目次
- ■ はじめに
- ■ 離婚との違い
- ■ 姻族関係終了届とは
- ■ 姻族とは
- ■ 死後離婚の増加の背景
- ■ 死後離婚のメリット
- ■ 死後離婚のデメリット
- ■ 死後離婚の要点
- ■ まとめ
■ はじめに
「死後離婚」という言葉を耳にされたことがありますでしょうか。
この「死後離婚」とは、配偶者と死別した後、配偶者の血族(義父母、義理の兄弟姉妹)との姻族関係を終わらせる手続きのことです。
死後離婚という言葉は手続きの正式な名称ではなく、正式には「姻族関係終了届」という手続きを行うことになります。
今回は、この「死後離婚」について考えてみたいと思います。
■ 離婚との違い
死後離婚は、生前に行う離婚とは異なります。
生前に配偶者と離婚すると、夫婦は他人同士になり、戸籍も分離されます。
離婚したのちに一方が死亡した場合は遺産を相続することができず、遺族年金を受け取ることもできません。
死後離婚では、配偶者の血族との姻族関係が終了するだけであり、戸籍は変わりません。
配偶者の遺産は相続でき、一定の要件を満たせば遺族年金を受け取ることもできます。
■ 姻族関係終了届とは
婚姻関係は、配偶者がお亡くなりになられると婚姻解消の状態となりますが、亡くなられた配偶者の血族の方々との姻族としての親族関係は継続しています。
生存配偶者が姻族関係終了届をすることにより終了することになります。結果、配偶者の血族との法律上の関係が解消され、扶養や互助の義務がなくなります。
姻族関係終了届を提出できるのは、配偶者を亡くした本人のみです。
死亡届を提出した後であればいつでも提出可能で、期限はありません。
亡くなった配偶者の血族の同意も不要です
本届出を「する、しない」は遺された配偶者の自由意志であり、死亡者の親族が手続きをすることはできません。
■ 姻族とは
配偶者との血族との関係を姻族といいます。
3親等内の姻族も親族となり、姻族の親等を数えるには、配偶者を基準にするため、配偶者の親を1親等、祖父母や兄弟姉妹を2親等、配偶者の曽祖父母や配偶者の父母の兄弟(叔父・叔母)、配偶者の兄弟の子(甥・姪)も姻族に該当します。
姻族である効果には「扶養義務」と「親族間の互助」があります。
・扶養義務
(扶養義務者)
第八百七十七条 直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある。
2 家庭裁判所は、特別の事情があるときは、前項に規定する場合のほか、三親等内の親族間においても扶養の義務を負わせることができる。
3 前項の規定による審判があった後事情に変更を生じたときは、家庭裁判所は、その審判を取り消すことができる。
1項において、「直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある。」と定めています。
この1項では、姻族は関係ありませんが、2項において、「家庭裁判所は、特別の事情があるときは、前項に規定する場合のほか、三親等内の親族間においても扶養の義務を負わせることができる。」と定めています。
したがって、特別の事情があるときには、家庭裁判所の審判により、姻族にも扶養義務が課せられることがありえます。
ただし、1項が原則ですので、直系血族や兄弟姉妹などが扶養義務できない場合にはじめて、姻族にも扶養義務が課せられることがあり得ると考えられます。
・親族間の互助
(親族間のたすけ合い)
第七百三十条 直系血族及び同居の親族は、互いに扶たすけ合わなければならない。
民法730条は「直系血族及び同居の親族は、互に扶け合わなければならない。」と定めています。
上記のとおり、3親等内の姻族も親族ですので、3親等内の姻族が同居している場合には、「同居の親族」に該当することになります。
ただし、730条自体は、法的な請求権とは考えられておらず、また、実際に適用した事例もほとんどないと言われており、削除論も根強くあります。
・婚姻障害
(直系姻族間の婚姻の禁止)
第七百三十五条 直系姻族の間では、婚姻をすることができない。第七百二十八条又は第八百十七条の九の規定により姻族関係が終了した後も、同様とする。
民法735条は、「直系姻族の間では、婚姻をすることができない。」と定めています。そして、離婚等によって姻族関係が終了した場合も、同様とされています。
したがって、前妻の母親と再婚するなどということは、認められません。
■ 死後離婚の増加の背景
死後離婚は、ここ数年急増しており、その理由としては、親族であることによる介護の負担に対する懸念や、人間関係の悪化などが挙げられています。
「嫁は義理の両親の世話もするのが当たり前」という考えも根強く、生存配偶者が義理の親の扶養や介護を強いられることがある一方、生存配偶者が義理の親の扶養や介護を行ったとしても、財産を相続する権利はありません。
生存配偶者も特別寄与分を請求することが可能ではありますが、実際には特別寄与料を取得すること簡単ではありません。
また、義理の親や兄弟姉妹との関係が良くないのであれば、親族でいることが煩わしいと感じることもあります。
そもそも夫婦の仲が悪かった場合、さまざまな事情から離婚ができなかった場合など配偶者との死別をきっかけに縁を切りたいと考えること方もいます。
このような事情から死後離婚によって義理の親と縁を切っておきたいという人が増加しているのです。
■ 死後離婚のメリット
死後離婚では、自分の意思だけで義理の親や兄弟姉妹との姻族関係を終わらせることができます。
手続きそのものは簡単ですが、家族関係に及ぼす影響が大きいため、メリットとデメリットを比較してじっくり考えることが大切です。
まず、死後離婚にはどのようなメリットがあるかを確認します。
義理の親の扶養や介護について心配する必要がなくなる
義理の親との同居を解消できる
お墓の管理をしなくてよくなる
夫婦関係に区切りをつけられる
■ 死後離婚のデメリット
次に、死後離婚のデメリットをご紹介します。
死後離婚は一方的に親族関係に区切りをつける手続きであるため、思わぬトラブルに発展することもあります。
死後離婚は取り消せない
義理の親に頼れなくなる
お墓を準備しなければならない
自分の子供との関係が悪くなる場合がある
■ 死後離婚の要点
姻族関係終了届の要点は以下のとおりです。
・本人の意思決定によるものであり、姻族の了解は必要ない
・本人の本籍地もしくは住居地の市区町村に「姻族関係終了届」を提出するだけで手続は終了
・配偶者の死亡後なら、提出期限はなく、いつでも提出できる。
・姻族関係終了届により旧姓に戻る、また戸籍から抜けることもない。
・死亡した配偶者の血族が姻族関係終了届を提出することはできない。
・配偶者の遺産を相続していても、相続分を返却する必要はなく、そのまま受け取ることができる。
・姻族関係終了届が受理されれば、配偶者の血族の扶養義務を負うことはない。
・死亡した配偶者との間に子がいる場合、その子どもと配偶者の血族との関係は変わらない。
・姻族関係終了届で姻戚関係を終了した場合、戸籍の身分事項欄に「姻族関係終了」と記載されるが、姓と戸籍はそのまま継続する。
・配偶者の戸籍から抜けて旧姓に戻すには復氏届が必要。
・相続権や遺族年金の受給資格に影響はない。
・終了させた姻族関係を復活させることはできない。
・死後離婚をしなくても同じお墓に入る義務はない
・死後離婚をしても遺産相続や遺族年金の受け取りに影響はありません。
・相続した財産を親族に返す必要はありません。
・配偶者に借金があった場合は別途相続放棄が必要
・死後離婚をしても相続放棄をしたことにはならない
・祭祀財産を承継した人が死後離婚をした場合は、祭祀の承継に関係する人と協議が必要
■ まとめ
死後離婚は、死別した配偶者の親族との姻族関係を終了できる手続きです。
死後離縁は、夫婦のどちらかが死亡したあと、生存している配偶者が配偶者の血族(配偶者の両親、祖父母、兄弟姉妹、従兄弟姉妹など)との縁を切りたい場合に使用します。
姻族との互助義務などを解消し、わずらわしい関係を避けられます。
ただし、一度終了させた死後離婚により姻族関係を復活させることはできません。
義父母や義兄弟姉妹との関係を絶つことで、精神的な支えを失ったり、将来困った時に頼る人がいなくなったりするなど、不都合が生じる可能性もあります。また、子供にどのように説明をするのか、など検討してから実行に移すようにしてください。
死後離婚は家族関係に大きな影響を及ぼすため、慎重に判断することをオススメします。
【死後離縁と言うものもあります。】
■記事の投稿者 飯島興産有限会社 飯島 誠
私は、予想を裏切るご提案(いい意味で)と、他者(他社)を圧倒するクオリティ(良質)を約束し、あなたにも私にもハッピー(幸せ)を約束し、サプライズ(驚き)のパイオニア(先駆者)を目指しています。
1965年神奈川県藤沢市生まれ。亜細亜大学経営学部卒業。(野球部)
東急リバブル株式会社に入社し、不動産売買仲介業務を経て、その後父の経営する飯島興産有限会社にて賃貸管理から相続対策まで不動産に関する資産管理、売買仲介、賃貸管理を行う。
コラムでは不動産関連の法改正、売買、賃貸、資産管理について、実務経験をもとにわかりやすく発信しています。
●資産管理(相続・信託・後見制度)につきましては、こちらをご参照ください。
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