
目次
- ■ はじめに
- ■ 現行制度が抱えていた「5つの深刻な問題点」
- ■ 改正による劇的な変化:現行との違い
- ■ 改正後も懸念される「新たな問題点・課題」
- ■ まとめ
■ はじめに
2026年6月、日本の福祉と法制度における歴史的な転換点となる「民法等の一部を改正する法律」が成立・公布されました。
高齢化社会の進展に伴い、認知症高齢者などの権利を守るために2000年に創設された「成年後見制度」が、約4分の1世紀ぶりにその根幹から生まれ変わることになります。
これまでの後見制度は「利用しにくい」「一度始めたらやめられない」といった強い不満や批判の対象となってきました。
今回の法改正は、そうした現行制度の致命的な弱点を克服し、本人の尊厳と使いやすさを最優先にした「オーダーメイド型の支援制度」へと舵を切るものです。施行は2028年12月までに予定されています。
本コラムでは、現行制度が抱えていた深刻な問題点、法改正によって何がどう変わるのかという主要な変更点、そして法改正後も残る、あるいは新たに生じる懸念(問題点)について、3つの視点から詳細に解説します。
■ 現行制度が抱えていた「5つの深刻な問題点」
現行の成年後見制度は、本人の判断能力の程度に応じて「後見」「保佐」「補助」という3つの型(類型)に画一的に分類されていました。
しかし、この仕組みは実際の利用者のニーズや社会の現実と大きく乖離しており、結果として利用者は全人口のわずか数パーセントにとどまるという「不人気な制度」に陥っていました。主な問題点は以下の5点です。
① 原則として「一生やめられない」終身制の壁
現行制度の最大のネックは、一度制度を利用し始めると、本人の判断能力が奇跡的に回復するか、あるいは亡くなるまで「原則として途中でやめることができない」という点でした。
「実家の不動産を売却したい」「遺産分割協議を行いたい」といった一時的な目的で後見人を立てたとしても、その目的が完了した後に制度を終了させることは認められませんでした。
② 払い続けなければならない「終わりのない報酬コスト」
制度が終身制であることに伴い、弁護士や司法書士、社会福祉士などの専門職が後見人に就任した場合、本人が亡くなるまで毎月数万円(基本報酬は月額2万〜6万円程度)の報酬を本人の財産から支払い続けなければなりませんでした。
これが何年、何十年と続くと、本人の老後資金や遺産が大きく目減りすることになり、家族にとって極めて重い経済的・心理的負担となっていました。
③ 親族が後見人に選ばれにくい「専門職偏重」
制度創設初期は親族が後見人に選ばれるケースが大半でしたが、財産の使い込みなどの不正事件が相次いだ結果、家庭裁判所は外部の専門職を優先して選任するようになりました。
近年では親族が選ばれる割合は2割程度にまで激減しています。
結果として、「見ず知らずの他人に家族の通帳や財産を握られ、自由にお金が使えなくなった」という親族側の不満や、意思疎通のすれ違いによるトラブルが多発しました。
④ 本人の「残された能力」を奪う一律の資格制限
特に最も重度とされる「後見」類型では、本人の判断能力が「常時欠く状況」にあるとみなされ、後見人に非常に強力な包括的代理権が与えられます。
その反面、本人の契約行為は(日用品の購入等を除き)原則としてすべて取り消しの対象となり、本人の主体性や「自分で決めたい」という意思が不当に制限される側面がありました。
⑤ 柔軟な「支援者交代」の難しさ
一度選任された後見人は、不正行為や著しい不行跡などの明らかな非がない限り、原則として解任や交代が認められませんでした。
「相性が合わない」「方針に納得がいかない」という理由だけでは、家庭裁判所は交代を認めず、本人や家族と後見人との関係が冷え切ったまま固定化してしまうケースが少なくありませんでした。
■ 改正による劇的な変化:現行との違い
2026年の法改正は、上記に挙げた現行制度の欠陥をほぼ全面的に刷新する内容となっています。
最大の特徴は、画一的なパッケージ型から、必要なパーツだけを組み合わせる「完全オーダーメイド型」への移行です。
| 比較項目 | 現行制度(2028年まで) | 改正後(2028年12月までに施行) |
|---|---|---|
| 制度の類型 | 後見・保佐・補助の3類型(画一的) | 「補助」に一元化(オーダーメイド) |
| 利用期間 | 原則として本人が死亡するまでの終身制 | 目的達成や必要性消滅で途中終了が可能 |
| 支援の範囲 | 類型に応じた一律・包括的な権利 | 必要な行為だけを選ぶ個別同意・代理権 |
| 後見人の交代 | 不正などの理由がない限り原則不可 | 本人の利益のために必要なら柔軟に交代可 |
| 報酬の基準 | 主に財産額で機械的に決定 | 財産だけでなく事務内容も加味して決定 |
① 「補助」への一元化と個別プランニング
改正後は、従来の「後見・保佐」という区分が廃止され、すべて「補助」という一つの枠組みに統合されます。
これにより、重度の認知症や知的障害がある場合であっても、一律にすべての権利を奪うのではなく、「この財産の管理だけをお願いする」「この契約だけチェックしてもらう」といったように、本人の能力や事情に合わせて支援の範囲を細かくカスタマイズできるようになります。
なお、重度者向けには重要財産行為の取消権を持つ「特定補助」という仕組みが補完的に用意されます。
② スポット利用(有期利用)の解禁
もっとも画期的な変更が、制度の「有期化」です。
これにより、「遺産分割協議を行うため」「特定の不動産を処分するため」といった限定的な目的や期間を設定して制度を利用できるようになります。
その目的が完了し、もはや支援の必要がなくなったと家庭裁判所が認めれば、制度を途中で適法に終了させることができます。
これにより、「一生やめられない」という恐怖から解放されます。
③ 支援者の交代・追加が柔軟に
本人の生活状況の変化や、支援者との関係性に応じて、より適任な人への交代や、複数の支援者を立てることが容易になります。
例えば、財産管理は専門職に、日常の身上保護(介護手配など)は親族や社会福祉士に、といったチーム体制での柔軟な支援が可能になります。
④ 意思決定支援の義務化
支援者は、単に財産を損なわないように管理する(財産防衛)だけでなく、本人の意向を丁寧に汲み取り、情報を分かりやすく提供して、本人が「自ら決定できるようサポートする(意思決定支援)」ことが法的な義務として明確に位置づけられました。
■ 改正後も懸念される「新たな問題点・課題」
今回の法改正は間違いなく前進であり、理想的な理念を掲げていますが、一方で実務の現場や社会全体においては、以下のような新たな問題点や懸念材料も指摘されています。
① 家庭裁判所の業務過大と判断の長期化
制度がオーダーメイド化され、さらに「途中で終了できるか」「支援者を交代すべきか」といった個別具体的な審査が激増することになります。
現在でも家庭裁判所は人手不足や審理の長期化が問題となっていますが、一件一件に手厚い対応を求められるようになると、手続きの開始や終了までにさらなる時間がかかり、機動的な利用が妨げられる恐れがあります。
② 「スポット利用」終了後のリバウンドと見守りの空白
特定の目的(例:不動産売却)が終わったことで制度を終了させた後、その本人の認知症がさらに進行した場合、誰が本人の生活や財産を保護するのかという「見守りの空白」が生じる危険性があります。
悪質な詐欺グループなどが、後見が外れたタイミングを狙って高齢者に接近するリスクも排除できません。
終了後も地域社会や福祉ネットワークが緩やかに見守る仕組みが不可欠です。
③ 専門職の「なり手不足」と報酬のミスマッチ
今回の改正では、報酬の決定基準に「事務の内容」を考慮することが明記されました。
これにより、財産額が少なくても手間のかかる(身上保護の負担が大きい)事案では、専門職へ適正な報酬が支払われる道が開かれます。
しかし裏を返せば、本人に財産がない場合に「誰がその報酬を補填するのか」という公的助成の仕組み(成年後見利用支援事業など)が全国一律で拡充されなければ、専門職が引き受けを拒否し、本当に支援が必要な困窮者が取り残される「後見難民」が生まれる可能性があります。
④ 親族や周囲の「過剰介入」による本人の権利侵害
「補助」に一元化され、本人の意思が尊重されるようになることは理想ですが、一見「本人の意思」に見えても、実は同居する親族の誘導や圧力がかかっているケース(不当な財産処分など)を見抜くことが難しくなります。
支援のカスタマイズ性が高まる分、周囲の悪意や誤解による「ソフトな権利侵害」を防ぐためのチェック機能(後見監督人など)をどのように機能させるかが課題となります。
■ まとめ
2026年の成年後見制度改正は、これまでの「財産をがっちり守るための制度(制限・防衛)」から、「本人がその人らしく生きる権利を支えるための制度(伴走・支援)」へのパラダイムシフトです。
「必要な時にだけ、必要な分だけ使える」ようになることで、これまで利用を躊躇していた多くの人々にとって、心理的・経済的なハードルは劇的に下がるでしょう。
しかし、この新しいオーダーメイド型の仕組みが真に機能するかどうかは、今後の具体的な政省令の策定や、家庭裁判所の体制強化、そして地域福祉との連携にかかっています。
私たち市民の側も、「他人に丸投げする終身の制度」から「自分たちで最適な形を選び取る制度」へと意識をアップデートしていく必要があります。
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■記事の投稿者 飯島興産有限会社 飯島 誠

私は、予想を裏切るご提案(いい意味で)と、他者(他社)を圧倒するクオリティ(良質)を約束し、あなたにも私にもハッピー(幸せ)を約束し、サプライズ(驚き)のパイオニア(先駆者)を目指しています。
1965年神奈川県藤沢市生まれ。亜細亜大学経営学部卒業。(野球部)
東急リバブル株式会社に入社し、不動産売買仲介業務を経て、その後父の経営する飯島興産有限会社にて賃貸管理から相続対策まで不動産に関する資産管理、売買仲介、賃貸管理を行う。
コラムでは不動産関連の法改正、売買、賃貸、資産管理について、実務経験をもとにわかりやすく発信しています。

●資産管理(相続・信託・後見制度)につきましては、こちらをご参照ください。
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