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4.62026

不動産売買の売主、買主の「地位承継」はどのようなものなのか、を考える

目次

  • ■ はじめに
  • ■ 地位承継とは■ 地位承継の主なケース
  • ■ 地位承継の主なケース
  • ■ 売主の承継で特に注意すべき点
  • ■ 買主の承継で特に注意すべき点
  • ■ 法人が介入している場合の注意点
  • ■ 実務的な処理方法
  • ■ まとめ

■ はじめに


不動産の売買において売買契約を締結した後、売主、買主を変更する場合があります。

例えば、売主が亡くなり相続が発生した場合、買主が法人で節税対策のため、法人で購入するつもりが節税対策の変更により法人の役員個人で購入することになった場合などです。

このように売主、買主が新たな売主、買主へ変更し、売買契約を引き継ぐことを「地位承継」といいます。

今回は、この「地位承継」についてどのような理由で地位承継が起こりえるのか、また注意しなければならない点などを含めて考えてみます。

■ 地位承継とは


地位承継とは、一言でいうと「契約上の主役を、別の人に入れ替えること」です。

不動産売買では契約締結後、売主や買主が別の人または法人に代わることをいいます。

また、単に代金を払う権利だけを引き継ぐのではなく、その契約に付随する「権利」と「義務」すべてを引き継ぐことが地位承継の特徴です。

買主の地位承継であれば、「物件を自分に登記してくれ」と言える権利、「残代金を全額支払う」という義務が生じることになります。

※売買契約における「地位承継」とは、売買契約の当事者である売主または買主が持つ権利や義務を、第三者へ包括的に引き継ぐ手続きをいいます。

主なケースは事業承継に伴う譲渡や不動産の売買であり、旧売主、旧買主である契約者がその契約から離脱し、新契約者が契約関係を完全に引き継ぐ形となります。

手続きには原則として、契約の相手方の同意が必要です。

■ 地位承継の主なケース


売買におけて「地位承継」が行われる主なケースを、「売主側」と「買主側」、さらに「法律上当然に発生するもの(包括承継)」と「合意で行われるもの(特定承継)」に分けて整理します。

1.売主側の地位承継ケース

売主の地位承継は、相続を思い浮かぶ方が多いとは思いますが、相続以外にも「契約上の地位の移転(地位譲渡)」や「法人の合併・分割」といったケースで発生します。 

大きく分けると、本人の意思に関わらず法律上当然に引き継がれる「包括承継」と、特定の合意によって引き継ぐ「特定承継」の5種類があります。

①相続・法人の合併(包括承継)

個人の売主が亡くなった場合の「相続人」や、売主企業が吸収合併された場合の「存続会社」が地位を引き継ぎます。

② 法人の合併・分割(包括承継)

会社(法人)が売主である場合、その会社が他社と合併したり、事業分割を行ったりすると、新しい会社が売主の地位を自動的に引き継ぎます。 

合併: A社がB社に吸収合併された場合、B社が売主になります。

会社分割: 売買契約を含む事業部門が別会社に分割された場合、その承継会社が売主になります。

③ 賃貸中の不動産売買における「貸主」の地位承継

これは少し特殊ですが、オーナーチェンジ物件(入居者がいる状態での売買)の場合、売買によって「売主」から「買主」へ、賃借人に対する「貸主(賃貸人)の地位」が法律上当然に承継されます。 

④ 契約上の地位の移転(特定承継) 

売主、買主、および第三者の三者の合意によって、売主の権利義務を丸ごと第三者に譲渡する場合です。 

具体例: A(売主)がB(買主)と契約中だが、物件の管理体制や資金繰りの都合で、契約途中にCへ「売主の立場」を譲りたい場合など。

⑤ 開発・分譲事業の譲渡(合意による承継)

マンションデベロッパーが資金繰り等の理由で、建設途中のプロジェクト全体を別の会社に譲り渡す場合などです。 

2.買主側の地位承継ケース

実務上、戦略的な理由で検討される場合が多くあります。

①親子間・グループ会社間での承継(特定承継)

個人が契約した不動産を、設立した「資産管理会社」に引き継がせる、あるいは親会社が契約した案件を子会社に承継させるケースです。

理由: 節税対策や、実際の運営主体に権利を移すため。

②転売・中間省略的な承継(特定承継)

当初の買主(A)が契約した物件を、最終的な買主(C)に直接引き渡したい場合に、買主の地位を譲渡します。

③法人の合併・分割(包括承継)

買主である会社が他社と合併したり、事業部門を分割したりした場合です。

事業譲渡(M&A)

会社の一部門を売却する際、その部門が取引先と結んでいた「仕入れ契約」や「販売契約」の買主・売主の地位を丸ごと他社に引き継ぎます。

⑤競売における承継

競売で落札(最高価買受人)した後に、その人が亡くなった場合、相続人がその「落札者の地位」を引き継いで代金を納付します。

1.売主の地位承継

売主の主な義務は「物件の引き渡しと移転登記」、権利は「代金の受領」です。 

承継の理由売主が個人の場合売主が法人の場合
一般承継【相続】
相続人が当然に地位を承継します。特約がない限り、相続人は契約を履行する義務を負います。
【合併】
吸収合併などにより、存続会社が当然に契約上の地位を承継します。
特定承継【契約譲渡】
買主の承諾が必要です。承諾があれば、第三者に売主の地位を譲ることができます。
【事業譲渡】
買主の承諾が必要です。単なる資産売却ではなく、契約主体の変更として扱われます。

2.買主の地位承継

買主の主な義務は「代金の支払い」、権利は「物件の引き渡しと登記請求」です。 

承継の理由買主が個人の場合買主が法人の場合
一般承継【相続】
相続人が地位を承継します。ただし、ローン利用が前提の場合、団信の有無や審査状況で履行が困難になるリスクがあります。
【合併】
法人が消滅しても、合併先の法人が契約を承継し、代金支払義務を負います。
特定承継【契約譲渡】
売主の承諾が必須です。特に買主の属性(資力や反社チェック)を重視するため、無断での名義変更はできません。
【事業譲渡】
売主の承諾が必要です。法人から個人(代表者など)への切り替えもこれに該当します。

※実務上の注意点(共通)

①契約書の「禁止条項」

売買契約書には「相手方の書面による承諾なく、権利・義務を譲渡してはならない」という禁止条項があります。

②手付金の扱い

地位が承継された場合、すでに支払われた既払金もそのまま承継先に引き継がれたものとみなされます。

③ローン条項

買主が個人の場合、本人が死亡すると融資が受けられなくなるため、特約(ローン条項)により契約が白紙解除になるケースが一般的です。

④登記の手続き

途中で承継が発生すると、中間省略登記の禁止に触れる可能性があるため、登記申請のスキーム(遺産分割協議書や合併証書の用意など)が複雑になります。 

■ 売主の承継で特に注意すべき点


買主側から見た注意すべき点として、以下のポイントが大切となります。

1.契約不適合責任の引き継ぎ

売主が承継により交代した場合においても物件に不具合があった場合、責任を誰が負うのかを明確にする必要があります。

2.既払金の充当と領収書の再発行・既存領収証の破棄

手付金、中間金を旧売主に支払い済の場合、その効力を新売主にも確認してもらう必要があります。

3.告知事項・重要事項の承継

物件に関する告知事項、重要な事項(事故物件、近隣トラブル、修繕履歴など)について引き継ぎしてもらう必要があります。

4.登記手続き(中間省略の可否)

所有権移転登記を「旧売主 → 新売主 → 買主」とするのか、「旧売主 → 買主」へ直接移転(地位承継)するのか、を合意のうえ、確認します。

5.振込先口座の変更

決済時の残代金の振込先が、旧売主から新売主に変わります。

■ 買主の承継で特に注意すべき点


売主側から見た注意すべき点として、以下のポイントが大切となります。

1.買主が個人から法人、法人から個人に変更される場合、金融機関によるローンの種類が変更となるため、金融機関との調整が必要となります。また、承継する時期にもよりますが、融資利用の期限に間に合わない場合も想定できます。

2.既払金をどのように清算するのか、新旧買主間での取り決めが必要です。

■ 法人が介入している場合の注意点


法人から個人の地位承継において、承継する個人がその法人の「取締役や代表者」である場合、利益相反取引として会社法上の問題が発生します。 

この問題は、地位承継(契約譲渡)により、法人が負っていた「代金支払義務」を役員個人が引き継ぐことや、法人が取得するはずだった「不動産所有権」を役員個人が取得することは、法人にとって不利益、役員にとって利益となる可能性があるためです。 

主な注意点と必要な手続きを整理します。

1.会社法上の承認手続き

取締役が自分自身と会社の間で取引を行う(または契約上の地位を譲り受ける)場合、事前に以下の承認を得る必要があります。 

①取締役会設置会社: 取締役会の承認

②取締役会非設置会社: 株主総会の承認 

※その法人が代表者一人の会社であっても、実務上はこの承認決議があったことを証する議事録の作成と提出が必須です。 

2.登記手続きへの影響

所有権移転登記の際、法務局に対して「利益相反取引の承認があったこと」を証明する議事録を添付書類として提出しなければなりません。 

この議事録の提出がない場合、登記申請は却下されるか、取引自体が無効とみなされる場合があります。 

3.税務上のリスク

利益相反の承認手続きとは別に、税務において以下の点に注意が必要です。

①譲渡価格の妥当性

法人から個人へ契約上の地位を譲渡する際、不動産の時価と売買価格に大きな差があると、法人から個人への「賞与」とみなされたり、法人側に「寄附金」としての課税が発生したりする可能性があります。

②手付金の処理

法人が支払済の手付金を個人が引き継ぐ場合、その清算を適切に行わないと贈与の問題が生じます。 

4.相手方(売主)の承諾

法人の内部手続きの完了のみでは地位承継はできません。契約の相手方である売主の書面による承諾がなければ地位の承継は成立しません。 

■ 実務的な処理方法


法人から個人への地位承継において、手付金・覚書・重要事項説明書(重説)の実務的な扱いは以下の通りです。

「法人からその役員個人」へ承継する場合、支払済みの手付金をどう清算するか、また、重要事項説明書の再説明が必要かがポイントになります。

1.手付金の扱い

法人が既に支払った手付金は、承継後の個人に引き継がれるため以下の点ご注意ください。

①清算の必要性

法人が支払った手付金をそのまま個人が利用する場合、法人は「手付金返還請求権」を個人に譲渡した形になります。実務上、個人は法人に対して手付金相当額を支払う(買い取る)ことで、帳簿上の整合性を取ります。

②贈与・賞与リスク

個人が法人に相当額を支払わずに地位だけ引き継ぐと、法人から個人への「贈与」や「賞与」とみなされ、課税対象となるリスクがあるため注意が必要です。 

2.契約上の地位承継に関する覚書

地位承継に覚書には以下の内容を記載します。 

①原契約の特定

元の売買契約の日付や物件名を明記します。

②承継日

何月何日をもって地位を移転するかを定めます。

③権利義務の移転

法人が持つ全ての権利(物件引渡請求権など)と義務(残代金支払義務など)を個人が引き継ぐことを明記します。

④売主の承諾

売主がこの承継に同意していることを証するため、売主も署名捺印します。

⑤既履行分の確認

支払済みの手付金が承継後の個人に充当されることを確認します。 

3.重要事項説明書

新買主に対し、改めての重要事項説明書の説明が必要になります。

①再説明の要否

宅地建物取引業法において新買主に対し、改めて重要事項説明書を説明のうえ、書面を交付する義務があります。

②内容の変更

法人から個人への承継により、買主の属性が変わります。例えば、個人が住宅ローンを利用する場合などは、ローン条項などの条件が変更されるため、それらを含めた再説明が不可欠です。

③省略のリスク

重要事項説明書の説明を省略した場合、後々トラブルになった際、仲介業者が宅地建物取引業法法違反に問われる可能性があります。 

■ まとめ


地位承継には、「抜ける人)」「入る人」「相手方」全員の同意が必要であり、必ず「地位承継に関する覚書」を交わすことが大切です。

また、法人から個人(役員)へ承継する場合、会社法に基づき、取締役会(または株主総会)の承認決議と議事録が必要となります。

その他既払金分をどのように処理するのか、取り決める必要があります。

そして、買主の承継に伴い、宅地建物取引業法上、改めて重要事項説明書の説明が必要です。

よって、地位承継には、「売主の承諾」「社内議事録」「金銭の清算(手付金等)」「重説の再説明」の4点セットは必ず必要となります。


■記事の投稿者 飯島興産有限会社 飯島 誠

私は、予想を裏切るご提案(いい意味で)と、他者(他社)を圧倒するクオリティ(良質)を約束し、あなたにも私にもハッピー(幸せ)を約束し、サプライズ(驚き)パイオニア(先駆者)を目指しています。

1965年神奈川県藤沢市生まれ。亜細亜大学経営学部卒業。(野球部)
東急リバブル株式会社に入社し、不動産売買仲介業務を経て、その後父の経営する飯島興産有限会社にて賃貸管理から相続対策まで不動産に関する資産管理、売買仲介、賃貸管理を行う。
コラムでは不動産関連の法改正、売買、賃貸、資産管理について、実務経験をもとにわかりやすく発信しています。

●資産管理(相続・信託・後見制度)につきましては、こちらをご参照ください。

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