相続実例⑥
■ 相続人の一人が20年間所在不明(相続分の譲渡を利用した事例)
目次
- ■ 相続人関係図
- ■ 依頼内容
- ■ 相続財産
- ■ 作業の経緯
- ■ 結論
- ■ ポイント
■ 相続人関係図
母親が亡くなられてから相続人の二男から相談を受けました。
相続人は、お亡くなりになられた母親の長男・長女・次男の2名。
■ 依頼内容
母親の相続手続きの流れ、相続税の有無など相続手続きに関するご相談にお越しになられました。
お父様はすでにお亡くなりになられています。
今回の相続で問題なのは、相続人である長男。
ご相談にお越しになられた相続人の二男によると、20年前から長男は行方不明。
20年前以前より、自宅から出られてひとりで暮らしていたようですが、20年前から連絡も取れない状態になったようです。
行方不明の長男の相続に関する手続きを踏んで、自宅の売却を経て母親の借金を返済する。
◆ 今回の依頼内容まとめ
1.相続人確定作業および相続人の住所調査
2.行方不明な長男の代わりに不在者管理人手続き
3.相続税の有無
4.借金の返済についての調整
5.分割協議後の売却手続き
◆ 不在者財産管理人とは
不在者財産管理人とは、行方が分からず連絡がまったくとれない行方不明者(不在者)の財産を管理する人です。相続の場合、行方不明の相続人に代わり財産を管理する人です。
遺産分割協議は相続人全員で行う必要があります。そのため、相続人の1人が行方不明で連絡が取れない状況では遺産分割協議を行うことができません。
そこで、不在者財産管理人を選任してもらうことで、行方不明の相続人に代わって遺産分割協議に参加してもらい、全員同意で協議することで相続手続きを進められるようになります。
そして、管理人が最終的に協議を成立させるためには家庭裁判所の許可も必要です。
ここで注意すべきことは、不在者財産管理制度は不在者の財産を保全し、不在者の利益を保護するための制度であるということです。
遺産分割協議のときには、不在者の利益を保護するため法定相続分以上を取得する内容であることが必要ですし、仮に不在者の取得分が法定相続分よりも少ない場合には家庭裁判所が許可しない可能性が高いです。
申立人が不動産など特定の財産を自分が取得することを目的として不在者財産管理人選任の申立てを行っても、その目的を達する内容の遺産分割協議が成立するとは限りません。
不在者財産管理人の役割
- 不在者の財産を管理する
- 不在者の財産目録を作成する
- 家庭裁判所の許可を得て遺産分割協議を成立させる
■ 相続財産
預貯金、自宅(土地・家屋)、借金
相続税は、債務控除後の課税価格が基礎控除以内のため課税なし。
■ 作業の経緯
1.相続人確定作業(お父様の出生までの戸籍等資料の収集)および長男の戸籍の附票の取得。
※戸籍の附票には住所地の移動が記載されています。
2.相続財産の資料
不動産(名寄帳・登記事項証明書・公図・道路平面図等)
預貯金(残高証明・利息計算書)
借金の調整(債権者との調整)
4.不在者財産管理人申立て(弁護士紹介)
5.遺産分割協議→遺産分割協議書締結(※司法書士・弁護士作業)
6.相続財産売却に伴う権限外許可の申立て
7.売却に伴う家庭裁判所への提出書類の準備
8.相続財産売却
8.債権者への返済手続き打ち合わせ
◆ 権限外行為とは
不在者財産管理人の権限では、遺産分割協議を成立させたり、不在者の不動産を売却することはできません。
なぜなら、不在者財産管理人の権限は保存行為と管理行為に限られるので、遺産分割協議や不動産の売却などの処分行為は権限外行為となるのです。
不在者財産管理人が権限外行為をするには、家庭裁判所に権限外行為許可の申立てをして認めてもらう必要があります。
不在者財産管理人の処分行為
- 遺産分割協議を成立させる
- 相続放棄をする
- 不動産の売却
- 建物の取り壊し
- 訴訟行為等
■ 結論
相続税は債務控除後の課税価格が基礎控除以内により納税はありません。ただし、申告は必要なります。
行方不明の相続人がいる場合、不在者財産管理制度と失踪宣告制度の二通りの選択があります。
行方不明になって20年経過していますので失踪宣告を選択することも考えられましたが、不在者財産管理人の選任申立ては、提出先の家庭裁判所によって異なりますが約2~3ヶ月で不在者財産管理人が選任されます。それに対して、失踪宣告の申立ては、失踪宣告の審判確定まで半年から1年ほどかかる流れです。
今回は、相続税の支払いはありませんが、借金の返済を早く済ませるため、期間の短い不在者財産管理制度を使い、不在者管理人を選任のうえ、権限外行為である遺産分割協議を経て相続財産である不動産の売却。そして借金の返済と相続から10ヶ月以内にすべて完了することができました。
※相続財産の売却により必要経費と借金。そして譲渡所得税を差し引いた手取り資金を行方不明の長男と次男で均分にて相続しました。その後、長男に対し、失踪宣告をを申立て、審判確定まで完了しました。
■ ポイント
相続人に行方不明者がいた場合、現在の住所や連絡先が分からないだけなのか、完全に行方不明なのか、行方不明になった背景や行方不明の期間など様々なケースがあります。
それらのケースによって対処法が異なってきます。相続が発生してからでも問題はありませんが、事前にどのような対処法があるのか、確認しておくのも安心です。
■記事の投稿者 飯島興産有限会社 飯島 誠
私は、予想を裏切るご提案(いい意味で)と、他者(他社)を圧倒するクオリティ(良質)を約束し、あなたにも私にもハッピー(幸せ)を約束し、サプライズ(驚き)のパイオニア(先駆者)を目指しています。
1965年神奈川県藤沢市生まれ。亜細亜大学経営学部卒業。(野球部)
東急リバブル株式会社に入社し、不動産売買仲介業務を経て、その後父の経営する飯島興産有限会社にて賃貸管理から相続対策まで不動産に関する資産管理、売買仲介、賃貸管理を行う。
コラムでは不動産関連の法改正、売買、賃貸、資産管理について、実務経験をもとにわかりやすく発信しています。
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