■ 目次
- ■ 改正の要因(相続税と贈与税の一体化)
- ■ 現行の贈与税
- -暦年課税
- ー暦年贈与の注意点
- ー相続時精算課税
- ■ 改正後の贈与税
- ー暦年贈与
- -相続時精算課税
- ■ 今後の活用方法
- ー孫への贈与を活用
- ー相続時精算課税制度の活用
- ■ まとめ
令和5年度税制改正大綱(令和4年12月23日 閣議決定)により、2024年1月1日以降の贈与より、相続開始前の生前贈与が相続財産の持ち戻し期間が死亡3年前から7年前へと延長されることが決定されています。
相続財産の持ち戻しとは
相続税における相続財産の持ち戻しとは、被相続人の亡くなったときまでに相続人等に対して生前贈与されていた財産について、被相続人の亡くなったときにある相続財産として加算し、相続税を課税することをいいます。
令和5年度税制改正の大綱(2/10) : 財務省 (mof.go.jp)
■改正の要因(相続税と贈与税の一体化)
相続税とは、遺産を相続した人にかかる税金のことですあり、贈与税とは個人間で財産の贈与があった場合、その財産の贈与を受け取った人(受贈者)にかかる税金を言います。
もともと贈与税は相続税を補完する意味で設けられた税金です。
アメリカやヨーロッパなどでは、相続・贈与にかかわらず税負担を一定としている国が多く、日本もそのような外国の制度を参考に、資産を移転する時期がずれようとも税負担が変動しない一体化する税制改正が検討されていました。
■現行の贈与税
現行の贈与税については暦年贈与と相続時精算課税制度と2つの選択があります。
●暦年課税
暦年課税とは、1年間の贈与額が110万円以下であれば非課税になる制度です。
この制度を利用したのが「暦年贈与」と呼ばれており、贈与税の基礎控除を利用して生前に財産を渡すことにより、相続税を節税しようというものです。
この贈与のうち相続開始前3年以内に行われた贈与については、相続財産に加算して相続税を計算することになっており、これを生前贈与加算と言います。
また、贈与税と相続税の二重課税になるため、支払い済の贈与税は相続税から税額控除を行います。これを贈与税額控除と言います。
●暦年贈与の注意点
1年間に受け取る贈与額が110万円を超えず、「毎年110万円の財産を渡していくことにより税負担を大幅に削減できる。」と考えがちですが注意が必要です。
毎年、決まった時期に110万円を贈与しても贈与税はかからないと思ってしまう人もいるはずです。
毎年110万円の贈与を10年間続けた場合、贈与額の合計は1,100万円となります。
このような場合、税務書に「初めから1,100万円を贈与する計画だった」と判断され、贈与税が課せられる可能性が高くなります。
このように、毎年同じ相手から一定の額を一定の時期に贈与されることを、「定期贈与」といい、非課税枠を上手に活用するなら、定期贈与にならないための工夫が必要となってくるのです。
●相続時精算課税
相続時精算課税とは、生前贈与の総額として2,500万円までを非課税とし、贈与をした人が亡くなったときに、それらを残りの相続財産とまとめて相続税として課税する制度です。この相続時精算課税を利用した場合、相続時に生前贈与の分を含めて相続税を計算することになりますので実質的には納税が先送りになったにすぎず、節税効果はありません。
※暦年課税と相続時精算課税の2つの制度を併用することはできません。
■改正後の贈与税
●暦年贈与
税制改正後では、暦年贈与の持ち戻し期間が相続開始前の3年以内から7年以内に延長されることになります。
ただし、単に対象期間が延ばされたわけではなく、相続開始前の3年以内の贈与が加算対象となるのは従来どおりですが、4年以上前のものは、その期間の贈与の額から100万円を控除した額が持ち戻しの対象となります。
たとえば、年間100万円の生前贈与を続けていた場合、3年以内の300万円はそのまま持ち戻しの対象となりますが、4年前から7年以内の400万円は100万円を控除した300万円が持ち戻しの対象となるのです。
●相続時精算課税
現状ではメリットの薄い相続時精算課税制度ですが、改正後では年間110万円の基礎控除が加わります。2024年以降に相続時精算課税制度を選択した場合、年110万円までなら贈与税がかからないだけでなく、相続税もかからなくなります。
また、改正前は少額の贈与でも申告が必要でしたが、年110万円までの贈与は申告も不要となります(年110万円を超えると期限内申告が必要)。
■今後の活用方法
今後、贈与を検討する場合、どのような方法をとればよいのか、暦年贈与と相続時精算課税には、
●孫への贈与を活用
●相続時精算課税制度の活用
の2つが考えられます。
● 孫への贈与を活用
生前贈与の持ち戻しの対象となるのは、相続または遺贈によって財産を取得した人となります。そのため、相続人でない孫に対する生前贈与は持ち戻しの対象とはなりません。
現行制度のもとでも行っていましたが、持ち戻しの対象期間が延長されたことで、相続人ではない孫への贈与を活用する方法が必要となります。
※孫の親がすでに死亡しており代襲相続が発生していたり、孫が遺言などで財産を取得する場合、または相続時精算課税制度による贈与を受けている場合には孫に対する生前贈与も持ち戻しの対象となってしまうので注意してください。
● 相続時精算課税制度の活用
税制改正では、この相続時精算課税制度を選択した場合にも、110万円以内の贈与であれば、持ち戻しの対象とはならず、申告も不要ということになりました。そのため、子どもなどの法定相続人については、この相続時精算課税制度を活用し、110万円の生前贈与を活用して対策するという方法ができるようになりました。
また、収益物件や株式投資信託など、利益が見込める資産はなるべく早い段階で贈与することもひとつの方法です。
贈与の後に発生した家賃収入や配当金などの利益は贈与された子どもや孫の財産になり、親の収入を増やさないメリットも期待できます。
贈与を受けた人の財産を増やしながら、親の相続資産を圧縮できるのです。
■ まとめ
税制改正により単純に子や孫に生前贈与をすれば相続税対策になるということはなくなると考えられます。
制度の内容も複雑になったため、進めている対策が無駄になってしまうリスクやどの方法が最適であるのか、相談者の事情を考慮したうえで決めていく必要が今まで以上に求められるはずです。
相続税対策の進め方について不安に感じる場合や、どのように進めるのがよいのかを具体的に知りたいという場合は、相続税に詳しい専門家に相談してから進めることをお勧めします。
■記事の投稿者 飯島興産有限会社 飯島 誠
私は、予想を裏切るご提案(いい意味で)と、他者(他社)を圧倒するクオリティ(良質)を約束し、あなたにも私にもハッピー(幸せ)を約束し、サプライズ(驚き)のパイオニア(先駆者)を目指しています。
1965年神奈川県藤沢市生まれ。亜細亜大学経営学部卒業。(野球部)
東急リバブル株式会社に入社し、不動産売買仲介業務を経て、その後父の経営する飯島興産有限会社にて賃貸管理から相続対策まで不動産に関する資産管理、売買仲介、賃貸管理を行う。
コラムでは不動産関連の法改正、売買、賃貸、資産管理について、実務経験をもとにわかりやすく発信しています。
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