目次
- ■ はじめに
- ■ 耐震基準とは
- ■ 耐震基準の確認方法
- ■ 貸主が負う義務
- ■ まとめ
■ はじめに
賃貸住宅において、その建物が「新耐震基準であるか、」というご質問は少なくありません。この新耐震基準とは1981(昭和56)年の建築基準法が改正され、この改正以降に建築確認を取得した建物が「新耐震基準」の建物と呼ばれます。
今回は、耐震基準の変遷や改正点や地震の際において被災した場合の賃料・修繕費はどのなるのか。を考えてみます。
■ 耐震基準とは
耐震基準とは、建築物などが満たすべき耐震性能を定めた最低限度の基準です。
耐震基準は「建築基準法」や「建築基準法施行令」などにより定められており、過去に起きた巨大地震などへの対応として、その時代ごとに改正されてきました。
【過去の大きな改正時期・ポイント】
日本初の建築に関する法律
日本で初めて定められた、建築に関する法律は、1919(大正8)年制定の「市街地建築物法」です。
この「市街地建築物法」は、1923(大正12)年に起こった関東大震災を受け、その後すぐに改正が行われました。
旧耐震基準(市街地建築物法に代わり建築基準法制定)
建築基準法が制定されたのは1950(昭和25)年です。
耐震性は、中規模地震(震度5程度)でほとんど損傷しない基準です。
旧耐震基準改正
1968(昭和43)年十勝沖地震を受けて建築基準法が改正されました。
鉄筋コンクリート造の柱の強度、木造住宅の基礎はコンクリートの布基礎とすること、風力に対しての必要壁量についての規定が設けられました。
新耐震基準(1981年6月改正)
建築基準法の改正が行われ、1978(昭和53)年の宮城県沖地震を受けて耐震設計基準が大幅に見直されました。
耐震性は、大規模地震(震度6強~7程度)で倒壊・崩壊の恐れがない基準とし、その他木造住宅では壁量規定の見直しが行われた他、床面積あたりの壁の長さや、軸組の種類・倍率などが改定されました。
現行の耐震基準(2000年6月改正)
1995(平成7)年の阪神淡路大震災の被害を受け、2000(平成12)年にさらに耐震基準が見直されました。現行の耐震基準で「2000年基準」とも呼ばれています。
耐震性は、大規模地震(震度6強~7程度)で倒壊・崩壊の恐れがない基準とし、「限界耐力計算」の義務付けが行われました。
その他
1995年の阪神・淡路大震災を受けて、2000年6月にも現行の耐震基準(現行耐震基準、新・新耐震基準)に改正されています。
現行の耐震基準では、以下の3点の部分について仕様を明記することが求められるようになりました。
・地耐力に応じた基礎構造とすること
・地盤調査の義務付け。
・木造建築物は柱などの接合部を金具で固定のうえ、耐力壁の配置バランスに配慮する耐震補強の規定を追加。
※木造住宅の注意点
1981年改正の新耐震基準で建築された木造住宅についても注意が必要です。
1981年以降の新耐震基準ではあるが、2000年に改正された現行の耐震基準を満たしていない木造住宅は倒壊リスクが高い「耐震グレーゾーン住宅」と呼ばれています。
2016年の熊本地震、2024年の能登半島地震においても旧耐震基準と併せて「耐震グレーゾーン住宅」においても多くの被害報告がされているようです。
■ 耐震基準の確認方法
「新耐震基準」を満たしているのか、貸主でも所有する賃貸住宅についてわからない場合があるかもしれません。
では、「新耐震基準」を満たしているのか、確認方法をご紹介します。
建築確認日を調べる
新耐震基準によって建築されているのか、建築確認日を調べるこのよりわかります。
新耐震基準の適用は1981年6月1日以降となりますので建築された日がそれ以前か以後かによって新耐震基準であるのかを判断できます。
※1981年6月1日前後の時期に建築された場合、注意が必要です。
この場合の日付は、竣工日や築年月日など建物が完成した日ではなく、「建築確認日」で確認することになります。
建築確認日とは、役所に提出した建築確認申請が受理されて、建築確認済証が発行された日となります。
※万一、「確認通知書」を紛失した場合、建築確認申請をした役所に記録が残っています。ただし、年数が経過している場合には記録がない場合もありますので役所に問合せのうえ、確認をしてみる必要があります。
■ 貸主が負う義務
1.耐震診断の義務
耐震診断とは、旧耐震基準で設計された建築物の耐震性が新耐震基準に照らして同等の耐震性があるか確認する診断です。
1981年の新耐震基準への改正に伴う「耐震改修促進法」の改正により、それより前の旧耐震基準に基づいて建てられた建築物については、耐震診断が義務付けられています。
賃貸住宅でも、以下の条件に該当すれば、耐震診断の義務があります。
・1981年(昭和56年)5月31日以前に着工したもの
・3階建て以上かつ1000平米以上の賃貸住宅
※老人ホームなどの場合は、上記とは階数や面積要件などが異なります.
2.被災の状況による家賃の減額義務
借主(入居者)が被災した賃貸住宅において生活が出来なくなった場合。貸主の義務はどこまで生じるのでしょうか。
・被災の原因と程度に応じて、家賃の減額が必要な場合がある
・室内が住めない状態であれば、基本的に家賃は請求できません。
例えば、室内の部分的な被災であれば、利用できない部分について借主(入居者)から賃料の減額を請求されることもありえます。(※借主(入居者)の責めに帰すべき理由がある場合を除く。)また、電気・ガス・水道などの配管の破損などでライフラインが使用できなくなることもあります。この場合も、借主(入居者)からの家賃減額請求に応じることになります。
ただし、借主(入居者)が被災した賃貸住宅で生活できない間(修繕期間など)ホテル代を要求された場合、貸主はこれに応じる必要はありません。
理由として借主(入居者)が被災した賃貸住宅に住めなくなった原因は自然災害であり、貸主に原因はない理由です。
また、被災した賃貸住宅において借主(入居者)の家財道具の破損等した場合、貸主は補償をする必要は生じません。ただし、貸主による修繕義務違反が原因による被災については貸主の負担となります。
3.被災の状況による修繕義務
貸主は、賃貸住宅において使用・収益に必要な修繕を行い、借主(入居者)に提供しなけれならない修繕義務を負っています。
したがって、地震などによって所有する賃貸住宅が倒壊した場合、貸主による修繕義務が発生することになります。
ただし、新築同様の修繕が必要になるような規模の大きい損壊の場合は、「貸主の経済的負担が大きい」として修繕義務が免除される場合もあります。
4. 損害賠償の義務
地震などの自然災害によって建物が倒壊し、入居者が怪我や死亡するといったことも想定されます。
仮に耐震性の不備が倒壊の原因になったとすれば、安全性確保の義務を怠ったとして賠償責任を問われる可能性もあります。
ここでご注意いただきたいのは、現行の新耐震基準を満たしていない賃貸住宅の場合です。賃貸借契約書と併せて重要事項説明書において借主が契約する賃貸住宅において現行の新耐震基準に適合していない旨を説明し、借主が承諾のうえ、賃貸借契約を締結しているのであれば契約上は問題ないとされています。
しかし、怪我や死亡された家族より損害賠償責任を追及される場合も想定されます。
■ まとめ
賃貸住宅が被災した場合、貸主は様々な義務を負うことになります。
現行の新耐震基準に適合していない場合、耐震診断や耐震補強を行って建物の安全性を確保することは、入居者の命や財産を守ることにつながります。
日本では地震が多いため、賃貸住宅の耐震性をお部屋選びの重要事項と捉える方も増加しています。耐震性を明確に発信することは信頼性向上につながります。
また、万一の備えとして、賃貸住宅に対する地震保険の契約内容が適切であるかを再確認する費用もあります。
しかし、築年数の古い賃貸住宅は新築に比べると被害に遭うリスクが高まるため、保険を見直すと新たな保険料が高額になる、という問題も生じます。
築年数の古い賃貸住宅は、建替えるのも選択肢の1つですが、立退きの問題が生じます。
これらの問題を解決するには専門家と相談のうえ、解決していくことをオススメします。
■記事の投稿者 飯島興産有限会社 飯島 誠
私は、予想を裏切るご提案(いい意味で)と、他者(他社)を圧倒するクオリティ(良質)を約束し、あなたにも私にもハッピー(幸せ)を約束し、サプライズ(驚き)のパイオニア(先駆者)を目指しています。
1965年神奈川県藤沢市生まれ。亜細亜大学経営学部卒業。(野球部)
東急リバブル株式会社に入社し、不動産売買仲介業務を経て、その後父の経営する飯島興産有限会社にて賃貸管理から相続対策まで不動産に関する資産管理、売買仲介、賃貸管理を行う。
コラムでは不動産関連の法改正、売買、賃貸、資産管理について、実務経験をもとにわかりやすく発信しています。
●資産管理(相続・信託・後見制度)につきましては、こちらをご参照ください。
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