目次
- ■ はじめに
- ■ 置き配の利用率は増加
- ■ 置き配は、違反行為
- ■ マンション管理規約・標準モデルの改正
- ■ 賃貸住宅における「置き配」
- ■ まとめ
■ はじめに
新型コロナウイルスの流行により、通信販売やネットショップを利用する人が増加し、「宅配」の需要が高まりました。
賃貸住宅業界においても「宅配」の需要を反映する形で「宅配ボックス」の需要が高まるなど、入居者にも賃貸住宅に対する考え方に大きな変化が見られるようになりました。
その一方で、運送業界の人手不足や再配達の問題は深刻であり、「置き配」により配達物を玄関前に置いてもらうことで、配達で完了できる配達方法です。また、配達員は入居者が不在時でも再配達せずに済むというおおきなメリットがあります。
しかし、便利な反面、共用部分に荷物が置かれることにより、分譲マンションや賃貸住宅において問題となる場合があります。
そこで今回は、賃貸住宅の「置き配」について、どのような問題があるのか、などを考えてみます。
■ 置き配の利用率は増加
郵便受け・宅配ボックスの株式会社ナスタが2019年から毎年実施している「置き配に関する実態調査」について、2023年12月に第6回調査結果が発表されています。
この「置き配に関する実態調査」によると、
結果①「置き配」利用率67.3%、コロナ5類へ移行後も4年連続増加
「置き配」サービスを利用したことがあると答えた人は67.3%、前回調査では61.3%だったのに対して、6.0ポイント増加。
利用率が26.8%だった2019年調査からは4年連続増加、2.5倍に拡大。
結果②約7割の人が再配達を日常的に経験
再配達の頻度については、「4~5回に1回程度」が27.3%と最も多く、68.1%の人が10回に1回以上は再配達になっていることが分かりました。
再配達になってしまった場面は、「いつ配達されるかわからず外出していた時」が46.8%と最も多く、次いで「指定していた時間帯に外出していた時」が19.7%と、外出の際に受け取れないことが原因のようです。
再配達削減に有効な手段は、「玄関先への置き配利用」が68.2%と最も多く、次いで「住宅への宅配ボックス設置」が34.7%と、置き配サービスの有効性が認められる結果となっています。
結果③置き配利用してよかった9割、トラブル経験減少で満足度高。一方、トラブル経験2割有
置き配サービスで荷物を受け取る際、最も多く利用している場所は「玄関先」が62.0%と前回調査の55.8%から6.2ポイント増加、次いで「宅配ボックス」が26.5%と前回調査の23.9%から2.6ポイント増加しました。
「置き配」サービスに対しては、93.7%の人が利用してよかったと思うことがあると回答(「よくある」「時々ある」「数回ある」の合計)、置き配サービスへの満足度が高いことが分かりました。
また、置き配利用時のトラブル経験では「ある」が前回調査(47.9%)から26.8ポイント減少し、21.1%とトラブル経験の減少がうかがえます。
一方、「荷物が濡れた」が6.7%、「荷物が届かなかった(他人の家に置き配された)」が4.4%と、未だ2割程の人が何らかのトラブルを経験していました。
結果④宅配ボックス設置率約4割と横ばい、再配達削減にむけて戸建て・アパートへの普及拡大が課題
ご自宅に宅配ボックスが設置されていると答えた方は40.5%、住居形態別にみると、「戸建て住宅」への設置率は31.1%、「マンション」への設置率は62.0%、「アパート」への設置率は23.3%という結果でした。マンションへの普及に比べ、戸建てとアパートへの普及はまだ低いのが現状です。
郵便受け・宅配ボックスシェアNo.1株式会社ナスタ「置き配に関する実態調査」
「置き配」利用率が2023年は67%、コロナ前と比べ2.5倍に増加 | ニュース | 株式会社ナスタ (nasta.co.jp)
■ 置き配は、違反行為
コロナ禍より年々増加している「置き配」。
便利さのあまり「宅配」のうち約7割弱の方が「置き配」を利用しているという結果が出ています。
賃貸住宅にお住まいの方も利用している方は多いようです。
しかし、この年々増加している「置き配」、賃貸住宅においては消防法や管理規約によって使用することが禁止されていることをご存じでしょうか。
賃貸住宅において部屋の玄関前の廊下は共用部分であり、共用部分に物を置くことは禁止されています。
では、なぜ?禁止されているのか、その理由は以下の2点です。
理由①消防法により共用部分に物を置くことが禁止されている。
消防法で物を共用部分に置くことが禁止されているからです。
実際に消防法の規定により、各都道府県が火災予防条例を制定しています。
避難に支障となる物を廊下に置いてはならないという旨が規定されており、これは通路を狭めてしまうものは該当すると考え、通路となる共用部分に物を置いてはいけないと理由になります。
理由②共用部分の使用方法は管理規約・使用細則により決められている。
入居者の所有物を共用部分に置く行為は、消防法の規定とは別に他の入居者にとって迷惑になるため、管理規約で禁止されていることが多いはずです。
たとえば、賃貸住の廊下も共用部分に当たるため、部屋に接する廊下の部分に傘立て、ベビーカー、自転車などを置くことも、原則、管理規約の違反行為に該当し、「置き配」も含まれることになります。
ただし、他の入居者の迷惑にならないと考えられる範囲では、例外的に共用部分に私物を置くことが認められている場合もあります。この行為は、入居者の判断で良し悪しを決めることはできませんので必ず管理会社へ確認することが大切です。
■ マンション管理規約・標準モデルの改正
国土交通省は、宅配業者が抱える「再配達」の問題。
国土交通省の報告によると、再配達率は現状の11.4%から6%に減少することを目標としています。
再配達が減少することで、ドライバーの時間外労働が減り、労働負荷が軽減されるとともに、配送の効率が向上することに期待をしているのです。
この期待を裏付けているのが「宅配ボックスへの支援」と「集合住宅における置き配の例外規定」です。
国土交通省は、「置き配」についてマンションの廊下など共用部分に宅配荷物を置くことを「例外」とするため全国のマンションの管理規約のひな型となる「マンション管理規約・標準モデル」を改正しました。
この改正の背景には、共用廊下に私物を置くことは多くの管理規約で禁止されているほか、消防法においても避難の障害となるものを置かないよう定められており、
「置き配を利用したいが管理規約の規制の規制により利用できない」
と言った不満や
「管理規約で置き配は禁止されているが、置き引きを荷物が邪魔になる」、
「子どもが荷物につまずいて怪我をした」、
「荷物につまずいて、荷物が破損させてしまいトラブルとなった」
と言った苦情も管理組合に寄せられているようです。
こうした事態の対応策として今回の国土交通省の標準モデルの改正となったわけです。
その中には次のような見解が示されました。
「専用使用部分でない共用部分に物品を置くことは原則として認められないが、宅配ボックスが無い場合等、例外的に共用部分への置き配を認める場合には、長期間の放置や大量・乱雑な放置等により、避難の支障とならないよう留意する必要がある」
要するに、「原則的に共用部に置き配として物を置くことは認められないが、管理規約で例外的に置き配を認めることは可能とします。ただし、その場合にはマンションごとに長期間の放置や大量・乱雑な放置等により、避難の支障とならないように使用細則を作ってください。」と言うことです。
「置き配」の利用率が増加している現状を考えれば共用部分の「置き配」は、原則禁止としながらも状況に応じて認めてもいいとする改正は、マンションの管理組合として規約変更の検討が議論されそうです。
また、例外的に置き配が認められる場合というのがどの程度の範囲までをさすのか、「長期間」が具体的にどれくらいの期間を示すかなどが問題となる点について国土交通省は、今年6月に「置き配に関する使用細則を定める際のポイント」を公表しました。
置き配に関する使用細則を定める際のポイント
e3119bb32b3613b497aa3f5bf19d8e9a.pdf (2021mansionkan-web.com)
■ 賃貸住宅における「置き配」
マンション管理規約・標準モデルの改正は、分譲マンションについて検討しているため、賃貸住宅にはそのまま適用する、と言うことではありません。
しかし、賃貸住宅においても「置き配」について検討が必要となるはずです。
そして、「置き配」を禁止することも対策としては有効ですが、ここまで「置き配」の需要が高い状況では、置き配ボックス、宅配ボックスの設置などのトラブルの対策を検討したほうが良いかもしれません。
ただし、これらの費用負担は貸主となるため、費用面などの課題があります。
まずは、置き配の利用を許可する代わりに、物件内での置き配のルールを決めることが良いかもしれません。
共用部分を使用するため、置場所の指定、置いておける時間などを決めておけば、一定の効果は見込めるはずです。
今後も通販利用は拡大する予想であり、「置き配」を多くの方が利用することが考えられます。
入居者の安全・安心な「置き配」に関するルール作りは、入居満足度改善にも良い影響を与えるはずです。
■ まとめ
必要とする設備や人気のある設備の調査結果」をみても入居者の「住まいの設備ランキング」では各社宅配ボックスはここ数年上位をしめています。
今後は賃貸物件の人気設備として、留守中でも荷物を受取れる宅配ボックスが当たり前となる時代も近くなるかもしれません。
今後、非接触で荷物を受取るニーズガ増えることが予想される中、「置き配」によるトラブルを減らすためのルールや仕組み作りが賃貸の業界でも加速される可能性は大きいと思います。
■記事の投稿者 飯島興産有限会社 飯島 誠
私は、予想を裏切るご提案(いい意味で)と、他者(他社)を圧倒するクオリティ(良質)を約束し、あなたにも私にもハッピー(幸せ)を約束し、サプライズ(驚き)のパイオニア(先駆者)を目指しています。
1965年神奈川県藤沢市生まれ。亜細亜大学経営学部卒業。(野球部)
東急リバブル株式会社に入社し、不動産売買仲介業務を経て、その後父の経営する飯島興産有限会社にて賃貸管理から相続対策まで不動産に関する資産管理、売買仲介、賃貸管理を行う。
コラムでは不動産関連の法改正、売買、賃貸、資産管理について、実務経験をもとにわかりやすく発信しています。
●資産管理(相続・信託・後見制度)につきましては、こちらをご参照ください。
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