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7.152023

コラム

【弁護士コラム】貸主はどこまで義務がある?

執筆者プロフィール

弁護士 渡辺 菜穂子

虎ノ門法律経済事務所に在籍。不動産、遺産相続、借金問題・債務整理、離婚・男女問題、労働問題・労務管理、企業法務の分野で活動を行っている。「ご依頼を受けた案件は、綿密な打ち合わせや準備をしたうえで、判例や法律文献を徹底的に調査し、満足いただける最善の結果を出す」をモットーに、弁護士活動を行っています。

渡辺菜穂子弁護士を詳しくお知りになりたい方へ

  • 1 はじめに
  • 2 貸主の義務
  • 3 使用させる義務
  • 4 修繕義務
  • 5 考え方
  • 6 まとめ

1.はじめに


建物の賃貸借契約中、貸主は借主から、いろいろ要求されることがあります。

賃貸借契約において、借主は賃料の支払義務を負うのですが、一方で貸主は法律上どのような義務を負うのかについて、説明したいと思います。

2 貸主の義務


 建物賃貸借契約上の貸主が果たさなければならない基本的な義務は、

「建物を使用させなければならない」(使用させる義務)

「建物を使用するために必要な修繕をしなければならない」(修繕義務)

の2つです。

契約・特約によってここからさらに追加される場合もあります。また契約締結前の義務としては、説明義務・告知義務などもあるのですが、契約締結後に、貸主が借主に果たすべき義務は、この2つです。

3 使用させる義務とは


 「使用させる義務」

とは、

 契約と目的物の性質によって定まった使用方法にしたがって、目的物を使用させる義務

です。これは民法601条の規定を根拠としています。

 民法第601条 賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって、その効力を生ずる。

 この使用させる義務には、賃借人の使用に支障がない状態を維持する義務、つまり、使用に障害があれば、除去する義務も含まれます。

もう少し具体的にいうと、

①賃貸借契約書に記載された利用目的に従った利用ができるようにする(契約に基づく使用方法)

②目的物が現に今有する状態や性能・機能などを発揮できる状態で貸す(目的物の性質による使用方法)

③予定された使用方法にとって障害がある場合には、積極的に除去しなければならない

ということです。

逆に言えば、貸主は、現に今賃貸目的物が持つ有する性能・機能が、契約上定められた目的に従った利用が可能、ということであれば、目的物をそのままの状態で使用させれば、使用させる義務は果たしている、ということです。

4 修繕する義務とは


 賃貸人に、「使用させる義務」がある、ということは、使用できる状態にし、それを保持することも、使用させるという基本的な義務を果たすために必要なことです。

したがって、使用させる義務を果たすための義務、「修繕義務」も、「使用させる義務」から導かれる当然の義務と考えられています。

 修繕義務は、民法で次のように定められています。

 民法第606条1項 賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。ただし、賃借人の責めに帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは、この限りでない。

 具体的には、①~③どんな場合に、修繕義務があると言われるのかを整理すると、

 ①契約上の目的に従って目的物を使用できない状態であり(使用が妨げられている)、

 ②その状態になったことについて賃借人には責任がなく

 ③①の使用のためには修繕が必要で、かつ可能である場合

 

 ②については、不可抗力、例えば天災や第三者の火災など、不可抗力によって生じたとしても、修繕義務を免れられません(もっとも、不可抗力によって建物が滅失した場合は、そもそも賃貸借契約は終了します)。

 無理なことを法的に課せられることはないので、③のとおり、修繕が現実的に不可能な場合には、修繕義務は否定されます。「不可能」とは、物理的不可能な場合だけではなく、経済的にも不可能な場合も含まれるとされ、修繕に過大な費用がかかるようなケースは、「経済的不可能」と判断されることもあります。

 なお、修繕義務は特約によって免除・制限できますし、逆に借主に義務を課すこともできます。前者は賃貸人修繕義務免除特約といい、後者は賃借人修繕負担特約(修繕費用を借主が負担するという特約)です。

もっとも賃貸借契約が消費者契約(個人と事業者との契約)である場合には、消費者契約法10条を理由に無効を主張されるケースもあるので、無制限に特約の有効性が認められるとは限らない点は注意が必要です。

5 考え方


 基本的な要件等は上記のとおりですが、個別具体的な状況で、どのように考えればよいかははっきりしないので、もう少し、法律上の考え方を説明すると、以下のようになります。

⑴ 賃借人が希望する利用目的の実現を全部可能にしなければならないわけではない

 使用させる義務も修繕義務も、契約上の目的、目的物の性状に従って、義務の存否を判断されます。

 したがって、貸主はあくまで契約の目的・物の性状に従って、通常の使用をさせ、修繕等を行えばよいのであり、契約上予定されていない目的物以上のものに改良・改善する義務はないですし、契約上に定めのない、賃借人固有の利用目的・方法すべてを全部可能にするような義務も負わないということです。

⑵ 支障のすべてについて発生の防止義務があるわけではない

 建物ですから、設備故障や破損など、物の使用に支障が発生する場合は必ずあります。

しかし現に支障が発生した場合には、貸主にはそれを除去する義務はありますが、障害の発生を完全に防止する義務があるというわけではありません。

したがって、発生について賃貸人に責任がないのであれば、障害によって生じた賃借人の損害をすべて賠償する義務があるというわけではありません。

⑶ 修繕に過大な費用がかかる場合には修繕義務が否定されることもある

 修繕費用が高くなっても、それだけで修繕義務が否定されるわけではありません。それが物件使用のために通常必要とされる修繕であれば、基本的には、お金をかけて修繕しなければなりません。

 しかし、物理的に可能であれば、どれだけ費用をかけても全て賃貸人が修繕義務を果たさないといけないわけではありません。賃借人の使用に多少の支障があっても、修繕に過大な費用がかかり、経済的に修繕が困難だといえるケースでは、修繕義務がない、とされることもあります。

⑷ 周辺環境・第三者への対応には限度がある

 物件の周辺環境が悪化したり、共同住宅内に迷惑住人がいたり等で、賃借人が第三者への対応を求められる場合があります。

 もちろん、賃貸人としては、物件利用の障害除去のために、可能な限り、第三者等に対して警告や注意、働きかけをする必要があります。但し、完全に支障を除去するには、退去させたり、周辺環境の改善が必要となりますが、必ずしもそれは可能というわけではありません。したがって、賃貸人として、第三者等に、必要な対応、可能な対処を適切にとっている限りは、支障除去の義務違反、修繕義務違反ということにはなりません。

⑸ 使用支障があっても受忍限度の範囲内の場合には義務違反にはなりません

 音、臭い、迷惑行為などの支障は、人の感じ方は様々ですので、単に主観的な感覚のみを理由として賃貸人の義務が肯定されるわけではありません。

 裁判では、「受忍限度」という言葉が使われます。受忍限度とは、「社会生活上、この程度までは我慢すべきだ」と評価される範囲のことです。人の感じ方によってまちまちと言える支障については、受忍限度を超えていない支障の程度であれば、必ずしも賃貸人の義務違反にはならないということです。

⑹ 破損や問題があっても使用収益を妨げる程度でなければ修繕義務は負わない

 賃貸目的物の設備破損などや、雨漏りで壁が濡れるということがあっても、建物の内部の使用収益が現実に妨げられているという状況がなければ、必ずしも修繕義務があることになりません。

また、修繕がいずれ必要だとしても、支障が現実化していなければ、その時点では修繕義務がないとされることもあります。

 現に修繕義務が生じるのは、物件に破損や問題があるか、ではなく、それにより現実的に建物の使用が妨げられているかどうかによるということです。

⑺ 賃借人が必要な協力をしない間は修繕義務違反にはならない

 修繕義務を果たすためには、立入など賃借人の現実的な協力が必要です。したがって、現実に修繕が実施されなかったとしても、賃貸人が修繕する旨伝えていながら、賃借人が立ち入りを拒否していたり、修繕工事の必要な協力をしないということで、適切な時期に修繕できなかったからといって、貸主の修繕義務違反ということにはなりません。

⑻ 賃料が低廉である場合には修繕義務が否定される場合もある

 基本的には、賃料額が低いからといって、修繕義務が否定されるわけではありません。

 しかし、低い賃料額に設定された理由が、修繕費用の借主負担とセットで合意されていたなど、契約経緯などの事情から、黙示的に修繕義務免除の特約があったと認定されるケースもあります。また、賃料に比べて過大な費用のかかる修繕義務を否定した裁判例もあります。したがって、賃料額が低廉である一方、修繕費用が過大となるようなケースは、個別具体的な事情を前提に、修繕義務が否定されるケースもあるということです。

以上のとおり、義務についての考え方について説明しましたが、義務があるかどうかは、最終的には、具体的な事情に応じて事案ごとに個別に判断されることになります。

したがって、現にお悩みの状況において、法律上貸主に義務があるかどうかは、最終的には専門家への相談や助言などを踏まえて、判断する必要があります。

6 まとめ


不動産の賃貸借契約を結んだ際、賃貸人と賃借人には義務が生じます。

本日お伝えしました貸主の義務には、
①その土地、建物を貸主に、使用・収益させる義務
②その土地、建物を貸主に、使用・収益するために必要な修繕を行う義務
の2点があります。

※本日はお伝えしておりませんが、③として借主が必要費、有益費を支出した場合の費用償還義務もあります。

そして借主が貸主に対して負う義務として
①賃料の支払い義務
②賃借権の無断譲渡や無断転貸をしない義務
③賃借物に対する善良な管理者としての保管義務
④建物修繕等の通知義務、契約終了後に原状回復したうえでの返還義務
の4点があります。

賃貸貸借契約には、貸主・借主それぞれ権利・義務が生じます。各自が権利・義務を確認していただきたいと考えます。


●資産管理(相続・信託・後見制度)につきましては、こちらをご参照ください。

●ご売却をご検討の方は、こちらをご参照ください。

●賃貸をご検討の方は、こちらをご参照ください。

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