
■ 目次
- ■ はじめに
- ■ 滅失・損傷とは
- ■ 危険負担とは
- ■ 滅失・毀損の場合の危険負担
- ■ まとめ
■ はじめに
不動産の売買において売買契約締結後、引渡し時までに天災地変等で滅失・毀損し引渡しが不可能となった場合、本契約が解除できるのか、不安になるものです。
そこで今回は、不動産の売買契約おいて引渡し時までに天災地変等で引渡しが不可能となった場合、どのような対応となるのかを、考えてみます。
■ 滅失・損傷とは
不動産の売買契約書には「引渡し前の滅失・損傷」について取り決めがあります。
この「引渡し前の滅失・損傷」とは、売買契約の締結後から物件を引き渡すまでの間に、自然災害や予期せぬ事由によって物件が損なわれることを言い、売買契約書において売主と買主の対応を明確にしています。
自然災害である地震や台風などの損傷は、売主と買主のどちらの責任でもないため、「危険負担」という法律のルールに従って対応が決定されます。
自然災害の具体例としては、暴風、豪雨、豪雪、洪水、高潮、地震、津波、噴火その他の異常な自然現象により生ずる被害が挙げられます。
■ 危険負担とは
売買契約を締結した場合、その物件が引渡し前に滅失・損傷した場合、その危険(損害)を誰が負担するのか、が問題となります。
「危険負担」とは、物件の滅失や損傷が発生した際に、損害や責任をどちらが負担するかを明確にすることです。
この問題として民法では、
①買主(債権者)が滅失・毀損した場合であっても売買代金の全額を支払うべきとする債権者主義
②売主(債務者)が滅失・毀損した場合、売買代金の請求はできない、とする債務者主義
の考え方があります。
改正前の民法(改正前民法534条1項民法改正により削除)では、不動産など特定物の場合、①の債権者主義を原則としていました。
しかし、この原則が売主の占有下にある場合に滅失・毀損しても売買代金を全額請求できるという不公平さがあり、一般的な感覚と異なり、常識的とはいえませんでした。
そのために、売買契約書の特約において代金債務を消滅させるとの取決めがなされ、修正されていました。
【民法改正前の民法適用条文】
(債権者の危険負担)
第534条 特定物に関する物権の設定又は移転を双務契約の目的とした場合において、その物が債務者の責めに帰することができない事由によって滅失し、又は損傷したときは、その滅失又は損傷は、債権者の負担に帰する。
【民法改正以前の売買契約書の条文】
(引渡し完了前の滅失・毀損)
第○○条 売主、買主は、本物件の引渡し完了前に天災地変、その他売主、買主いずれの責にも帰すことのできない事由により、本物件が滅失または毀損して本契約の履行が不可能となったとき、互いに書面により通知して、本契約を解除することができます。ただし、修復が可能なとき、売主は、買主に対し、その責任と負担において修復して引渡します。
2 前項により本契約が解除されたとき、売主は、買主に対し、受領済みの金員を無利息にてすみやかに返還します。
■ 滅失・毀損の場合の危険負担
2020年の民法の改正により、建物の滅失が建物の引渡しを受ける前であれば、買主は売買代金を拒むことができ、契約を解除できることになりました。
また、併せて支払い済みの代金の返還を求めることができるようになりました。
しかし、建物の滅失が、建物の引渡し完了の後の場合には残代金の支払いを免れず、支払い済みの代金の返還を求めることはできませんの注意が必要です。
【2020年民法改正ポイント】
①危険負担の具体化
売主が修復できない場合や買主が契約解除を行える条件が明確になりました。たとえば、修復に過大な費用がかかる場合や修復が不可能と判断された場合が対象です。
【民法改正後の民法適用条文】
(債務者の危険負担等)
第536条 当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる。
2 債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。この場合において、債務者は、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。
②契約解除の手続き
修復が難しい場合の契約解除の流れが明示され、双方がスムーズに対応できる仕組みが整いました。
【民法改正後の民法適用条文】
第542条 次に掲げる場合には、債権者は、前条の催告をすることなく、直ちに契約の解除をすることができる。
1 債務の全部の履行が不能であるとき。
③返金手続きの規定
契約解除後に売買代金や手付金が迅速に返還されることが規定されました。
【民法改正後の民法適用条文】
(目的物の滅失等についての危険の移転)
第567条 売主が買主に目的物(売買の目的として特定したものに限る。以下この条において同じ。)を引き渡した場合において、その引渡しがあった時以後にその目的物が当事者双方の責めに帰することができない事由によって滅失し、又は損傷したときは、買主は、その滅失又は損傷を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。この場合において、買主は、代金の支払を拒むことができない。
2 売主が契約の内容に適合する目的物をもって、その引渡しの債務の履行を提供したにもかかわらず、買主がその履行を受けることを拒み、又は受けることができない場合において、その履行の提供があった時以後に当事者双方の責めに帰することができない事由によってその目的物が滅失し、又は損傷したときも、前項と同様とする。
【民法改正後の売買契約書の条文】
(引渡し完了前の滅失・損傷)
第○○条 売主、買主は、本物件の引渡し完了前に天災地変、その他売主、買主いずれの責にも帰すことのできない事由により、本物件が滅失または損傷して、修補が不能、または修補に過大な費用を要し、本契約の履行が不可能となったとき、互いに書面により通知して、本契約を解除することができます。また、買主は、本契約が解除されるまでの間、売買代金の支払いを拒むことができます。
2 本物件の引渡し完了前に、前項の事由によって本物件が損傷した場合であっても、修補することにより本契約の履行が可能であるときは、売主は、本物件を修補して買主に引渡します。
3 第1項の規定により本契約が解除されたとき、売主は、買主に対し、受領済みの金員を無利息にてすみやかに返還します。
■ まとめ
不動産の売買では、原則として売買契約後から引渡し時までに売買の目的物が滅失・毀損した場合の契約では、特約が設けられ、目的物が滅失・毀損した場合において契約を解除できること、売買代金の支払い債務は消滅するなどの条文が記載されています。
よって、民法の改正前後においても売主、買主は民法の改正前と変わらずに売買契約を締結することが出来、実際には影響を受けないはずです。
しかし、ここ数年の自然災害による被害状況等を考えると、危険負担の問題は重要な事項と言えます。
売買契約書に記載されている「危険負担」に関する条文にも変化があることがわかるはずです。
売買契約に記載されている条文などが法律的にどのような意味をもっているのかを理解しておくことは、宅地建物取引業者を含めて大切な事項です。
■記事の投稿者 飯島興産有限会社 飯島 誠

私は、予想を裏切るご提案(いい意味で)と、他者(他社)を圧倒するクオリティ(良質)を約束し、あなたにも私にもハッピー(幸せ)を約束し、サプライズ(驚き)のパイオニア(先駆者)を目指しています。
1965年神奈川県藤沢市生まれ。亜細亜大学経営学部卒業。(野球部)
東急リバブル株式会社に入社し、不動産売買仲介業務を経て、その後父の経営する飯島興産有限会社にて賃貸管理から相続対策まで不動産に関する資産管理、売買仲介、賃貸管理を行う。
コラムでは不動産関連の法改正、売買、賃貸、資産管理について、実務経験をもとにわかりやすく発信しています。

●資産管理(相続・信託・後見制度)につきましては、こちらをご参照ください。
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