預手が現金に代わる支払の手段とされていたのは、銀行の信用に基づくものですが、最近では銀行の信用がかつてのように絶対的なものではなくなっていることから、預手の授受ではなく、売買代金残代金を売主の銀行口座に振り込む方法をとって決済をするというケースも増えてきています。
しかし、売主の所有権移転・物件の引渡しと買主の残代金支払義務が同時履行の関係に立つことは売買契約の当事者間にとって基本的にして最も重要な関係です。
不動産売買契約書の条項においても次の条文が記載されています。
(売買代金の支払いの時期、方法等)
第●条 買主は、売主に対し、売買代金として、表記内金(以下「内金」という。)、残代金を表記支払日までに現金または預金小切手をもって支払います。
(所有権の移転の時期)
第●条 本物件の所有権は、買主が売主に対して売買代金全額を支払い、売主がこれを受領した時に売主から買主に移転します。
(引渡し)
第●条 売主は、買主に対し、本物件を表記引渡日に引渡します。
2 売主、買主は、本物件の引渡しに際し、引渡しを完了した日(以下「引渡完了日」という。)を記載した書面を作成します。
※以上の条文は、同時履行の関係に立つことを確認するものです。引渡しの条項については、「売買代金全額の支払い」と同時の記載はありませんが、通常引渡日は、売買代金全額の支配と同日となります。
このように売主の所有権移転・物件の引渡しと買主の残代金支払義務が同時履行の関係に立つことにより振込みによる決済の場合、売主の義務と買主の義務のどちらか一方が先行してしまうことがないように注意する必要があります。
所有権移転登記等の必要書類を確認する前に残代金の振込を先行したり、売主口座へ着金の確認ができる前に登記等の必要書類を引渡してしまうことは、トラブルの原因になります。
■ 振込による解決策
そこで実際の決済は、
確認1.
司法書士により売主・買主の所有権移転登記に必要な書類がすべて整っているのか、を確認のうえ、それらの必要書類は司法書士(または売主)の手元においておく。
確認2.
司法書士により売主・買主の必要書類を確認したうえで、売主の銀行口座に残代金を振込む手続きを行う。
確認3.
売主・買主・司法書士が同席のまま、残代金が売主の指定口座に着金確認できるのを待つ、
確認4.
売主が指定口座へ連絡のうえ、指定口座に残代金の入金を確認する、
※残代金の入金確認後に売主から買主に引き渡すべき書類、領収証を引き渡す、という段取りで進めることになります。
※売主が指定口座への入金確認を電話にて行う場合、その銀行に登録されている電話番号以外は受け付けてもらえないので事前に確認しておくことが必要です。
まとめ
売主が自分の銀行口座に着金があったことを確認するまでの時間はかかりますが、銀行振込によって決済を行う場合には、売主と買主のいずれにも不利にならないよう、このような方法が取られています。
■ まとめ
以上のとおり不動産売買代金の支払いは、「現金」・「預手」・「振込」という3つの方法があります。
ただし、残代金には所有権移転・物件の引渡しと買主の残代金支払義務が同時履行の関係に立つことにより振込みによる決済の場合、売主の義務と買主の義務のどちらか一方が先行してしまうことがないように注意する必要があります。
また、不動産売買契約書の条項と実務とが異なることから、トラブルに発展する場合もあり、次のとおり特約として売買契約書へ記載する必要も生じますので売買契約書締結以前に仲介業者を介して確認しておくことが必要となります。
(売買代金の支払いの時期、方法等に関する特約)
第●条 売主および買主は本契約書第3条(売買代金の支払いの時期、方法等)の定めにかかわらず、買主は残代金を売主名義の金融機関に振込をもって支払うものとします。なお、この振込に要する費用は●●の負担とします。
■記事の投稿者 飯島興産有限会社 飯島 誠
私は、予想を裏切るご提案(いい意味で)と、他者(他社)を圧倒するクオリティ(良質)を約束し、あなたにも私にもハッピー(幸せ)を約束し、サプライズ(驚き)のパイオニア(先駆者)を目指しています。
1965年神奈川県藤沢市生まれ。亜細亜大学経営学部卒業。(野球部)
東急リバブル株式会社に入社し、不動産売買仲介業務を経て、その後父の経営する飯島興産有限会社にて賃貸管理から相続対策まで不動産に関する資産管理、売買仲介、賃貸管理を行う。
コラムでは不動産関連の法改正、売買、賃貸、資産管理について、実務経験をもとにわかりやすく発信しています。
●資産管理(相続・信託・後見制度)につきましては、こちらをご参照ください。
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