目次
- ■ はじめに
- ■ 害虫が発生する原因
- ■ 害虫駆除の費用は誰の負担なのか
- ■ 害虫が出にくい賃貸住宅
- ■ 入居者の入れ替え時に行う害虫対策
- ■ 日常的な害虫対策
- ■ まとめ
- ー参照条文
- ー参照判例
■ はじめに
賃貸住宅においてゴキブリやハエ、蜘蛛などの害虫が発生することがあります。
虫が頻繁に発生するようであれば、虫が苦手な入居者が退去してしまうリスクもあります。
また、木造アパートではシロアリの発生した場合、建物の躯体にダメージが発生する可能性もあり、適切な対策が必要になります。
今回は、知っておきたい害虫の発生原因と、害虫が発生した場合の駆除方法などとともに、貸主・借主のどちらの負担となるのか、を考えてみたいと思います。
■ 害虫が発生する原因
賃貸住宅において害虫が発生する原因はさまざまな点が考えられます。
最近の住宅は気密性が高いため、害虫が室内に侵入する経路はきわめて少ないと考えてしまいがちです。
しかし、気密性が高い=害虫が侵入しない、とはなりません。意外と害虫の侵入機会は多いのです。
例えば、
● 玄関ドア・窓の開閉時に
● 帰宅時に衣服に付着して
● ベランダ・通気口・換気口のすき間などから
● 排水溝・エアコンホース・給排水管など壁や床などのすき間から
と言ったように害虫が侵入できる経路はあります。
また、次のようなケースの場合にも注意が必要です。
● 商店街にある賃貸住宅や1階に飲食店が入居している
● 賃貸住宅周辺に自然が多い
● 風通しが悪い
● 建物が老朽化しており、気密性が悪く、隙間が多い
● 排水管に不具合が生じている
● ゴミが放置されている
● 低層階
■ 害虫駆除の費用は誰の負担なのか
賃貸している室内に賃借している建物にゴキブリやハエ、蜘蛛などの害虫が侵入するような明らかな欠陥がある場合には貸主負担とするべき事情であり、明らかな欠陥がない限り、いわば不可抗力により借主の入居後に害虫が侵入したのであれば、貸主は駆除や侵入防止策を講じる必要はないとされています。
万一、借主が害虫の駆除等を必要と判断するのであれば、借主の負担で害虫の駆除・侵入防止策を講じることになります。
理由としては、これらは貸主の管理の及ばないことであり、この侵入を阻止するよう措置をとる義務が貸主あるわけではないのです。
ただし、たとえばシロアリ被害のように、建物構造に影響を与える被害が発生した場合は、貸主が修繕しなければならないとされています。
また、借主には賃借している建物に対する善管注意義務があり、ネズミ等の侵入により建物への被害が生じれば、貸主に通知しなければならず(民法第400条、同法第615条)、借主が貸主への通知を怠ったり遅れたりすると、建物への被害が拡大したり、電線噛砕による火災を引き起こす危険性もあります。
借主がネズミの侵入を放置したり、借主の原因(食物放置によるネズミが巣食う等)により建物に損傷が生じたりした場合には、借主は、貸主から損害賠償を求められることもあります。
●貸主が負担するケース
貸主は民法上『賃借人に使用および収益させる義務』があり、害虫の発生や侵入により借主が本来の住宅として使用できない状態であれば、その状態を改善させる責任があります。
したがって、常識的に考えられる範囲の対応を貸主が行ったのであれば、それ以上の対応をしなければならないという法律上の解釈はありません。
以上のような原則論を前提とすると、貸主が害虫駆除の負担をしなければならないケースは限定的であり、次のようなことが考えられます。
● 入居から間もなく虫が発生し、入居前から原因があったことが考えられる場合
● 配管設備などに問題があり、虫の侵入がしやすい状態だった場合
● 隣室のゴミ屋敷により、虫が発生し、入居者に落ち度がない場合
● 建物や設備関係の問題のより虫が発生した場合
●借主が負担するケース
借主がゴミを室内やベランダなどに放置したことで虫が発生した場合や、排水溝の掃除を怠ったために虫が発生した場合などは、借主の善管注意義務違反となります。この場合には借主の負担となります。
善管注意義務とは、賃貸物件の所有者である大家さんと同様の「管理者としての注意義務」が入居者にもあり、一定の責任を果たさなければなりません。
害虫について費用の負担割合を決めるということは難しいことかと思われます。原則貸主が負担することになりますが、借主の使用方法により害虫の発生を招いた場合には借主の負担となることは明確です。
害虫の発生が1度きりと言うのであればいいのですが、繰り返しと言うことであれば、貸主負担により早めに専門家に相談することも重要なことです。
※共用部分で害虫が発生している場合は貸主負担となります。
■ 害虫が出にくい賃貸住宅
害虫が出ないことに越したことはありません、しかし害虫がまったくでない賃貸住宅を探すことも不可能に近いはずです。
ただし、次の5点に重点を置き探せば、比較的害虫がでない賃貸住宅は探すことは可能ではないでしょうか。
● コンクリート造の賃貸住宅
● 築年数の新しい賃貸住宅
● 日当たりのよい賃貸住宅
● 高層階の賃貸住宅
● 害虫の出る環境がない賃貸住宅
■ 入居者の入れ替え時に行う害虫対策
入居者が決まっても、害痛のせいで借主が退去されてしまう場合もあります。そのようなことが極力ないようにお部屋の入れ替え時は貸主にとって次のような害虫対策を行える絶好の機会です。
● 燻煙・燻蒸タイプの殺虫剤をたく
● 侵入経路をふさいでおく
● 網戸をチェックし、破れや歪みを補修する
● 防虫剤を置く
■ 日常的な害虫対策
害虫対策は日常的な対策も重要となります。
● こまめに掃除をする
● ゴミや段ボールを溜めない
● 食べ物はなるべく常温保存をしない
● 虫が苦手な植物や食虫植物を育てる
■ まとめ
害虫が侵入するような明らかな欠陥がある場合には貸主負担とするべき事情であり、明らかな欠陥がない限り、いわば不可抗力により借主の入居後に害虫が侵入したのであれば、貸主は駆除や侵入防止策を講じる必要はないとされています。
要約すると、建物の構造上の欠陥に起因するものであれば、貸主の修繕義務が発生します。
しかし、相手は「害虫」という自然発生的なもので人為的に起こったことではないため、貸主・借主・管理会社で協力して対応をすることが大切なことです。
【参照条文】
民法第400条(特定物の引渡しの場合の注意義務)
債権の目的が特定物の引渡しであるときは、債務者は、その引渡しをするまで、契約その他の債権の発生原因及び取引上の社会通念に照らして定まる善良な管理者の注意をもって、その物を保存しなければならない。
同法第601条(賃貸借)
賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって、その効力を生ずる。
同法第606条(賃貸人による修繕等)
①賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。ただし、賃借人の責めに 帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは、この限りでない。
②賃貸人が賃貸物の保存に必要な行為をしようとするときは、賃借人は、これを拒むことができない
同法第615条(賃借人の通知義務)
賃借物が修繕を要し、又は賃借物について権利を主張する者があるときは、賃借人は、遅滞なくその旨を賃貸人に通知しなければならない。ただし、賃貸人が既にこれを知っているときは、この限りでない。
【参照判例】
東京地裁平成21年1月28日判決(要旨)ウエストロー・ジャパン
建物の賃貸借契約において賃貸人が賃借人に対して負う義務は、賃借人がその使用目的に従って建物を使用収益できる状態にして引き渡せば足りるものであり、その後、建物にネズミ等の生物が侵入して建物の使用に影響を与えるようになったとしても、ネズミ等の建物内への侵入自体は当該ネズミ等と建物を使用する賃借人の使用状況との相関関係により生じる事態であって、賃貸人の管理の及ばない事項である以上、この侵入を阻止するよう措置をとる義務が賃貸人に直ちに生じるものではない。
※ネズミのみならず、蚊・蠅、ゴキブリなどの虫類等の駆除も同様である。
公益社団法人不動産流通センター 不動産相談を参照
■記事の投稿者 飯島興産有限会社 飯島 誠
私は、予想を裏切るご提案(いい意味で)と、他者(他社)を圧倒するクオリティ(良質)を約束し、あなたにも私にもハッピー(幸せ)を約束し、サプライズ(驚き)のパイオニア(先駆者)を目指しています。
1965年神奈川県藤沢市生まれ。亜細亜大学経営学部卒業。(野球部)
東急リバブル株式会社に入社し、不動産売買仲介業務を経て、その後父の経営する飯島興産有限会社にて賃貸管理から相続対策まで不動産に関する資産管理、売買仲介、賃貸管理を行う。
コラムでは不動産関連の法改正、売買、賃貸、資産管理について、実務経験をもとにわかりやすく発信しています。
●資産管理(相続・信託・後見制度)につきましては、こちらをご参照ください。
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