■ 目次
- ■ はじめに
- ■ 障害者差別解消法
- ー目的
- ー障害者とは
- ー事業者とは
- ■ 不当な差別的取扱いの禁止
- ー不動産業における具体例
- ■合理的配慮の提供
- ー不動産業における具体例
- ■ まとめ
■ はじめに
2024年4月に「障害者差別解消法」が改正されます。
改正障害者差別解消法ではこれまで努力義務だった障がい者への合理的配慮の提供が義務となります。
「障害者差別解消法」は2016(平成28)年4月1日に施行された法律で、障害者への差別をなくすことを目的に、行政機関や事業者に向けて具体的な対応のあり方を定めています。
同法以前に施行された「障害者基本法」では、基本原則に「差別の禁止」が挙げられていましたが、その理念を具現化するための法律とも言えます。
今回の改正により、不動産業界においても接客対応の際に「合理的配慮の提供」が義務化されることとなります。
■ 障害者差別解消法
●目的
障害者差別解消法の目的は、「障害を理由とする差別の解消を推進し、もって全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に資すること」です(障害者差別解消法1条)。
この目的の達成のために、障害者差別解消法では、
・障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本的な事項
・行政機関等及び事業者における障害を理由とする差別を解消するための措置
として主に、以下3つの義務を課しています。
- 不当な差別的取扱いの禁止(法8条1項)
- 合理的配慮の提供(法8条2項)
- 環境の整備(法5条)
●障害者とは
「障害者」とは、障害者差別解消法上、「身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害(以下「障害」と総称する。)がある者であって、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるもの」をいうと定義されています(障害者差別解消法2条1号)。
「障害者」に当たるかは、状況等に応じて個別に判断されると考えられており、いわゆる障害者手帳の所持者には限られません。
●事業者とは
「事業者」とは、障害者差別解消法上、「商業その他の事業を行う者(国、独立行政法人等、地方公共団体及び地方独立行政法人を除く。)」をいうと定義されています(障害者差別解消法2条7号)。
営利性や非営利性、個人・法人の別を問わず、同種の行為を反復継続する意思をもって行う者を指すと考えられており、個人事業主も含まれるため、事業的規模で賃貸経営を行なう不動産オーナーも同法の対象となる点も注意が必要となります。
事業者による障害のある人への「合理的配慮の提供」が義務化されます | 政府広報オンライン (gov-online.go.jp)
■ 不当な差別的取扱いの禁止
障害者差別解消法では、障害者に対する差別を解消するために、事業者との関係で、不当な差別的取扱いの禁止、合理的配慮の提供について規定しています。
まず、不当な差別的取扱いとは、事業者が、事業を行うに当たり、障害者に対し障害を理由に障害者でない者と不当な差別的取扱いをすることにより、障害者の権利利益を侵害してはならないことをいいます(障害者差別解消法8条1項)。
具体的には、
国土交通省所管事業における障害を理由とする 差別の解消の推進に関する対応指針より次の事例が公表されています。 001706749.pdf (mlit.go.jp)
【不動産業における具体例】
(1)不当な差別的取扱い
① 正当な理由がなく、不当な差別的取扱いにあたると想定される事例
・ 物件一覧表や物件広告に「障害者不可」などと記載する。
・ 障害者に対して、「当社は障害者向け物件は取り扱っていない」として話も聞かずに門前払いする。
・ 賃貸物件への入居を希望する障害者に対して、障害があることを理由に、賃貸人や家賃債務保証会社への交渉等、必要な調整を行うことなく仲介を断る。
・ 賃貸物件への入居を希望する障害者に対して、先に契約が決まった事実 がないにもかかわらず、「先に契約が決まったため案内できない」等、虚偽の理由にすり替えて説明を行い、賃貸人や家賃債務保証会社への交渉等、必要な調整を行うことなく仲介を断る。
・ 障害者に対して、客観的に見て正当な理由が無いにもかかわらず、「火災を起こす恐れがある」等の懸念を理由に、仲介を断る。
・ 一人暮らしを希望する障害者に対して、一方的に一人暮らしは無理であると判断して、仲介を断る。
・ 車椅子で物件の内覧を希望する障害者に対して、車椅子での入室が可能 かどうか等、賃貸人との調整を行わずに内覧を断る。
・ 障害者に対し、障害を理由とした誓約書の提出を求める。
・ 賃貸物件への入居を希望する障害者に対し、障害があることを理由として、言葉遣いや接客の態度など一律に接遇の質を下げる。
・ 障害者が介助者を伴って窓口に行った際に、障害者本人の意思を全く確認せず、介助者のみに対応を求める。
・ 障害があることのみを理由として、一律に、障害者に対して必要な説明を省略する、または説明を行わない。
・ 障害があることやその特性による事由を理由として、契約の締結等の際 に、必要以上の立会者の同席を求める。
② 障害を理由としない、又は、正当な理由があるため、不当な差別的取扱いにあたらないと考えられる事例
・ 障害の状況等を考慮した適切な物件紹介や適切な案内方法等を検討するため、必要な範囲で、プライバシーに配慮しつつ、障害者に障害の状況等を確認する。(権利・利益の保護)
■ 合理的配慮の提供
合理的配慮の提供とは、事業者が、事業を行うに当たり、障害者から社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときに、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮を行うことをいいます(障害者差別解消法8条2項)。
具体的には、
国土交通省所管事業における障害を理由とする 差別の解消の推進に関する対応指針より次の事例が公表されています。 001706749.pdf (mlit.go.jp)
【不動産業における具体例】
(1)合理的配慮
① 合理的配慮の提供の事例
・ 障害者が物件を探す際に、障害者や介助者等からの意思の表明(障害特性によっては自らの意思を表現することが困難な場合があることに留意。 以下同じ。)に応じて、最寄り駅から物件までの道のりを一緒に歩いて確認したり、1軒ずつ中の様子を手を添えて丁寧に案内する。
・ 車椅子を使用する障害者が住宅を購入する際に、住宅購入者の費用負担で間取りや引き戸の工夫、手すりの設置、バス・トイレの間口や広さ変更、車椅子用洗面台への交換等を行うこと等を希望する場合において、宅建業者が住宅のリフォーム等に関わるときは、売主等に顧客の希望を適切に伝 える等必要な調整を行う。
・ 障害者や介助者等からの意思の表明に応じて、バリアフリー物件等、障害者が不便と感じている部分に対応している物件があるかどうかを確認 する。
・ 障害者や介助者等からの意思の表明に応じて、ゆっくり話す、手書き文 字(手のひらに指で文字を書いて伝える方法)、筆談を行う、分かりやすい表現に置き換える、IT 機器(タブレット等による図や絵)の活用等、相 手に合わせた方法での会話を行う。
・ 種々の手続きにおいて、障害者や介助者等からの意思の表明に応じて、 文章を読み上げたり、書類の作成時に書きやすいように手を添える。
・ 書類の内容や取引の性質等に照らして特段の問題が無いと認められる場合に、自筆が困難な障害者からの要望を受けて、本人の意思確認を適切 に実施した上で、代筆対応する。
・ 障害者や介助者等からの意思の表明に応じて、契約内容等に係る簡易な 要約メモを作成したり、家賃以外の費用が存在することを分かりやすく提 示したりする等、契約書等に加えて、相手に合わせた書面等を用いて説明 する。
・ 物件案内時に、障害者や介助者等からの意思の表明に応じて、段差移動のための携帯スロープを用意する。
・ 物件案内時に、障害者や介助者等からの意思の表明に応じて、車椅子を 押して案内をする。
・ 物件案内の際、障害者や介助者等からの意思の表明に応じて、肢体不自 由で移動が困難な障害者に対し、事務所と物件の間を車で送迎する。
・ 障害者や介助者等からの意思の表明に応じて、物件の案内や契約条件等の各種書類をテキストデータで提供する、ルビ振りを行う、書類の作成時に大きな文字を書きやすいように記入欄を広く設ける等、必要な調整を行う。
・ 障害者や介助者等からの意思の表明に応じて、物件のバリアフリー対応 状況が分かるよう、写真を提供する。
・ 障害者の居住ニーズを踏まえ、バリアフリー化された物件等への入居が 円滑になされるよう、住宅確保要配慮者居住支援協議会の活動等に協力し、国の助成制度等を活用して適切に改修された住戸等の紹介を行う。
②合理的配慮の提供義務違反に該当すると考えられる事例
・ 内見等に際して、移動の支援として、車椅子を押して案内を行う、事務所と物件の間を車で送迎する等の対応を求める申出があった場合に、「何かあったら困る」という抽象的な理由で具体的な支援の可能性を検討せず、支援を断る。
・ 電話利用が困難な障害者から直接電話する以外の手段(メールや電話リレーサービス等の手話を介した電話又は保護者や支援者・介助者の介 助等)により各種手続が行えるよう対応を求められた場合に、自社マニ ュアル上、当該手続は利用者本人による電話のみで手続可能とすることとされていることを理由として、具体的に対応方法を検討せずに対応を 断る。
③ 合理的配慮の提供義務違反に該当しないと考えられる事例
・ 宅建業者が、歩行障害を有する者やその家族等に、個別訪問により重要事項説明等を行うことを求められた場合に、個別訪問を可能とする人 的体制を有していないため対応が難しい等の理由を説明した上で、当該 対応を断ること。(なお、個別訪問の代わりに、相手方等の承諾を得て、WEB 会議システム等を活用した説明を行うこと等により歩行障害を有す る者が不動産取引の機会を得られるよう配慮することが望ましい。)
■ まとめ
障害者差別解消法の内容と改正点についてお伝えいたしました。
実際に改正される4月以降にどのような影響があるのか、と問われた場合、不動産業務に与える影響は現在のところ不明瞭と言わざるを得ません。
業務の対象となる方に対し、障害による不自由さに配慮して対応することは常識的なことであり、すでに実践されている会社もあると思います。
障害者差別解消法の求める基準がどこに設定しているのかは不明瞭ですが、4月以降の世間の影響を注視しながら、障害者に対する接客対応の改善・向上に取り組んでいただければと思います。
■記事の投稿者 飯島興産有限会社 飯島 誠
私は、予想を裏切るご提案(いい意味で)と、他者(他社)を圧倒するクオリティ(良質)を約束し、あなたにも私にもハッピー(幸せ)を約束し、サプライズ(驚き)のパイオニア(先駆者)を目指しています。
1965年神奈川県藤沢市生まれ。亜細亜大学経営学部卒業。(野球部)
東急リバブル株式会社に入社し、不動産売買仲介業務を経て、その後父の経営する飯島興産有限会社にて賃貸管理から相続対策まで不動産に関する資産管理、売買仲介、賃貸管理を行う。
コラムでは不動産関連の法改正、売買、賃貸、資産管理について、実務経験をもとにわかりやすく発信しています。
●資産管理(相続・信託・後見制度)につきましては、こちらをご参照ください。
# 障害者差別解消法 #改正 #障害者