■ 目次
- ■ はじめに
- ■ 権利義務の承継
- ■ 相続人へ包括承継される
- ■ 登記の申請方法
- ■ 相続税等課税の扱い
- ■ まとめ
■ はじめに
不動産の売買契約において、売買契約締結後、思いがけず売主、買主が死亡してしまった場合、売買契約の取り扱いはどのようなことになるのでしょうか。
今回は、万一、売買契約締結後、売主、買主が死亡してしまった場合の権利義務の承継や登記の問題等を考えてみます。
■ 権利義務の承継
不動産売買契約の締結後、売主、買主が死亡した場合、民法の規定に従うことになります。
原則、売買契約の締結後においては、契約の当事者である売主、買主、売主のどちらか一方が死亡した場合においても、締結した売買契約の効力は失われないことになります。
売買契約には売主、買主それぞれの権利と義務が生じますが、死亡と同時に相続が開始されることになり、死亡した方の相続人がその方の権利と義務を引き継ぐことになります。
不動産売買における売主の権利と義務は次の事項となります。
①買主に対して目的物の売買代金を請求する権利
②目的物の所有権を買主に移転する義務
③目的物の登記名義を買主に移転する義務
④目的物を買主に引き渡す義務
※売主の履行義務の注意点
売主の死亡により、相続人が売買代金の受領、不動産の引渡し、所有移転登記を行う必要があります。
この相続人が行う必要となる履行義務は遺産分割などによって特定の相続人のみが引継ぐことが出来ないことに注意してください。
例えば、売主の死亡により、その相続人が長男と次男であり、売主としての地位を承継することになります。
売主の履行義務というのは遺産分割協議により、分割ができない性質のものであり、遺産分割協議によって長男が履行義務を引き継ぐという取決めをしても、法的な効果が生じません。
よって、売主の履行義務については、原則、相続人全員が共同して手続きをすることになります。
不動産売買における買主の権利・義務は次の事項となります。
①契約不適合責任が発生した場合、追完請求、損害賠償請求、代金減額請求、契約解除などの権利
②目的物の引渡しを請求する権利(売買代金を支払う義務と同時に受ける権利)
③登記の移転を請求する権利(売買代金を支払う義務と同時に受ける権利)
④売主に対して目的物の売買代金を支払う義務
⑤目的物の所有権の登記手続を行う義務
売主、買主が死亡した場合のポイント
①売買契約締結済みの場合、売買契約は有効に存続する。
不動産売買契約が締結された場合、売主・買主にはそれぞれの権利と義務が発生することになります。
この権利と義務は、万一、当事者の一方が死亡した場合でも有効に継続することになります。
ただし、不動産売買契約において、売買契約書に特約として「売主・買主どちらか一方が死亡した場合、契約は終了」するなど定めていれば別ですが、と特約で定めておかない限り、売主・買主の死亡により売買契約が終了することにはならず、売買契約は有効に存続するのです。
■ 相続人へ包括承継される
不動産売買契約において売主の地位は、相続人に包括承継されます。
相続において民法の第896条には、「相続人は、相続開始のときから、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する」という記載があります。
相続には、相続人が亡くなった人(被相続人)の財産上の権利や義務のすべてを承継する、という効力があり、相続人が、不動産売買契約にもとづく義務を履行しなければなりません。
※売主の相続人により不動産売買が解除される場合がある。
不動産売買契約において手付解除が認められる場合があります。
買主としては、不動産売買契約書の手付解除およびその他の解除事由などに関する規定がないかを確認してください。
※買主の相続人の意向次第となる場合が多い。
買主の相続人に売買契約を引き継ぐ意思がなければ、手付放棄により契約を解除することが可能であり、融資のローン条項により契約を解除することもできます。
すでに融資の承認が得られている場合でもあっても、その承認は死亡した買主との間の承認であり、相続人との間のものではないため、金融機関では融資の申込みはなかったものとして扱われます。
したがって、相続人が売買契約を引き継ぐということであれば改めて相続人がローンの申込みを行ことになります。その点についての売主、金融機関との対応もあるため一旦白紙に戻す対応も考えられます。
■ 登記の申請方法
(1)売主が死亡した場合
売主が死亡した場合の登記申請の方法として次の2つが考えられます。
① 売主の相続人名義に相続による所有権移転登記を申請し、その登記が完了後において買主への売買による所有権登記を申請する方法
② 売主の相続人への相続登記を省略して直接死亡した売主から買主に所有権移転登記をする方法。
この2点を考えるうえでポイントとなるのが「売主の死亡点において所有権が買主に移転しているか否か」と言う点です。
不動産の売買契約書には「所有権移転時期の特約」が設けられています。その条文とは「買主が売主に対し、売買代金全額を支払った日に所有権が移転する」となります。
この特約が設けられていることにより、売主が死亡した時点において買主がまだ売買代金を支払っていなかった場合、所有権は売主にあるため、次の順となります。
① 相続登記(売主の相続人への所有権移転登記)
② 売買登記(相続人から買主への所有権移転登記)
そして、売主が死亡した時点において買主が売買代金を支払い終わっている場合。所有権は買主にある場合の登記
①売買登記(売主から買主への所有権移転登記)
※相続による所有権移転登記は省略可能となります。
※売買契約の存在を知らず、相続による所有権移転登記を完了した場合、相続登記を抹消せずに相続人から買主名義への売買による所有権移転登記が可能とされています。
(2)買主が死亡した場合
買主が死亡した場合の登記申請の基本的な考え方は売主の場合と同様であり、買主が死亡した時点で所有権は買主に移転していたかどうかがポイントとなります。
買主が死亡した時点において売主に対し、売買代金を支払っていなかった場合、所有権は売主にあるため、次の順となります。
① 相続登記(買主の相続人への所有権移転登記)
② 売買登記(売主から相続人への所有権移転登記)
そして、買主が死亡した時点において買主が売買代金を支払い終わっている場合。所有権は買主にある場合の登記は次のとおりです。
①売買登記(売主から買主への所有権移転登記)
※相続による所有権移転登記は省略可能となります。
■ 相続税等課税の扱い
売買契約締結後に相続が発生した場合
売買契約締結後、引渡し前に売主、買主の死亡により相続が発生した場合、相続人が取得する財産が相続税の財産評価についてどのように定められるのか、問題となります。これにより相続税の計算が異なります。
相続税の財産評価について定めている財産評価基本通達には、宅地の売買契約締結後に売主や買主に相続が発生した場合の相続税の取扱いについて特に定められていません。
しかし、実務上は、通達により被相続人である売主や買主に係る相続税の計算は、次のように取り扱われています。
(1)売主に相続が発生した場合の取扱い
売主の相続人が相続により取得する財産は、宅地ではなく相続発生時の宅地の売買契約にもとづき残代金請求権とし、買主から未収の売買代金をもって評価されることになります。
売買価格:1億円、相続税評価額:7,000万円、手付金1,000万円、残代金9,000万円の売買契約とした場合に手付金1,000万円を受領後において死亡した場合、相続税の課税対象は、相続税評価額7,000万円ではなく、手付金1,000万円と残代金請求権9,000万円となります。
※売買契約に伴う仲介手数料、印紙代、測量費などは相続発生時において未払のものについては、相続税の計算上、債務控除の対象となります。
※相続税の計算上、小規模宅地特例が適用できるか否か疑問が生じますが、このような売買契約の場合、小規模宅地特例は適用できない判断となります。
理由として相続人が相続により取得する財産は、残代金請求権の債権となるため、不動産ではないからです。
(2)買主に相続が発生した場合の取扱い
買主の相続人が相続により取得した財産は、売買契約に係る引渡請求権であり、その引渡請求権の価額は売買契約にもとづく売買金額となります。
また、売買契約により支払うべき売買金額およびその他の経費のうち、被相続人から承継した債務は、相続発生時における残代金支払債務として、相続税の計算上、債務控除の対象となります。
例えば、被相続人が1億円で宅地を購入する契約を結び、手付金1,000万円を支払った後に亡くなった場合は、売買金額1億円を宅地の引渡請求権として相続税の課税財産に計上し、売主に支払うべき残代金9,000万円は債務として債務控除の金額に含めることになります。
■ まとめ
不動産を所有する高齢者が不動産を売却するケースが多くなってきています。
不動産の売買契約後、決済前に売主が死亡するという場面も増えており、どのような問題が生じるかなど検討しておくことをオススメします。
■記事の投稿者 飯島興産有限会社 飯島 誠
私は、予想を裏切るご提案(いい意味で)と、他者(他社)を圧倒するクオリティ(良質)を約束し、あなたにも私にもハッピー(幸せ)を約束し、サプライズ(驚き)のパイオニア(先駆者)を目指しています。
1965年神奈川県藤沢市生まれ。亜細亜大学経営学部卒業。(野球部)
東急リバブル株式会社に入社し、不動産売買仲介業務を経て、その後父の経営する飯島興産有限会社にて賃貸管理から相続対策まで不動産に関する資産管理、売買仲介、賃貸管理を行う。
コラムでは不動産関連の法改正、売買、賃貸、資産管理について、実務経験をもとにわかりやすく発信しています。
●資産管理(相続・信託・後見制度)につきましては、こちらをご参照ください。
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