
目次
- ■ はじめに
- ■ 現状の市況分析と「新築アパートリスク」
- ■ アパート建築に代わる「不動産を活用した相続対策」
- ■ 「非不動産」を組み合わせるハイブリッド対策
- ■ 後悔しない相続対策のために、地主が今すぐ始めるべき「資産の健康診断」
- ■ まとめ
■ はじめに
アパート建築による相続対策の限界
長年、日本の不動産市場において、地主や資産家の「相続税対策」の王道といえば「収益アパートの建築」でした。
更地に賃貸住宅を建てることで、土地の評価額を「貸家建付地」として引き下げ、さらに建築資金の借入金をマイナスの財産として相殺する手法です。
不動産コンサル業界にとっても、これは極めて効率的かつ高単価なビジネスモデルとして定着していました。
しかし、現在の経済環境はこの前提を大きく揺るがしています。
第1の要因は、世界的なインフレや円安、人手不足を背景とした「建築資材・労務費の高騰」です。
新築アパートの坪単価は高止まりを続けており、かつてのような事業計画でのシミュレーションは通用しなくなっています。
第2の要因は、可処分所得の伸び悩みや人口減少に伴う「家賃水準の頭打ち」です。
建築費が1.3倍〜1.5倍に膨らんだとしても、入居者が支払える家賃をそれに比例して引き上げることは困難です。
結果として、表面利回りは急低下し、毎月のキャッシュフローが手元にほとんど残らない、あるいは最悪の場合、持ち出しになるという「収益性の危機」に直面しています。
不動産コンサルタントとして、今なお「節税になるから」という理由だけでお客様にアパート建築を勧めることは、将来的な経営破綻リスク(空室リスク・デッドクロス・金利上昇リスク)を顧客に背負わせることになりかねません。
今求められているのは、時代の変化を捉えた「アパート建築に頼らない、新しい相続対策」の提案力です。
そこで今回はのコラムでは、現在の市況を踏まえた具体的な代替案とその実践手法を考えてみます。
■ 現状の市況分析と「新築アパートリスク」
なぜ今、アパート建築が危険を伴うのか、その構造をまずは客観的な数字とリスク要因から整理します。
① 投資効率(ROI)の著しい悪化
建築費の上昇
木造・軽量鉄骨・RC(鉄筋コンクリート)を問わず、全ての構造で坪単価が上昇しています。
利回りの低下
建築費が上がっても、地方や郊外、あるいは都心の激戦区であっても賃料の大幅な引き上げは難しいため、投資利回りが4%〜5%台、あるいはそれ以下に低下するケースが続出しています。
② デッドクロス(黒字倒産状態)の前倒し到来
ローンの元金返済額が、税金計算上の「減価償却費」を上回る現象をデッドクロスと呼びます。
建築費が高騰した物件は借入金額が大きくなるため、毎月の元金返済スピードが早まります。
一方で、減価償却の期間が過ぎる、あるいは償却額が減少するにつれ、「手元に現金がないのに、帳簿上の利益に対して重い税金がかかる」という状態が通常よりも早い段階で訪れます。
③ 2024年4月「戸籍法改正」「相続登記義務化」と2026年の市況
近年、日本の相続を取り巻く法制度は大きく厳格化されました。
2024年の相続登記義務化に伴い、放置されていた土地の整理が日本全国で急ピッチで進んでいます。
さらに、2024年1月からは「タワマン節税」に対する規制(通達改正による相続税評価額の引き上げ)が導入され、行き過ぎた不動産による圧縮スキームには国税庁の厳しい目が光るようになりました。
つまり、「ただ不動産を買う・建てるだけで、実態とかけ離れた評価減を狙う手法」の賞味期限は終わりつつあるのです。
■ アパート建築に代わる「不動産を活用した相続対策」
では、不動産コンサルタントとしてどのような代替案を提示すべきでしょうか。
まずは不動産のプロとしての強みを活かせる、現物不動産の「組み換え」や「小規模活用」の手法から見ていきます。
① 「小規模宅地等の特例」を最大化する二世帯・店舗併用への建て替え
広大な土地に何戸ものアパートを建てるのではなく、親の自宅がある土地、あるいは1つの区画に絞って対策を講じる手法です。
特定居住用宅地等の特例の活用
親と子が同居する二世帯住宅、あるいは一定の要件を満たす「家なき子(持ち家を持たない親族)」が相続する場合、土地の評価額が330㎡まで80%減額されます。
メリット:
アパート1棟を建てるほどの巨額の借入金を背負う必要がありません。資材高騰の影響を最小限に抑えつつ、最も割引率の高い特例を確実に使うことができます。
② 既存収益物件の「インスペクション+リノベーション」による評価減維持
更地に新築するのではなく、親が既に所有している古い貸家やアパート、あるいは実家をリノベーションして賃貸市場に流通させる手法です。
仕組み
建物はリフォームを施して価値を高めても、固定資産税評価額は新築ほど跳ね上がりません。
一方で、賃貸に出すことで土地は「貸家建付地(約2割〜3割減)」、建物は「貸家(3割減)」としての評価減を適用できます。
メリット
新築の数分の一の費用(資材投入量)で済みます。初期投資が小さいため、賃料がさほど高く取れないエリアであっても、高い投資利回り(ROI)を確保しやすくなります。
③ 不動産の「区分化・小口化」による資産の組み換え(大都市圏へのシフト)
地方や郊外に広い土地(地価は低いが固定資産税がかかる、将来値下がりする土地)を所有している場合、それを維持し続けること自体がリスクになります。
手法
地方の未利用地や採算の合わない土地を売却(アセットライト化)し、その資金で「都心の区分所有マンション」や「不動産小口化商品(任意組合型)」を購入します。
メリット
都心の物件は賃体需要が安定しており、賃料の維持・上昇が期待できる。
現物不動産と同様に「路線価・固定資産税評価」ベースで評価されるため、現金で持っているよりも相続税評価額を大きく圧縮できる。
相続人が複数いる場合、1棟アパートと違って「1室ずつ」「1口ずつ」公平に遺産分割できるため、将来の親族間トラブル(争族)を予防できる。
■ 「非不動産」を組み合わせるハイブリッド対策
不動産コンサルタントがお客様から真の信頼を得るためには、不動産の売買や建築に固執せず、税金や現金の流れを見据えた総合的なコンサルティングが不可欠です。
次に、不動産以外の有効な対策を解説します。
① 「生前贈与」の徹底活用(暦年課税と相続時精算課税の選択)
2024年の税制改正により、生前贈与のルールが一部変わりました。
暦年贈与(年間110万円の基礎控除)における「相続前贈与の加算期間」が3年から7年へと段階的に延長されています。
これにより、亡くなる直前の駆け込み贈与の効果は薄れました。
対策
「より早期からの計画的な暦年贈与」、あるいは改正で年間110万円の基礎控除が新設されて使い勝手が向上した「相続時精算課税制度」の活用を提案します。
アプローチ
収益の上がらないアパートを建てて現金をロックするくらいなら、毎年確実に子や孫に現金を移転し、将来の相続財産そのものをスリム化する方が確実です。
② 特例贈与(教育資金・結婚子育て資金)の一括贈与
教育資金の一括贈与
孫一人につき最高1,500万円まで非課税。
結婚・子育て資金の一括贈与: 子や孫一人につき最高1,000万円まで非課税。
効果
まとまった現金を一瞬で、しかも無税で次世代に移転できます。
不動産のように流動性が低く売却しにくい資産とは異なり、子世代が「今、最もお金が必要な時期」に直接現金を渡せるため、顧客満足度が非常に高い対策です。
③ 生命保険(一時払終身保険等)の非課税枠の活用
仕組み
相続人が受け取る生命保険金には、「500万円 × 法定相続人の数」の非課税枠があります(例:妻と子2人なら1,500万円まで非課税)。
効果
銀行に眠っている現金を生命保険に変えるだけで、その枠の分だけ確実に相続税を減らすことができます。
さらに、生命保険金は「受取人固有の財産」となるため、遺産分割協議の対象外となり、納税資金としてすぐに現金化できるという強力なメリットがあります。
■ 後悔しない相続対策のために、地主が今すぐ始めるべき「資産の健康診断」
資材高騰という厳しい時代において、資産を安全に次世代へ引き継ぐためには、これまでの「土地があるからアパートを建てる」という受動的な姿勢から、「資産全体の最適化(アセットマネジメント)」へと意識を切り替える必要があります。
後悔しない相続対策を進めるための、具体的な3つのステップをご提案します。
ステップ1:ご自身の資産の「棚卸し(健康診断)」
多くの地主様が、ご自身の所有する土地の正確な実勢価値や、将来実際に発生する相続税の総額、そして「納税に必要な現金がいくら足りないか」を正確には把握していません。
まずは、信頼できる不動産のプロフェッショナルや税理士と共に、以下の「資産の健康診断」を行うことがスタートラインです。
土地ごとの路線価と実勢価格の乖離(ギャップ)の算出
将来の相続税の試算と、納税資金(現金)の過不足の見える化
ステップ2:「残すべき土地」と「手放すべき土地」の選別
すべての土地を無理に維持しようとするから、資材高騰のリスクに巻き込まれます。ご自身の資産を以下の3つに冷静に色分け(断捨離)してください。
維持すべき土地: 自宅など、小規模宅地等の特例(8割減)が使える核心的な土地。
小規模に活かす土地: 立地が良く、リノベーションや戸建賃貸などで無理なく回せる土地。
売却すべき土地: 将来、維持費や固定資産税だけで赤字になる、賃料の取れない郊外の土地。
ステップ3:納税資金の確保(キャッシュ・イズ・キング)
相続税対策で最も避けなければならない失敗は、「アパートを建てて評価額は下がったが、手元の現金がゼロになり、相続税が払えずに結局大切な土地を安値で手放す」という本末転倒な事態です。
不透明な現代の経済環境下では、「あえて一部の土地を売却し、現金(キャッシュ)や生命保険として保有しておく」という選択こそが、最も確実な防衛策になります。
■ まとめ
大切な資産を「負動産」にしないために
建築資材が高騰し、賃料が上がらない現状は、一見すると地主様にとって厳しい逆風に見えます。
しかし見方を変えれば、「これまでのハウスメーカー主導の、リスクの高いアパート建築に頼る必要がなくなった」という、資産整理の絶好のチャンスでもあります。
皆様の本当の目的は「アパートを建てること」ではなく、「先祖代々の、あるいはご自身が築いた大切な資産を、次の世代へ円満に、そして目減りさせずに引き継ぐこと」のはずです。
これからの時代に必要なのは、無理な新築による一か八かの節税ではありません。
既存資産のリノベーションによる投資効率の最大化
郊外から都心一等地への資産の組み換え
生前贈与や生命保険を交えた、総合的なバランス調整
これらを総合的に見極め、皆様の10年後、20年後の暮らしと家族の笑顔に寄り添ってくれる「真の不動産パートナー」を見つけることが、令和の相続対策を成功させる最大の鍵となります。
大切な資産を次世代の負担(負動産)にしないために、まずは一歩、お持ちの土地の「健康診断」から始めてみませんか。
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■記事の投稿者 飯島興産有限会社 飯島 誠

私は、予想を裏切るご提案(いい意味で)と、他者(他社)を圧倒するクオリティ(良質)を約束し、あなたにも私にもハッピー(幸せ)を約束し、サプライズ(驚き)のパイオニア(先駆者)を目指しています。
1965年神奈川県藤沢市生まれ。亜細亜大学経営学部卒業。(野球部)
東急リバブル株式会社に入社し、不動産売買仲介業務を経て、その後父の経営する飯島興産有限会社にて賃貸管理から相続対策まで不動産に関する資産管理、売買仲介、賃貸管理を行う。
コラムでは不動産関連の法改正、売買、賃貸、資産管理について、実務経験をもとにわかりやすく発信しています。

●資産管理(相続・信託・後見制度)につきましては、こちらをご参照ください。
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