
目次
- ■ はじめに
- ■ 貸主、連帯保証人、管理会社として何をするべきか
- ー貸主として何をするべきか
- ー連帯保証人として何をするべきか
- ー管理会社として何をするべきか
- ■ 責任負担
- ー貸主の責任範囲
- ー連帯保証人の責任範囲
- ー管理会社の責任範囲
- ■ まとめ
■ はじめに
賃貸借契約において、借主が出火元となって火災が発生し、借主が死亡した場合も想定できます。
借主が失火元であり、死亡した場合、その賠償は連帯保証人が行うことになります。
しかし、貸主の責任、管理会社の責任はどうなるのでしょうか。
そこで、今回は、借主が出火元となり、その火災により借主が死亡した場合の貸主、連帯保証人、管理会社として何を行うべきなのか、または賠償の責任はあるのか、など貸主、連帯保証人、管理会社の立場から見て考えてみます。
■ 貸主、連帯保証人、管理会社として何をするべきか
●貸主として何をするべきか
貸主は、建物の所有者および賃貸借契約の当事者として、法的な責任を整理しつつ、事態を収束させる役割を担っているため、行うべきことは以下のとおりです。
1. 現場の安全確保と被害拡大の防止
現場保全として消防署の調査が完了するまで現場を維持し、建物の崩落、飛び火、不法侵入、近隣への粉塵飛散などの2次被害を防ぐための囲いや施錠を行うことも場合により必要となります。
また、二次被害を防ぐため、ガス・電気・水道の供給停止や安全確認などを業者に依頼します。
2. 証拠の確保と火災原因の特定
消防署や警察による火災原因調査に立ち会うことになります。
また、保険会社への保険金の請求や市町村などの税金の減免、公的手続きに必要となる「罹災証明書」を管轄の消防署で取得します。
3. 貸主(所有者)による加入している保険会社への火災保険(建物)の事故受付
貸主(所有者)本人が建物にかけている火災保険の事故受付を直ちに行います。また、 保険会社が派遣する損害保険鑑定人の調査を受け、建物の損害額を確定させます。
4. 契約関係の整理と相続人の特定
借主の死亡により、賃貸借契約の解約や残置物処分の同意を得るために戸籍謄本等から相続人を特定します。
※管理会社に確認を取り、管理会社と連携された方がスムーズです。
連帯保証人への通知のうえ、賃貸借契約の契約にかかわる今後の債務(未払賃料や損害)などを相談します。
※管理会社に確認を取り、管理会社と連携された方がスムーズです。
5. 隣人・近隣住民への対応
出火原因とは別に建物の所有者として近隣住民の方への説明とお詫びを行うのが一般的です。
また、隣接する部屋や被害が出ている部屋に対し、その修繕範囲や費用の負担について、その対象となる借主へ自身がかけられている火災保険会社への連絡をお願いします。
※管理会社に確認を取り、管理会社と連携された方がスムーズです。
【ご注意いただきたい事項】
・相続人や連帯保証人の同意なく、亡くなった借主の遺品を勝手に撤去・処分すること。
・2020年4月以降の契約で「極度額(上限額)」を超えた額を連帯保証人に無理やり請求すること。
●連帯保証人として何をするべきか
1. 2020年4月以降の賃貸借契約書の場合、連帯保証人が負う「極度額」が記載されていますので確認することになります。
※2020年4月以前には極度額の制限はありません。
2. 管理会社に「保険」の状況を確認する
借主が加入していた火災保険(借家人賠償責任保険)の契約内容により、連帯保証人の負担額は全く違います。よって至急管理会社へ連絡を行い、「借主の保険の有無・有効性・証券番号」を問い合わせる必要があります。
3. 借主相続人の「相続放棄」の動向を確認する
借主の相続人が「相続放棄」をすると、遺品整理や原状回復の責任がすべて連帯保証人に回ってくる可能性が高まります。
※相続人が連帯保証人の場合、相続族放棄を行っても連帯保証人の責めは放棄できません。
※連帯保証人と相続人が異なる場合、相続人の許可なしで遺品関係を処分した場合、後々相続人とトラブルになる場合があります。
4. 消防署から「火災原因」の結果を待つ
「借主の失火」または「建物の何らかの原因による」ものなのかにより対応が異なります。
万一、火災の原因が漏電などが原因の場合、失火責任は「貸主(所有者)」となります。この場合、連帯保証人には責任は発生しません。
【ご注意いただきたい事項】
管理会社や貸主(所有者)から書類へのサインは慎重に行ってください。一度確認を行ってからでも遅くありませんので内容を確認のうえ、署名・捺印してください。
●管理会社として何をするべきか
1. 現場の初動対応と証拠確保
消防署・警察の調査完了まで立ち入りを制限する必要が生じるため、二次被害(建物の崩落、飛び火、不法侵入、近隣への粉塵飛散)を防ぐための養生や施錠を業者に手配します。
※場合により貸主の代理として管轄の消防署で「罹災証明書」の発行手続きを案内または代行します。
2. 火災保険の事故受付
借主が契約していた「借家人賠償責任保険」の保険会社へ事故報告を行います。
※借主死亡の場合でも、相続人や連帯保証人が手続きを引き継げるよう調整します。
貸主の「建物火災保険」の事故受付も同時に進め、損害保険鑑定人の立ち会いスケジュールを調整します。
3. 相続人の調査と意思確認
借主の相続人に連絡が取れる場合には、状況説明、現地に来られるか、または最終的に相続するかの否か、などの意向を確認します。
※トラブルを防ぐため、残置物(遺品)の処分や契約解除について、相続人および連帯保証人の同意を得るための書面を作成します。
4. 損害額の算定と費用の調整
複数の業者から、原状回復(火災復旧)費用または解体費用、遺品整理費用、消臭・消毒費用の見積もりを取ります。
※消防署の調査結果にもとづき、保険金で賄える額、相続人が負担すべき額、連帯保証人に請求する額を法的根拠にもとづき整理します。
5. 連帯保証人への「適切な」説明
連来保証人の保証額の範囲は2020年4月の民法改正により大きな差が生じることになります。連帯保証人には法的根拠にもとづいて説明を行う必要が生じます。
■ 責任負担
●貸主の責任範囲
貸主(所有者)の責任範囲は、火災の原因が「建物の不備」か「借主の失火」かによって、異なります。
1.貸主が責任を負わない場合
原因が借主の不注意(失火)の場合、隣接する部屋の住民への賠償責任は発生しません。
これは、失火責任法により、火元に「重大な過失」がない限り、不注意や過失によって火災(失火)を発生させてしまった人は隣人への賠償責任を負いません。
これは貸主も同様であり、隣接する部屋の住民への家財やホテル代を貸主が補償する義務もありません。
そして、借主の過失で火災が発生した場合、貸主は借主(または連帯保証人)に対して修繕を請求できる立場であり、貸主が修繕する義務は発生しないのです。
2. 貸主が責任を負うケース(工作物責任)
火災の原因が建物の構造的欠陥(例:コンセント背後のトラッキング現象、老朽化した配線の漏電、消防設備の未設置)である場合、貸主は工作物責任を負うことになります。
この場合、借主や隣接する住民に対し、建物の管理に瑕疵(欠陥)があったことにより貸主は無過失責任となり、借主の死亡や借主や隣接する住民の損害に対する賠償責任を負う可能性があります。
※連帯保証人は、費用を負担する必要はありません。
3. 貸主が自己の負担において負担すべき範囲
責任の所在とは別に、建物の所有者として以下の対応(費用負担)を先行させることが大切です。
廊下や階段など、他の入居者の安全に関わる部分の修繕。
※貸主のかけている建物火災保険で建物を修理・修繕のうえ、保険会社が借主(連帯保証人)へ費用を請求(求償)することになります。
4. 貸主が連帯保証人に対し、請求できる範囲
失火原因が借主の場合、貸主は以下を請求する権利があります。
① 原状回復費用(保険で足りない分)
② 建物の価値下落分
③ 清掃・残置物撤去費用
●連帯保証人の責任範囲
連帯保証人が負う責任の範囲は、「契約した時期」と「火災保険の有無」によって異なります。
1. 借主が貸主(所有者)に対し、負うべき義務をすべて引き継ぎ次ぐことになります。
具体的には、
原状回復費用( 火災で焼けた部屋を元の状態に戻す工事費)、
残置物撤去費用( 焼けた家財や遺品の整理・処分代)、
未払賃料(死亡時までの賃料や、明渡しが完了するまでの損害金)、
損害賠償金(貸主(所有者))が建物自体に受けた損害への補填です。
2. 民法改正後の極度額
2020年4月1日以降に締結された建物賃貸借契約は、連帯保証人の責任には上限としての極度額が設定されています。
この極度額の記載がある場合、例えば損害が1,000万円でも、極度額が500万円として決められている場合、極度額500万円を超える支払い義務は生じないことになります。
※2020年3月以前の契約: 極度額の定めがなくても、原則として全額の責任を負います。
3. 火災保険(借家人賠償)による相殺
借主は通常、火災保険(借家人賠償責任保険)に加入しているはずです。
貸主(所有者)への賠償はこの保険から支払われることになります。
このため、保険が適用される範囲内で賠償が賄える範囲の場合、連帯保証人として負担は発生しないことになります。
ただし、保険が適用されない場合(保険未加入や失効)、または重過失(故意に近い不注意)などと判定された場合、保険が下りず連帯保証人に全額請求が来ることになります。
4. 隣接部屋の住民への責任範囲
隣人の家財やホテル代については、原則として責任は発生しません。
これは、失火責任法により、借主に「重大な過失」がない限り、隣接部屋の住民への賠償義務は発生しないため、連帯保証人も支払う必要はありません。
※隣接部屋の住民の火災保険で賄うことになります。
●管理会社の責任範囲
管理会社の責任範囲は、管理者として適切に行動を起こしたか、否かによります。
1. 管理会社が責任を問われない場合
火元が「借主の不注意(失火)」である場合、管理会社に落ち度はないため、損害賠償を負担することはありません。また、隣接部屋の住民に足しての家財やホテル代を払う義務も発生しません。
※建物の修繕: 修理費用を負担することもありません。
2. 管理会社が「法的責任」を問われる場合
「管理上の重大な過失」があった場合に限り、貸主や借主(遺族・連帯保証人)から損害賠償を請求される可能性があります。
① 火災報知器や消火器の設置・点検を怠り、そのことが原因で火災が拡大したと証明された場合。
② 借主から電気配線など問題が生じている旨の報告を受けていたにもかかわらず放置し、それが原因で火災(漏電等)が起きた場合。
③ 借主の保険更新手続きを管理会社が忘れており、無保険状態になっていたために損害がカバーされなかった場合。
【ご注意いただきたい事項】
金銭的な賠償責任とは別に、契約に基づき以下の責任が発生する場合があります。
① 各保険会社への速やかな事故報告。
② 借主の死亡により、借主の戸籍調査などを行い、相続人を確定のうえ、遺品等の処分、契約解除の合意を取得すること。
③ 連帯保証人へ発生した損害額を法的な根拠に基づいての説明。
■ まとめ
借主の失火について考えてみましたが、貸主、連帯保証人、管理会社が協力して進めることが大切です。
特に以下の3点は貸主、連帯保証人、管理会社が勝手に動かず、以下のように進める必要があります。
① 保険手続きの連携(最優先)
管理会社が保険の有効性を確認のうえ、貸主・連帯保証人と情報を共有をすること。そして保険金でどこまでの範囲を補うことができるのか(修理代・遺品整理代)を明確にすること。
② 相続人と連帯保証人の意思疎通
親族が「相続放棄」を行うのか、または遺品を引き取るのか、確定を待たずに連帯保証人が片付けを行うと相続トラブルになるため、必ず書面での合意を行うこと。
③ 消防調査結果の共有
「借主の失火」か「建物の欠陥」かにより賠償の主体が変わるため、消防署の判定が出るまで、責任の所在は決めつけをせずに待つこと。
失火と借主の死亡という極めて複雑な法的状況であり、誰か一人が勝手に判断して進めると、後から巨額の賠償トラブルや相続トラブルに発展するリスクがあります。
円満かつ適正な解決には、関係者による「情報の共有」と「相互協力」が不可欠です。
■記事の投稿者 飯島興産有限会社 飯島 誠

私は、予想を裏切るご提案(いい意味で)と、他者(他社)を圧倒するクオリティ(良質)を約束し、あなたにも私にもハッピー(幸せ)を約束し、サプライズ(驚き)のパイオニア(先駆者)を目指しています。
1965年神奈川県藤沢市生まれ。亜細亜大学経営学部卒業。(野球部)
東急リバブル株式会社に入社し、不動産売買仲介業務を経て、その後父の経営する飯島興産有限会社にて賃貸管理から相続対策まで不動産に関する資産管理、売買仲介、賃貸管理を行う。
コラムでは不動産関連の法改正、売買、賃貸、資産管理について、実務経験をもとにわかりやすく発信しています。

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