■ 目次
- ■ はじめに
- ■ 手付金の役割
- ■ 手付解除とは
- ■ 手付解除する方法
- ■ 手付解除期日とは
- ■ まとめ
■ はじめに
不動産の売買において、売買契約書には「手付解除」という条項があります。
不動産の売買契約を締結した場合、買主から売主に対し、手付金が交付されます。
一般的にこの手付金を放棄すれば、不動産の売買契約を解除できる場合があることを認識されている方は少なくないはずです。
契約解除の際にはこの「手付解除」の役割は大きく、認識しておくことが重要です。
今回は、この「手付解除」について、手付金の役割、手付解除の方法と併せて考えてみます。
■ 手付金の役割
手付金は不動産の売買契約を締結した場合、買主から売主に対し、売買代金の一部として交付される金銭、これが「手付金」です。
不動産の取引で手付金を交付される理由は、売主と買主が安易に契約を解除できないようにするためです.
この手付金には「証約手付」「解約手付」「違約手付」の3つの役割があり、契約の解除が可能なのは、(2)の解約手付となります。
(1) 証約手付
売買契約が締結されたことを証するものとして交付される手付をいいます。
すべての手付金は、証約手付であるものと解されています。
(2) 解約手付
買主はその手付を放棄し、売主は手付の倍額を現実に提供することで、売買契約を解除できるという効果を持った手付をいいます。
(3) 違約手付
当事者に債務不履行(違約)があった場合に、違約罰として没収されるという趣旨で交付される手付です。
不動産の売買契約における手付金は、売主・買主の特別の意思表示がない限り、解約手付と判断されることになります。
これは、以下の最高裁判例にもとづき確定されています。
【最高裁判所昭和29年1月21日判決】
売買の当事者間に手附が授受された場合において、特別の意思表示がない限り、民法557条に定めている効力、すなわちいわゆる解約手附としての効力を有するものと認むべきである。これと異る効力を有する手附であることを主張せんとする者は、前記特別の意思表示の存することを主張・立証すべき責任があると解するのが相当である。
※宅地建物取引業者が売主の場合、手付金は解約手付となります。
【宅地建物取引業法】
(手付の額の制限等)
第39条 宅地建物取引業者は、自ら売主となる宅地又は建物の売買契約の締結に際して、代金の額の十分の二を超える額の手付を受領することができない。
2 宅地建物取引業者が、自ら売主となる宅地又は建物の売買契約の締結に際して手付を受領したときは、その手付がいかなる性質のものであつても、買主はその手付を放棄して、当該宅地建物取引業者はその倍額を現実に提供して、契約の解除をすることができる。ただし、その相手方が契約の履行に着手した後は、この限りでない。
3 前項の規定に反する特約で、買主に不利なものは、無効とする。
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■ 手付解除とは
手付解除とは、買主から売主に対し、交付された手付金により不動産の売買契約を解除できる規定であり、買主は、手付金の放棄し、売主は手付金の倍の金額を返すことによって、不動産売買契約を解除することが可能となるものです。
この手付解除は、以下のとおり民法にて定められています。
【民法】
(手付)
第557条 買主が売主に手付を交付したときは、買主はその手付を放棄し、売主はその倍額を現実に提供して、契約の解除をすることができる。ただし、その相手方が契約の履行に着手した後は、この限りでない。
■ 手付解除する方法
解約手付により、締結した売買契約を解除する場合、売主、買主は次の対応を行うことになります。
①売主からの手付解除
売主が手付解除を行う場合、売主は、手付金の倍額を買主に支払うことによって、手付解除ができることになります。これを「手付倍返し」といいます。
方法としては、買主に対し内容証明郵便を送付して手付解除の意思を明らかにするとともに、手付倍返しの支払をします。買主が手付倍返しの受領を拒否する場合には、これを供託しておく必要があります。
②買主からの手付解除
買主が手付解除を行う場合、買主は、売買契約締結の際に売主に支払った手付金を放棄することで契約を解除できます。これを「手付流し」といいます。
方法としては、買主は売主に対し、内容証明郵便を送付して、手付解除の意思を明らかにすることになります。
※手付解除は、債務不履行を理由とする解除ではないため、損害賠償請求はできません。
ただし、相手方より手付解除の通知が場合、相手方に債務不履行がある場合、債務不履行を理由とする契約解除、これにともなう損害賠償請求は可能です。
■ 手付解除期日とは
民法の557条第1項には
買主が売主に手付を交付したときは、当事者の一方が契約の履行に着手するまでは、買主はその手付を放棄し、売主はその倍額を償還して、契約の解除をすることができる。
と規定されていますが、この「契約の履行に着手する」の要件とは、その判断が難しく、不動産売買の取引の実務では、民法の手付解除を補完する「手付解除期限」の特約を定めて契約を締結することが一般的です。
【売買契約書条文】
(手付金)
第●●条 売主、買主は、本契約を表記手付解除期日までであれば、互いに書面により通知して、解除することができます。
2 売主が前項により本契約を解除するときは、売主は、買主に対し、手付金等受領済みの金員を無利息にて返還し、かつ手付金と同額の金員を支払わなければなりません。買主が前項により本契約を解除するときは、買主は、売主に対し、支払い済みの手付金の返還請求を放棄します。
そして、この手付解除期日を決める目安となる標準的な期日は次のとおりです。ただし、買主と売主の合意によって決定されます。
●契約から決済までの期間が1ヶ月以内の場合尾:残代金支払い日の1週間前から10日前
●契約から決済までの期間が1ヵ月~3ヵ月の場合:契約日から1ヵ月前後
●契約から済までの期間が4ヵ月~6ヵ月の場合:契約日から2ヵ月~3ヵ月前後
●買主が住宅ローンを借り入れる場合:金融機関の融資承認の期間を含めた「融資利用による契約解除期日」の翌日以降
■ まとめ
不動産売買契約において手付金の授受に対し、手付解除として売主は手付の倍額を支払い、買主は手付を放棄して売買契約を解除することができ、その理由は必要ありません。
また、手付解除を申し出された場合、損害賠償の発生もありません。
実際の不動産売買では目安となる手付解除期日を設けることになりますが、安易な手付解除などを起こされないためにも手付金の額を少額にせず、売買代金の1割以上に設定するなど不動産仲介業者の役目も非常に重要です。
■記事の投稿者 飯島興産有限会社 飯島 誠
私は、予想を裏切るご提案(いい意味で)と、他者(他社)を圧倒するクオリティ(良質)を約束し、あなたにも私にもハッピー(幸せ)を約束し、サプライズ(驚き)のパイオニア(先駆者)を目指しています。
1965年神奈川県藤沢市生まれ。亜細亜大学経営学部卒業。(野球部)
東急リバブル株式会社に入社し、不動産売買仲介業務を経て、その後父の経営する飯島興産有限会社にて賃貸管理から相続対策まで不動産に関する資産管理、売買仲介、賃貸管理を行う。
コラムでは不動産関連の法改正、売買、賃貸、資産管理について、実務経験をもとにわかりやすく発信しています。
●資産管理(相続・信託・後見制度)につきましては、こちらをご参照ください。
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