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7.102026

なぜ今「貸主個人」ではなく「管理会社」へ家賃を振り込む契約が増えているのか?

目次

  • ■ はじめに
  • ■ 貸主が「法人」を絡ませる4つの理由(貸主向け)
  • ■ 借主(入居者)様から見た「振込先が法人」の疑問と安心(借主向け)
  • ■ トラブルを未然に防ぐ!管理会社が裏で徹底している「3つの安全弁」
  • ■ まとめ

■ はじめに


ここ数年、賃貸物件を新規で契約される場合や、契約更新のタイミングで、以下のような実務上の変更を目にすることが急激に増えています。

賃貸借契約書の『貸主』欄には貸主の個人名が書いてあるのに、賃料の『振込先』は貸主が代表を務める法人(不動産管理会社)の口座に指定されている

借主(入居者)様からすれば、「契約相手と振込先の名義が違うけれど、詐欺やトラブルではないのだろうか?」と少し不安に思われるかもしれません。また、地主・貸主の中には、

「周りの大家仲間がどんどん法人を作って賃料の受け取り方を変えているけれど、自分もそうすべきなのだろうか?」

と気になっている方も多いのではないでしょうか。

実は、この「個人から法人へ振込先を変える」という動きの背景には、昨今の日本の激しい「税制改正(インボイス制度など)」と「大増税時代」を賢く生き抜くための、緻密な戦略が隠されています。

今回は、不動産管理の視点から、この現象が起きている「裏事情」を、貸主様・借主様それぞれのメリット・デメリットを交えて分かりやすく説明します。

■ 貸主が「法人」を絡ませる4つの理由(貸主向け)


以前であれば、アパートやマンションの経営は「個人事業」として貸主が自分の個人名義の口座で賃料を受け取るのが一般的でした。

しかし、現在では税理士などの専門家が口を揃えて「法人化(不動産管理会社の設立)」を貸主に勧めています。そこには主に4つの強力な理由があります。

① 「個人の税金」は限界!税率の圧倒的な差(累進課税 vs 法人税)

日本で個人の所得(不動産収入)にかかる税金は「累進課税」という仕組みをとっています。

これは、「収入が増えれば増えるほど、税率が高くなる」というシステムです。所得税と住民税を合わせると、最高税率は約55%に達します。

つまり、苦労して満室経営を維持しても、賃料収入が増えれば増えるほど、その半分以上が税金として徴収されてしまいます。

一方で、「法人」にかかる税金(法人税など)は個人より優遇されています。

法人の場合、利益が年間800万円以下の部分については約15%という非常に低い税率が適用され、それ以上の利益が出た場合でも、全体の税率は約21%〜34%の範囲でほぼ一定に収まります。

個人の所得税・住民税: 最大約55%

法人の実効税率: 約15%〜34%

税理士の視点から見れば、

「個人口座でこれ以上賃料を受け取ると税金で大損する。それなら、税率の低い『法人』という器を一つ作り、そこに賃料収入を移動させた方が、手元に残るお金が圧倒的に多くなる」

となるのは当然の結論となります。

② 2023年スタートの「インボイス制度」への対抗策

ここ数年でこのケースが爆発的に増えた最大の引き金が、2023年10月に導入された「インボイス制度(適格請求書等保存方式)」です。この制度は、消費税の納税に関する大改革でした。

アパートやマンションのような「居住用」の家賃には消費税がかかりませんが、「店舗」「事務所」「テナント」「駐車場」「社宅(法人契約)」といった事業用の物件には消費税がかかります。


インボイス制度開始以降、これらの事業用物件を借りている企業(借主)は、貸主から「インボイス(適格請求書)」を発行してもらえないと、自分たちが納める消費税の控除(仕入税額控除)を受けられなくなり、実質的な増税を被ることになりました。

万一、貸主が個人のままで、消費税を国に納めていない「免税事業者」だった場合、企業(借主)側から「インボイスを発行できないなら、賃料を消費税分値下げしてほしい」「さもなければ解約して、インボイスを発行可能な別の物件に移る」と迫られるリスクが生じたのです。

かといって、貸主が個人のまま「課税事業者」になってインボイスを発行しようとすると、今度は個人としての複雑な消費税の確定申告や納税負担が重くのしかかります。

そこで、「個人の確定申告はややこしくしたくない。それなら、事業用物件の管理・請求業務を専門に行う『新会社(法人)』を設立し、その法人をインボイス登録事業者にして、会社として賃料を一括して受け取ろう」という対策をとる貸主が急増したのです。

③ 「大相続税時代」のため、家族への合法的な資産分散

現在、日本の団塊の世代が後期高齢者に達し、歴史上類を見ないほどの「大相続時代」を迎えています。
万一、貸主が個人口座で毎月賃料を貯め込んでいくと、その現金はすべて貸主個人の「遺産」になります。

貸主が亡くなった場合、その貯まった現金に対して、最高55%という相続税が課せられるため、次世代のために残した財産が、減ってしまうのです。

しかし、不動産管理会社(法人)を作っておけば、この問題を解決できます。

貸主本人が会社から無理にお金を全額受け取るのではなく、「配偶者」や「子ども」「孫」を法人の役員や従業員とし、彼らに毎月「役員報酬(給料)」という形で現金を分散して支払うのです。

これにより、以下のトリプルメリットが生まれます。

貸主個人の口座に余計な現金が貯まらない(将来の相続税が激減する)

家族は「給与所得控除」という税金上の優遇枠を使って、低い税金でお金を受け取れる

貸主が元気なうちから、合法的に次世代へ資産を移転(生前贈与のような効果)できる

④ 経費として認められる範囲が「ケタ違い」に広がる

個人の確定申告(青色申告など)では、経費として認められるのは「不動産賃貸業に直接関係のある費用(固定資産税、修繕費、火災保険料など)」に厳しく限定されます。

しかし、法人にすることで、ビジネスを円滑に進めるための「会社経営の経費」として、認められる枠が広がります。

家族への給与

個人事業では厳しい制限がありますが、法人なら適正額であれば全額経費。

出張日当・旅費

遠方の物件視察やセミナー参加の際、法人から個人へ「日当」を支給でき、これは法人の経費になりつつ、受け取った個人側はなんと「非課税(税金ゼロ)」になります。

社用車

個人ではプライベートとの按分(按分比率の計算)が面倒ですが、法人名義で購入すれば、管理業務に使う車として全額経費化しやすくなります。

法人保険・退職金

将来の修繕リスクや引退に備え、法人の高い節税効果を持つ保険への加入や、退職金の積み立てが可能になります。

このように、税理士が「必死になって法人を絡ませようとする」のは、貸主にとってメリットがあるからです。

■ 借主(入居者)様から見た「振込先が法人」の疑問と安心(借主向け)


ここまでは貸主側の都合(節税メリット)を中心にお話ししてきましたが、ここからは賃料を毎月支払う「借主(入居者)」の視点に立って考えてみます。

契約書の貸主名と、実際の振込先の会社名が違っているのを見ると、誰しも一度は「これって本当に大丈夫?」と不審に思うものです。

その疑問にストレートにお答えします。

よくある疑問:なぜ契約書の貸主ではない法人に振り込むの?

回答:貸主が税金を正しく納め、物件を健全に維持管理するための「合法的な代理受領」という仕組みです。

貸主が個人で物件を所有したまま、自分が作った管理会社(法人)に賃料の受け取り権限を委託している状態です。

銀行や金融機関でも広く認められている合法的な商取引ですので、安心して指定の口座にお振り込みいただいて問題はありません。

借主様にとっての具体的なメリット

振込先が法人になっていることは、借主様(特にお仕事で物件を借りている法人や個人事業主の方)にとっても大きなメリットがあります。

1.「インボイス対応の領収書・請求書」がスムーズに手に入る

あなたが事業用として店舗や事務所、社宅を借りている場合、貸主が「免税事業者(個人)」のままだと、あなたが納める消費税が増えて損をしてしまいます。

振込先が法人(インボイス登録事業者)になっていれば、その会社から適正なインボイス(登録番号付きの請求書や領収書)を発行してもらえるため、あなたの会社の経費処理や税金計算が非常にスムーズになり、税金面で損をすることがなくなります。

2. 物件の管理体制が安定する(夜逃げや放置のリスクが低い)

個人経営の頼りない貸主の場合、貸主個人が体調を崩したり、急に亡くなったりした際に、「賃料をどこに振り込めばいいか分からない」「建物の雨漏りが直してもらえない」といったトラブルが表面化します。

裏にしっかりとした「法人(管理会社)」が存在している物件は、資金管理や建物のメンテナンス計画がビジネスとしてシステマチックに行われているため、突然のトラブル時にも対応が早く、安心して長く住み続けることができます。

借主が唯一注意すべきポイント:口座名義の打ち間違い

振込先が個人名(例:イイジマ マコト)から法人名(例:カブシキガイシャイイジママネジメント)に変わる際、最も多いトラブルが「銀行での名義の打ち間違い(入力エラー)」です。

「カブシキガイシャ」を「カ)」にするのか「(カ」にするのか

会社名の前につくのか(前株)、後ろにつくのか(後株)

これらを一文字でも間違えると、銀行側で「受取人名義相違」となり、せっかく振り込んだ賃料が組戻し(差し戻し)になってしまいます。

結果として「賃料未払い」の督促状が届いてしまうという悲しいすれ違いが起きかねません。

初回振込時は、管理会社から渡された「口座情報の案内紙」の通りに、正確に入力するようご注意ください。

■トラブルを未然に防ぐ!管理会社が裏で徹底している「3つの安全弁」


「貸主の節税になる」「入居者にもインボイスのメリットがある」と、一見いいこと尽くしに見えるこのスキームですが、実は管理会社(不動産管理業者)が裏でしっかりと法律や税務のルールを守ってコントロールしていないと、一転して「税務署からお叱りをいただく違法状態」になってしまいます。

私たち管理会社が、貸主と入居者様の安心を守るために、裏側でどのような厳格な管理(安全弁)を行っているのか、その実務の一部をご紹介します。

安全弁①:「管理委託契約」という公的な約束の締結

ただ単に「名義が違う口座にお金を流す」だけでは、税務署から「個人Aさんの所得隠し(脱税)」や「会社への違法な贈与」と疑われてしまいます。

そうならないため、管理会社と貸主(個人A)の間で、「この法人は、大家さんAの代理として賃料を回収し、建物の管理業務を行う。

そして、適正な管理報酬を受け取る」という厳格な【管理委託契約書】を必ず事前に交わしています。

これにより、税務調査が入っても一発で合法性を証明できます。

安全弁②:契約書への「特約」の明記

借主(入居者)との間で結ぶ「建物賃貸借契約書」の中にも、口頭の約束ではなく、正式な条項(特約)として「賃料は貸主の個人口座ではなく、貸主が指定する代理受領業者(法人口座)へ支払うものとする」という文言を明確に組み込んでいます。

これにより、入居者様にとっても「ここに振り込むのが正しい契約なのだ」という法的な根拠と安心感を提供しています。

安全弁③:お金の「公私混同」の徹底排除

ここが最も重要なポイントです。

いくら貸主自身が作った会社だからといって、法人口座に貯まった賃料を、貸主が個人のサイフ代わりに使って(会社のカードで個人の買い物をしたり、勝手にお金を引き出したり)しまっては、法律上問題です。


管理会社は、法人口座に入った賃料から、会社の取り分(管理報酬)を1円単位できちんと計算し、残ったお金を定期的に貸主個人の口座へスケジュール通りに「送金(精算)」する仕組みをとっています。

この「会社の財布」と「個人の財布」を切り離す経理処理を、管理会社が黒子となって支えています。

■ まとめ


これからの時代の「スマートな賃貸経営」のかたち

賃貸借契約における「貸主が個人、振込先が法人」という一見奇妙な組み合わせは、決して怪しいものではなく、

「激しい増税時代の中で、大切な資産を守りつつ、借主(企業)にもインボイス制度のメリットを還元するための、極めて現代的でスマートな経営努力の結晶」

です。

貸主にとっては、

所得税・住民税・将来の相続税のトリプル節税

経費枠の拡大による、手元に残る資金(修繕原資)の最大化

借主(入居者)にとっては、

事業用家賃における消費税還付(インボイス対応)の安心

法人のバックアップによる、長期的に安定した住環境の確保

という、双方にとって長期的なメリットを生み出すwin-winの関係が構築されています。

私ども不動産管理業者は、このような複雑化する税制や法律の波を先読みし、貸主・入居者のどちらにも「安心・安全」な取引環境を提供できるよう、日々専門知識をアップデートしながら日々の実務を行っています。

もし、この記事をお読みの貸主の中で、「自分の物件もそろそろ法人化を考えた方がいいのだろうか?」「具体的なインボイスの対応や、契約書の書き換えはどうすればいいのだろう?」と悩まれている方がいらっしゃいましたら、ぜひお気軽に当管理会社までご相談ください。

地域の頼れるパートナーとして、税理士とも連携しながら、あなたに最適なシミュレーションとスムーズな移行手続きを全力でサポートいたします。

また、入居者様におかれましても、振込先の変更や名義について少しでもご不明な点やご不安がございましたら、いつでも管理会社の窓口までお気軽にお問い合わせください。


■記事の投稿者 飯島興産有限会社 飯島 誠

私は、予想を裏切るご提案(いい意味で)と、他者(他社)を圧倒するクオリティ(良質)を約束し、あなたにも私にもハッピー(幸せ)を約束し、サプライズ(驚き)パイオニア(先駆者)を目指しています。

1965年神奈川県藤沢市生まれ。亜細亜大学経営学部卒業。(野球部)
東急リバブル株式会社に入社し、不動産売買仲介業務を経て、その後父の経営する飯島興産有限会社にて賃貸管理から相続対策まで不動産に関する資産管理、売買仲介、賃貸管理を行う。
コラムでは不動産関連の法改正、売買、賃貸、資産管理について、実務経験をもとにわかりやすく発信しています。

●資産管理(相続・信託・後見制度)につきましては、こちらをご参照ください。

●ご売却をご検討の方は、こちらをご参照ください。

●賃貸をご検討の方は、こちらをご参照ください。

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