目次
- ■ はじめに
- ■ 婚姻期間20年以上の夫婦間贈与の特例の概要
- ■ 適用要件
- ■ 確認事項
- ■ メリット
- ■ 相続との比較:不動産取得税と登録免許税
- ■ 最後に
- ■ まとめ
■ はじめに
相続対策、相続税対策の一つとして「婚姻期間20年以上の夫婦間贈与の特例」(おしどり贈与)と言うものがあります。
このおしどり贈与を適用することにより、2000万円までの非課税と贈与税の基礎控除額110万円を併せた2110万円を配偶者に無税にて渡すことが出来る制度です。
おしどり贈与には適用要件があり、メリット・デメリットがあります。
そこで今回は、おしどり贈与における適用要件からそのメリット・デメリットをお伝えいたします。
■ 婚姻期間20年以上の夫婦間贈与の特例の概要
「婚姻期間20年以上の夫婦間贈与の特例」とは、その言葉とおり婚姻期間が20年以上の夫婦の間で、居住用不動産または居住用不動産を取得するための金銭の贈与が行われた場合、贈与税の申告をすることにより基礎控除額110万円のほかに最高2,000万円まで控除(配偶者控除)できるという特例です。
別名で「おしどり贈与」とも呼ばれています。
■ 適用要件
おしどり贈与の特例を受けるためには、次の3つの要件を満たしていなければいけません。
①夫婦の婚姻期間が20年を過ぎた後に贈与が行われたこと。
※婚姻関係に内縁関係にある妻は含まれません。
婚姻期間の20年は通算でも認められます。婚姻から3年経過後に離婚し、5年の空白期間を置いてから同じ方と再婚して17年以上が過ぎた場合、婚姻期間が合計で20年を過ぎた日からこの要件を満たすことになります。
②配偶者から贈与された財産が、居住用不動産であることまたは居住用不動産を取得するための金銭であること。
※贈与された財産が居住のための不動産のみ適用されます。なお、居住用不動産の取得資金の贈与でも特例を適用可能となります。収益物件等は適用できません。
※店舗併用住宅及びその敷地の贈与を受けておしどり贈与を適用する場合、適用の範囲は次のようになります。
●居住用部分の面積が家屋または敷地の面積のおおむね9/10以上の場合は、その全部についておしどり贈与が適用できます。
●上記以外の場合は、居住用部分についてのみおしどり贈与が適用できます。
③贈与を受けた年の翌年3月15日までに、贈与により取得した居住用不動産または贈与を受けた金銭で取得した居住用不動産に、贈与を受けた者が現実に住んでおり、その後も引き続き住む見込みであること。
※翌年3月15日に居住していない場合、適用できません。
■ 確認事項
①同一配偶者からのおしどり贈与は一度限りの適用です。
②贈与税の申告手続きが必要です。
③贈与された年に贈与者が死亡した場合、配偶者に居住用財産を贈与しておしどり贈与が適用できる場合、その居住用財産は相続税の課税対象にはなりません。
この場合にも贈与税を申告する必要があります。
③贈与された配偶者が申告前に死亡した場合、相続人が申告することになります。ただし、死亡した配偶者の相続財産となります。
■ メリット
おしどり贈与は、「永く支えてくれた日頃の感謝の気持ちとして贈与したい」、と言う気持ちを表すことができ、贈与税が2,110万円まで課税されません。その他のおしどり贈与のメリットは次のようなことが挙げられます。
①相続で揉めなくて済む
遺産が自宅だけの場合は、相続人同士で分けることができずトラブルになることがあります。
話し合いの結果、自宅が他の相続人のものになり、残された配偶者が家を出なければならないこともあります。
おしどり贈与で自宅を配偶者に生前贈与しておくと、その自宅は配偶者のものとなり、相続があっても住まいを確保することができます。
※配偶者居住権にも同様の役割がある
※おしどり贈与は特別受益にはありません。
※平成30年の民法改正により「配偶者居住権」が創設され、「長期配偶者居住権」でも自宅に住み続けることが可能です。
「長期配偶者居住権」とは、残された配偶者が亡くなるまで自宅に住み続けることができる、という権利のことです。
生前に遺言等で配偶者に居住権を設定する旨を書いておくことで、残された配偶者が長期配偶者居住権を得ることができます。
万一、配偶者の居住について不安がある場合、遺言を作成する費用と比べおしどり贈与の費用よりも安く済む場合がありますので、比較検討をされるべきです。
②相続開始前3年以内の贈与財産の加算が適用されない
おしどり贈与で贈与された不動産や資金は、7年以内の贈与であっても相続税の課税対象に加算されません。
③相続税を軽減させることができる
例:自宅土地・建物 自宅土地評価額4,000万円 自宅建物評価額1000万円
預貯金5,000万円
相続人 配偶者(妻) 子一人
※相続分は法定相続分の各2分の1とする。
※自宅土地には小規模宅地等の特例が適用可能とする。
●通常の相続の場合(簡略化します)
相続税評価額
自宅土地800万円 自宅建物500万円 預貯金5,000万円
合計6,300万円 相続税の基礎控除4,200万円
各相続税額 配偶者は配偶者控除にてゼロ 子の相続税は107.5万円
●おしどり贈与適用の場合
被相続人が生前に自宅土地に対し、2,110万円分を配偶者に贈与した場合
相続税評価額
自宅土地378万円 自宅建物500万円 預貯金5,000万円
合計5,878万円 相続税の基礎控除4,200万円
各相続税額 配偶者は配偶者控除にてゼロ 子の相続税は83.9万円
子どもの相続税額差異 107.5万円―83.9万円=23.6万円
※登録免許税・不動産取得税との兼ね合いもあります。
④自宅を売却した場合、譲渡税を軽減させることができる
万一、自宅を売却する場合、おしどり贈与の適用により譲渡所得税の軽減がはかれます。
おしどり贈与の場合、自宅不動産の持分を移転する形になります。
自宅の土地・家屋のうち基礎控除額110万円を加算した2,110万円分の持分を配偶者に贈与し、これにより自宅土地・建物は、夫婦の共有となります。
自宅を売却する場合、譲渡所得税の居住用財産の特例(居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例)を適用することができます。
この特例は、居住用財産を売却して利益を得た場合に、譲渡所得税の計算上3,000万円まで控除できるというものです。
この居住用財産の3,000万円の特別控除は、売却するその不動産ごとに適用するのではなく、所有者ごとに適用することができます。
例えば、おしどり贈与により夫婦で共有となった場合、各人の譲渡所得から各3,000万円、合わせて6,000万円まで控除することができます。
※譲渡所得=譲渡収入金額−(取得費 + 譲渡費用)
課税譲渡所得=譲渡所得−特別控除
税額=課税譲渡所得×税率(所得税・住民税)
例:自宅居住用土地・建物
売却価格1.5億円 取得費1億円 譲渡費用500万円
土地・建物相続税評価額5,000万円
●通常の相続の場合(配偶者単独名義)(簡略化します)
売却額1.5億円-取得費1億円-譲渡費用500万円-特別控3,000万円=譲渡所得4,500万円
5年以上所有している場合の譲渡所得にかかる税率(所得税、復興特別所得税、住民税の合計。譲渡所得6,000万円以下の部分)は、14.21%。
譲渡所得1,500万円×14.21%=213.15万円
●おしどり贈与適用の場合
おしどり贈与の適用により配偶者へ自宅の持分の2分の1を贈与したとします。
これにより、持分は土地・建物各2分の1となりました。
ご主人様
売却価格7,500万円-取得費5,000万円-譲渡費用250万円-特別控除3,000万円<0 譲渡所得は0
奥様
売却価格7,500万円-取得費5,000万円-譲渡費用250万円-特別控除3,000万円<0 譲渡所得は0
※売却されるご自宅の持分により譲渡所得税が発生する場合があります。
■ 相続との比較:不動産取得税と登録免許税
おしどり贈与を適用する場合、検討しなければならないのは、相続する場合に比べて不動産の名義を変更する費用が高くなるという点です。
具体的には、不動産取得に対し、課税される不動産取得税と不動産登記の移転に課税される登録免許税となります。
この不動産取得税と登録免許税のコストを比較しておしどり贈与を進めるのか、判断する必要があります。
●不動産取得税
相続では、原則として不動産取得税か課税されません。しかし、贈与を受けた場合には不動産取得税が課税されることになります。
不動産取得税の税額は、以下の計算式で算出できます。
【不動産の課税標準額×税率】
税率は不動産の種類や用途によって異なり、土地および家屋(住宅)の場合は3%です。
ただし、住宅および住宅用土地の取得に対しては、申告することによって不動産取得税の軽減制度の適用を受けられる場合があります。
※宅地は価額を1/2にした価格に税率をかけることになります。
①宅地についての不動産取得税の軽減
自己が居住する一定の既存住宅用土地の取得については、その宅地と同時に住宅(持分でも可)も贈与すれば、土地の不動産取得税額から次のA又はBのいずれか多い額が減額されます。
A 45,000 円
B 土地の1 ㎡当たりの価格
(※)×住宅の床面積の2 倍(一戸200 ㎡を限度)×3%
※土地の1 ㎡当たりの価格=(固定資産評価額÷2)÷土地の面積 Bの計算により、土地の面積が住宅の床面積の 2 倍(200 ㎡限度)よりも小さい場合は、その土地に対する不動産取 得税の全額が軽減されます。
②住宅についての不動産取得税の課税標準の特例 居住用家屋を贈与した場合の不動産取得税について、一定の既存住宅(自己の居住の用に供するものに限る。)の取得に 係る課税価格の特例の適用があり、住宅が新築された日に応じて控除額を控除した金額が不動産取得税の課税標準額とされます。
住宅が新築された日 控除額(万円)
昭和51 年1 月1 日~昭和56 年6 月30 日 350万円
昭和56 年7 月1 日~昭和60 年6 月30 日 420万円
昭和60 年7 月1 日~平成1 年3 月31 日 450万円
平成1 年4 月1 日~平成9 年3 月31 日 1,000万円
平成9 年4 月1 日~ 1,200万円
※ 昭和57 年1 月1 日以前建築の住宅については、新耐震基準に適合していることが要件となります。
●登録免許税
贈与の場合、登録免許税は、固定資産税評価額×2.0%であり、相続の場合には固定資産税評価額×0.4%となります。
■ 最後に
●配偶者の税額軽減を併せて検討する
配偶者への居住用不動産の贈与の特例として「おしどり贈与」があります。
相続でも配偶者に対しては「配偶者の税額軽減」があります。
この特例は、亡くなった人の配偶者が相続で財産を取得した場合に、次の2つの金額のうち大きい金額まで相続税がかからないというものです。
(1)1億6千万円
(2)配偶者の法定相続分に相当する金額
相続した財産の金額が1億6千万円以内である場合、または1億6千万円を超えていても法定相続分までは相続税はかかりません。
相続税の概算を計算し、上記金額を超えてしまう場合、「おしどり贈与」を利用しても有効かもしれません。
贈与時のコストを相続税の節税額が上回るかどうかを確認のうえ、検討されるべきです。
■ まとめ
おしどり贈与を適用するかどうかは、メリットとデメリットを比較しながら慎重に考える必要があります。
おしどり贈与を適用することにより、生前に自宅を配偶者の名義にすることができ、相続税の軽減がはかれます。しかし、おしどり贈与により不動産取得税・登録免許税といったコスト増もあります。相続税と比較しておしどり贈与を行うのか、慎重に判断する必要があります。
判断に迷う場合は、贈与税や相続税に詳しい専門家に相談することをおすすめします。
■記事の投稿者 飯島興産有限会社 飯島 誠
私は、予想を裏切るご提案(いい意味で)と、他者(他社)を圧倒するクオリティ(良質)を約束し、あなたにも私にもハッピー(幸せ)を約束し、サプライズ(驚き)のパイオニア(先駆者)を目指しています。
1965年神奈川県藤沢市生まれ。亜細亜大学経営学部卒業。(野球部)
東急リバブル株式会社に入社し、不動産売買仲介業務を経て、その後父の経営する飯島興産有限会社にて賃貸管理から相続対策まで不動産に関する資産管理、売買仲介、賃貸管理を行う。
コラムでは不動産関連の法改正、売買、賃貸、資産管理について、実務経験をもとにわかりやすく発信しています。
●資産管理(相続・信託・後見制度)につきましては、こちらをご参照ください。
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